第3話 初戦はゴブリン

 城門に近づいたオレたちは、ここで衛兵の存在に気づくのだが。誰がどう見ても小さなおっさんがいる。身長はオレより頭一個分低く、だいたい160センチだろうか。銀色のかぶとをかぶっているが、サビている所が目立つから、恐らく鉄製のものだろう。


 兜からはみ出ている髪は黒く、喉元のどもとを隠すほどに長いひげを生やしている。おっさんと言うより、見た目はおじいさんだ。布生地ぬのきじであろう衣服いふくの上からでもわかるほどに筋肉隆々きんにくりゅうりゅう。まるでベストを着ているかのように、そで部分がない鎖帷子くさりかたびらを着こなしている。


 「なんじゃ君たちは? 人をジロジロと見やがって、ドワーフを見たことがないのか? 世間知らずな小童こわっぱどもじゃの」


 素晴らしいね。素晴らしいよ! オレの表情は今まさに歓喜かんきに満ち溢れているだろうな。なぜなら本物のドワーフが目の前にいるのだ。想像していたよりも少々身長が高いから、ただの強靭きょうじんの肉体を持つおっさんかと思った。これはエロ、じゃなくて、エルフもいるんじゃないのかな。


 「すまない、初めてドワーフを見たのでつい」


 ここは正直に答えるのがいいだろう。横にいるリータたちをチラっと見たが、オレはともかく、三人ともドワーフをガン見していた。


 「なんじゃ、初めてじゃったのか。仕方のいのう。これから出かけるのか?」


 「ねえおじいさん、おじさん? 年齢聞いてもいい?」


 ドワーフは想像していたよりも気さくだ。様々な物語に登場するドワーフだが、寿命が長いと書かれることが多い。年齢を聞いてみたいが、初めて会う相手にいきなり聞くのは気が引ける。しかし、お構いなしに聞けるのが舞だ。


 「お、おじいさんじゃと? わしはまだまだ若いじゃぞ。ピチピチの60じゃ! これからはお兄さんと呼ぶのじゃ」


 大丈夫オレは驚かない。60歳はドワーフにとってピチピチなんだな。顔は老けてるが、ドワーフの特徴だろう。これからはお兄さんと呼ぶよ。この国の法律を知らないから、衛兵と仲良くしていたほうがいいだろう。


 「リータさん、本当にドワーフがいましたね」


 「ああ、びっくりやな。しかもピチピチの60やもんな」


 「そっか。ピチピチの60なんだ。うちらはこれから薬草を探しにいくのよ。それじゃお兄さんまたね」


 舞にしてはうすい反応だな。もっとピチピチと60にツッコミを入れるかと思った。


 「おう、わかればよいのじゃ。見たところ君たちは新米冒険者ルーキーのようじゃのう。種類にもよるが、薬草ならおかと森の浅い所で採れるじゃろう。森の奥には行くな、うわさではゴブリンの巣穴すあながあるらしいのじゃ」


 お兄さんよ、これは行けというフリか。それともなにかのフラグが立ったのか。


 「ありがとうドワーフのお兄さん。行ってくるよ」


 「おう、気をつけるのじゃぞ」


 会釈えしゃく程度の軽い挨拶を交わした後、オレたちは城門をくくり町の外に出た。時間帯はだいたい昼頃か、先ほどよりも太陽が真上に来ている気がする。辺りには何もなく、雑草混じりの平地が丘まで続き、その先に森がある。


 丘には高くない木が何本か立っていて、所々に岩や茂みがある。丘まではそれほど遠くない、雑談しながら歩くオレたちは、気づけば丘の上のほうまで来たいた。遠目に見れば丘だとわかるが、近づくと緩やかな傾斜に気がつかない。


 「ねえ、陽介。ほんとにこのあたりであってるの? 雑草しかないよ?」


 「地図と町で集めた情報によるとこのあたりのはずですよ」


 「舞と陽介はこのあたりを探してくれ、おれとハルアキはもう少し向こうで探してみる」


 「大丈夫ですか? 向こうて森のほうじゃないですか。ゴブリンとか出ないですか?」


 「大丈夫だろう、森の奥には行かないよ。なあ、リータ」


 「ああ、危険を感じたらすぐに戻るから心配するな」


 森の近くまで来たオレとリータはすぐに薬草を見つけた。依頼書通りの紫っぽい色をした薬草だ。森のほうを見てみると、そこら中に生えている。まさに大量発生だな。依頼文には数に応じて報酬を支払うと書いてあったし、これはいきなりボーナスタイムだな。


 「こんなにあるとは思わなかったな、リータ。森に来て正解だったな」


 「ああ、そうだな。多少リスクはあるけど、収穫は大きいな」


 コソコソ


 茂みや草むらをかき分けるような音がする。まさかここでフラグ回収するのか。話が出来すぎてるだろ。


 「なんだ? あれ」


 え、なに? おいおいリータまさかとは思うけど・・・


 「なんだよ、ウサギかよ! ビックリした。リータ脅かすなよ」


 汚れた白、いや灰色のウサギだった。逃げるように走って行ったが、オオカミでもいたのかな。オレはまだ見たことないゴブリンよりも、オオカミなどの肉食獣のほうが怖いよ。大昔の人みたいに近接武器で倒せるとは思えない。銃火器はなく、あってもちゃんと使えるかわからない。走って逃げきるなんて絶対無理だろう。


 正面にいるリータが何真っ青な顔してる。どうした? やっぱりオオカミがいるのか。振り返るとそこになにかいる! そんなホラー映画みたいな流れは嫌だな。


 「いいかハルアキ、振り返るな。振り返るとそこにゴブリンがいるからな。おれの背中の方向に何が見える?」


 「おいおいリータ、ホラー映画じゃないんや。だけど冗談じゃなさそうやな。お前は背中? うーん、 遠いけどあれは陽介と舞やな」


 見るなと言われて見たくなるのがオレだ。リータの忠告を無視して振り返る。そこにはゴブリンと呼ぶ存在がいた。その外見は緑色の肌に醜い容姿、身長は低くて1メートル程度。右手に木の幹、いや棍棒こんぼうと呼ぶべきものを持っている。


 「なんだと! まじかよ、ゴブリンだ」


 どうやら先ほどにウサギはこのゴブリンたちから逃げてきたようだな。


 「に、逃げるぞハルアキ!」


 「いや、待てリータ! どこまで逃げる? 逃げ切れるのか? 2匹、いや2体か、戦ってみよう。あれ? 3体に増えてる?」


 どうやらゴブリンは集団で行動するみたいだな。


 リータ? 剣と盾出してちゃって、やる気満々マンですか? 2対3で数的に不利だが、戦うしかないだろうな。


 「やるぞハルアキ!」


 何そのかわりよう。いつもの冷静さはどうした? しかし、やるしかないよな。


 ゴブリンたち狩りの途中で、人間に出くわしたからか驚いているようだ。しかしオレたちにとってこれはチャンス。もちろん先手必勝だ。


 オレはすぐさま背中に装備した剣を抜き、一番手前にいるゴブリンを脳天から叩き割るように剣を振り下ろした。ゴブリンはとっさのことに反応できずにそのまま真っ二つになった。


 踏み込みは深く行ったが、さすが真剣の切れ味だ。オレは一撃で仕留めたことに驚いた。ここで初めて剣道初段を取った有難みを感じた。


 振り下ろした剣を上げながら右に流し切り、踏み込む前の位置まで後ずさる。ただのけん制攻撃だから、ゴブリンには当たらない。この一連の動きにゴブリンはもちろんリータも驚いていた。


 「ハルアキやるなあ。さすがやらない時はやらない男だな」


 「おいおいリータそれなら、やる時はやる男って言ってくれよ」


 ゴブリンもようやく状況を理解できたのか、いきなりオレではなく、リータに襲いかかる。しかしオレが心配するまでもなく、リータはゴブリンの攻撃を盾で弾き、怯んだ隙に剣でゴブリンの胸部きょうぶに一突き。


 生まれて初めての人殺し、ではなくゴブリン殺し。アドレナリンが出ているせいか、少し興奮してきた。ゴブリンは残り1体、逃げてくれるとラッキーだが、見たところ戦う意思はあるようだ。


 「キャー!!!」


 丘のほうから聞こえる悲鳴、間違いなく女性のものだ。思いたくはないが、ここに来るまでオレたち以外の人間を見かけてない。つまり今聞こえた悲鳴の主は舞やな。


 「リータ、今の悲鳴は?」


 「ああ、たぶん舞だな。ハルアキ先に行ってくれ。残り1体はおれがやる。おまえはあいつらの無事を確認してこい」


 リータなら大丈夫だろうが、陽介と舞の状況が分からないから心配だ。こっち同様少数のゴブリンならいいが、オオカミがいたらかなり困る。しかし、その時はやるしかないだろう。


 「わかった! すぐに追いかけて来いよ!」


 リータに叫んだ後、オレは陽介と舞がいる丘に向かって走っていく。

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