第七食 旭日真昼とお友だち
★
私立
得意科目は国・数・英・理・社の五教科全般、苦手科目は家庭科。
好きな食べ物は美味しいもの、嫌いな食べ物は特になし。
生活態度は至って真面目であり、中学時代を含めて問題行動は一切なし。
交遊関係も非常に広く、その無邪気で分かりやすい性格ゆえに男女問わず仲の良い生徒は多い。
一方で少々抜けている部分があり、中等部一年の春より一人暮らしをしたいと申し出たところ、両親から大反対された過去を持つ――
以上が彼女――
およそどこにでもいるような普通の女子高生。強いて言えば若干同年代の女子と比べると子どもっぽい部分があるものの、彼女のそういった純粋な面に癒しを感じる生徒は多い。
そう、旭日真昼は周囲をぐいぐい引っ張っていくようなクラスの中心人物的存在ではなく、ただそこに居るだけで場を
「ねえねえ聞いて、ひよりちゃん。私、今日の放課後、大学生のお兄さんのお
「ブーーーッ!?」
――だからある日の昼休み、彼女の口からそんな爆弾発言が飛び出した時、彼女の中等部以来の親友である
「わっ、だ、大丈夫?」などと心配そうに覗き込んでくる真昼に対し、ひよりはしばらく咳き込んでから机を叩いて立ち上がる。
「どっ、どど、どういうことよ、ひま!? 大学生の、お、男の家に行くって本当!?」
「あっ、うん。本当だよ?」
いつもと相違ない、ほわほわとした笑顔で真昼は頷く。しかしその〝いつも通りさ〟が、逆にひよりを焦らせた。
「あ、アンタに大学生の彼氏なんか居たっけ!? 初耳なんですけど!?」
男子人気の高さならクラス内でも指折りであろう彼女にそんな相手が出来たとなれば大
それでも中身がお子様な真昼が抜け駆けして彼氏なんか作れるはずがない――とタカを
「うちのお隣に大学生のお兄さんが住んでてね? 色々あって、お兄さんのお家で料理を教えてもらうことになったんだよ」
「なにがどうなったらそんな展開になるのよ……」
ひとまず彼氏が出来たとかではないことにホッと息をついて椅子に座り直し、ひよりが続けて問う。
「っていうか、誰よその大学生のお兄さんって。名前は?」
「名前? ……あっ、そういえば聞いたことないかも……」
「はあっ!? あ、アンタ名前も知らない男の家に上がり込もうとしてたわけ!? 襲われたらどうすんのよ!?」
「だ、大丈夫だよ。優しいお兄さんだし……それにもう二回もお家に行ってるし」
「もう行ったの!? しかも二回も!?」
不用心どころの騒ぎではない。女子高生が見知らぬ男の家にホイホイついていくなど言語道断だ。それが真昼のような可愛らしい少女なら尚更である。その男に
「……悪いこと言わないからやめときな。まだ綺麗な体でいたいでしょ?」
「だ、大丈夫だってば。料理を教えてもらうだけなんだし――」
「甘いわッ!」
「ひぇっ!?」
オレンジジュースの紙パックをぎゅうっと握り潰しながら
「もし力ずくで迫られたらどうすんの! 男は皆オオカミだって古事記にも書いてあるでしょ!?」
「そうなの!? ご、ごめん、私古事記なんて読んだことないから……」
「とにかく駄目ったら駄目! アンタみたいな子が男の家に行くなんて、相手からすれば
「で、でももう約束しちゃってるし……そ、それにお兄さん、本当にいい人だから……」
一度した約束を破るのが嫌なのか、普段はこれだけ強く言えば素直に従うであろう真昼が、今日に限って食い下がる。
それとも、よほど今日の約束が楽しみだったのだろうか? 思えば真昼が放課後の予定をあんなに嬉しそうに話すことは珍しいような気がした。
「(料理、か……そういえばこの子、たしか……)」
かつて聞いたことのある彼女の食卓事情を思い出す。
「ひ、ひよりちゃん……?」
「……しょうがないなぁ」
上目遣いでこちらを窺ってくる真昼に、ひよりはぽりぽりと後頭部をかきながら一つの妥協案を提示した。
「私も一緒についていくよ。それでもいいなら好きにしな」
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