第一六食 家森夕とイケメン女子③

「それじゃあ改めまして。歌種うたたね大学法学部二年の青葉蒼生あおばあおいでーす。好きなものはお酒、嫌いなものは勉強。よく勘違いされるけどれっきとした女だよ。よろしくねー」

「よ、よろしくお願いします」


 我が家のミニテーブルを挟んで、飲んだくれ大学生とお隣の女子高生が挨拶を交わす中、俺は一度買い物に出た青葉が渡してきた大量の缶飲料が入ったビニール袋を見下ろす。


「コイツ、本当に酒ばっか買ってきやがって……」

「大丈夫大丈夫。真昼まひるちゃんでも飲めそうな度数が低いチューハイとかも買ってきたから」

「だから子どもに酒を飲まそうとするな!」


 うちの冷蔵庫にはとても入りきらない量の酒をその辺の床に置くと、青葉がニヤニヤと俺の顔を見てくる。


「それにしてもゆうも意外にやるよねぇ。こーんな可愛い子、どうやってタラシこんだのさ?」

「変な言い方してんじゃねえ。真昼はただのお隣さんだって言ってんだろ」

「うっそだー。男が可愛い女子高生を家に連れ込むのにやましい気持ちがないわけないじゃん。気を付けなよ、真昼ちゃん。こういう男に限って実は虎視眈々こしたんたんと襲う機会を狙ってるんだからね?」

「お、おそっ……!?」

「青葉!」

「うひゃっ、怒られちゃった、ごめんなさーい」


 まったく反省していない顔でケラケラ笑う青葉にため息をつくと、顔を赤くした真昼が「で、でも」と口を開く。


「お、お兄さんはそんな人じゃないと思います。初めて会った時も見ず知らずの私を助けてくれたし、それにいつもすごく優しいから……」

「ま、真昼……」


 な、なんて良い子なんだ……このすさんだ現代社会にこんな良い子が居るなんて……!

 俺が感動のあまり目尻を拭っていると、空気の読めなさに定評のある青葉が「えー、つまんなーい」と声を上げた。


「なんで夕がこんな可愛い子にそんな信頼されてんのさー。私でも後輩の女の子と仲良くなるのはいつも大変なのにー」

「お前の場合、第一印象みための割に中身が残念そんなだからだろ」

「な、なにそれ!? つまり――私は見た目だけなら最高に可愛いってこと!? やーんっ、照れるっ!」

「ポジティブシンキングにも程があるだろ」


 中身が残念と言われたことを悔しがれよ。なんで「べた褒めされた」みたいな喜び方してんだコイツ。


「でも真昼ちゃん、今日は夕となんの約束してたの? 言っとくけどこの家、なんにもなくてつまんないよ?」

「お前が言うな」

「えっと、私、お兄さんに料理を教えてもらっていて……」

「料理ぃ~? えっ、夕、キミってそんな料理上手だったっけ? 初耳なんだけど」

「うるさいな……本当に初歩的なもんだよ。カレーとか炒飯とか……あとパスタとか」

「あっ、こないだ作ったペペロンチーノ、すごく美味しかったですよねぇ」

「君は本当、なに食っても『すごく美味しい』って言うね」

「だって全部すごく美味しいですから」


 キラキラと瞳を輝かせる真昼。なんとも頼もしいものだ。多少失敗した料理だろうと美味しく食べられるというのは一種の才能ではないだろうか。その才能を活かせそうな職業は、残念ながらあまり思い付かないが。

 俺がそんな益体のないことを考えていると、青葉が「あっ、じゃあさじゃあさ!」と人差し指を立てた。


「今日の夜ご飯は私がなにか作ってあげるよ」

「は、はあ?」


 いきなりなにを言い出すんだ、コイツは。


「話聞いてたか? 真昼は料理を練習しに来てんだっつの」

「そんな堅いこと言わないでよ。作るばっかりが練習になるとは限らないんだしさ。ねっ、いいよね、真昼ちゃん?」

「え。は、はい。お兄さんと青葉さんがそれでいいなら……」

「お、おい真昼。コイツに遠慮なんかしなくても――」

「はい決まりー! じゃあちょっと冷蔵庫の中を見させて貰うねー」

「お前はもっと遠慮しろよ! 自由か!」


 鼻歌混じりに台所の方へ向かった青葉の背中に叫んでから、俺はハア、と一つ息を吐く。


「……ごめんな。ああいう奴なんだ」

「いえ、私は大丈夫ですよ。……でも青葉さんってお料理上手なんですか?」

「あー、まあな。つってもメシを作るのが上手いって感じでもないんだけど……」

「?」


 俺の言葉を聞いて、真昼はきょとん、と小さく首をかしげた。

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