08 喉まで出ていた

「あっ...!!!」


«ガタンッ»


「びっくりしたぁ、どうしたんです?!久美さん」


「..ゴホッゴホッ...やぁばい、死ぬっ、」


「ちょっ、鈴花?!あんたまたバナナ食べてたの?食べすぎよ!」


「いや...それよりも私の気管を心配して下さいよぉ!」



そう言って愛萌に背中をさすられながら疲れた顔をする鈴ちゃん。



「ごめんごめん、急に立ち上がって。」


「大丈夫ですけど、なんかありました?」


「よかった、鈴花のバナナどうにかなって。

...あぁ!もしかしてもしかして!!日向さんからのお返事だったりして〜!」


そう言ってニヤニヤする愛萌。その後ろから鈴ちゃんが、なぜか目を輝かせて私の方を見ている。



「んんもう!何よ、2人ともニヤニヤしちゃって!!ちょっとびっくりしすぎちゃっただけじゃん!」


「ふふっ。それがかわいいのよ、ね?鈴花??」


「そうそう。久美さんったらほんと乙女!」



そう言って顔を見合わせ、また笑い出す2人。私の先輩の威厳って、いつからこんなにも無かったんだっけ?!



「で?日向さん、なんて言ってたんです??」


「ちょっと!さっきまであんなに笑ってたくせに、いきなり興味無さそうな感じで聞いてこないでよね!バナナの皮なんか剥いちゃってさぁ?」


「もぉ!だから食べすぎよって言ったじゃない!!」


「いや、別にバナナは食べてくれていいんだけど。馬鹿にするならもっと私に興味もってよね!」


「あ、末っ子久美さん発動ですね、これは」


「ふぇふねぇー(ですねー)

...いやだって、大体予想ついちゃうんですもん、なんて返信きたか。」


「え?私、日向さんからメールの返信きたって言った??」


「いや、直接的には聞いてないですけど...久美さん否定してなかったんで!」


「そうそう、で?日向さんなんて??」


「ぜひご一緒しましょうって、17時にギャラリーの前で。」


「あら、結構お早めのディナーなんですね。」


「ギャラリーが17時までなんだって」


「ふぁふほぉほぉー(なるほどー)

...じゃあ、何時頃見に行きます?個展」


「そうねぇ...あそこのギャラリー結構大きいらしいし、3時のおやつ食べてから向かったらちょうどいいんじゃないかしら。」


「あ!じゃあ、今日宮田先輩が連れてってくれたお店でリベンジしましょ!!メニュー見てたんですけど、デザートも超美味しそうだったんですよねー」


「ちょっとちょっと!私が黙ってる間に話進めすぎ!!」


「あら、なにか都合悪かったです?」


「いや、都合は...悪くないけど。」


「じゃあ15時にお店で!

明日のことも決まったことですし、鈴花先お風呂頂いたら?もう遅いわ。」


「え、やば!!時間の経過早すぎっしょ。

久美さん、お先にいいですか??」



また鈴ちゃんと愛萌がふたりで楽しそうに話しているので、私はポツリポツリと、日向さんへの返信を考えていた。



「...さん、久美さん!!!」


「うわっ!!」


「え、なんですかその驚き方、おじさんじゃないんですから〜」


「むぅ、失礼な!!」


「お風呂お先にいいです???」


「あ、ごめんごめん。いいよ、追焚きして入りなね。」


「はーい!」



そう元気よく返事すると、今までためにためていたバナナの皮をわし掴み、キッチンのゴミ箱に立ち寄り、脱衣所へと姿を消したのだった。



「明日、楽しみですねっ!」


「...うん!」



そう言った私は、きっと心から笑っていたと思う。



「はやく明日にならないかな...」



その言葉は喉まで出ていた。だけど、また愛萌に乙女扱いされそうで、恥ずかしくなってそっと胸の奥へ隠した。

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