第3幕 インタビュアー

【レポートナンバー9953】

]報告時 天の川銀河Gspot3:5.8075E+10

]報告者 知性種保存管理官 ヲ◑∃%7

]

]①定期報告

]船体:異状なし

]搭乗員:異状なし

]搭載物:異状なし

]

]②調査報告

]調査方法:衛星軌道からの観察、及び以下の個別調査

]  ⅰ&ⅱ)個体からの聴き取り

]  ⅲ)通信電磁波解析▷接触は危険と判断

]

] ⅰ)クジララの現状概況

]ヒトトとの衝突で個体数減らし危機的状況。知性維持、環境適応良好。

](詳細情報別添ファイル01参照)

]

] ⅱ)イノシシシの現状概況

]ヒトトに保護され、家畜化されたイノシシシは数を増やし、森に住むイノシシシ原種は数を減らしている。どちらも知性維持。環境適応要観察。

](詳細情報別添ファイル02参照)

]

] ⅲ)ヒトトの現状概況

]個体数を増やし実質的に星系の代表知的種と認める。

]環境適応評価不可並びに他種への環境影響認める。よって特殊知性種として要観察。

](詳細情報別添ファイル03参照)

]以上


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静かにモニターに表示された。


「ふぅ。3千年ぶりか。久しぶりに帰ってきたが、また旅立たなければならないね」

眼下の地球を見つめる目を潤ませる。


「名残惜しい。。。本当にここは美しい」



ただこのまま、ヒトトの勢いのままに任せて良いものか。

今回のレポートでは保留としたが、やはり悩ましい。


わが同胞のクジララ、イノシシシ。


太古の昔、この星の環境が変化し、住めなくなった。新境地を求め、星系離脱するときに、それに反対した者達と二つに分かれた我々は、星に残った者達を見守ってきた。

環境変化が我々の繁殖可能範疇を超えるものだったため、残る者たちは、遺伝子操作を施し、環境に再適応した。その方法により、さらに2グループに別れた残留組は、陸地にはイノシシシとして、そして海にはクジララとして、それぞれが争うことなく各エリアで暮らす選択だった。


そこに計算外の事が起きた。取り残された知性が他にも居たのだ。しかも、我々が逃げた天変地異に適応してみせ、乗りきった。

そしてまた進化の海に漕ぎ出した。

ヒトトはそうして原始的な肉体のまま、知性と野生の間にある脳を駆使して生き残ってきた。


尊重すべき存在ではあるが、やはり知性としては不完全。

自然のあるがままを受け入れる事は無理なのだ。弱い存在の自分を生かすため、他者の毛皮を奪い、自己に有用な特定の草木だけを増やし、強固な巣を作るなど、環境を変える事で生き延びてきた。


この200年ほどの間には、その能力はさらに暴走といえるほどの影響を及ぼしている。

移動のために地面を固め、飲み水のために川をき止める。自分自身のエネルギーだけでは生きられず、電気エネルギーを得るために空気を汚し、水を汚し、自分たちでさえ住めなくなるほどまで汚染を進めてしまう。

個体の認知能力を超え、道具を創ることに長けすぎたのだ。


他の知性を認めようともしない。

イノシシシたちへの仕打ちは特に酷い。牙を抜き、囲い太らす。自ら喰うために、彼らの生命の謳歌を許さない。

クジララの知性には、ようやく気づき始めた者もいる様子。間に合えばよいが。


やはりヒトトたちを星系離脱の際に見逃した原因は、あの時点での知能レベルがセンサーに反応しなかった、という定説が正しいのだろう。

このままではこの星の、他の知性が失われてしまうのは必至だ。

かといって、不完全とはいえ、意図的に知性種を消すのはどうか。

悩ましい。実に悩ましい。


知性完成度として考えればどうか。

我々に近い存在はやはりクジララ。そしてイノシシシなのでは。

そんな自己愛に従ってみても良いのかも知れない。

なにより、子を見捨てる親はいない。


「・・・やはり考え直すか」




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この星を語る者はもういない ふくろう @symayas

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