07 僕はどうすればいい?




「ブッ...ゲホッゲホッ...!」


「おいおい、大丈夫か?日向。まだテレワークははじまったばっかだっつーのに。何お茶でむせてんだよ。」


「ッ...ハァ、ハァ。死ぬかと思った...気管支炎になっちゃう。」


「んな大袈裟な。で?何があったんだ??」


「なんでお見通しなのかなぁ...。」



テレワークとかこつけた、けやきとのただのビデオ通話の最中、僕の中にはちょっとした事件が起きていた。

僕のパソコンのデスクトップには、新着メールを示す1という表示。クリックして真っ先に飛び込んできたのは、佐々木久美の5文字だった。



「いやいや、当たり前じゃん?何年の付き合いだと思ってんのよ、俺たち。」


「まぁ、そうだけどさぁ...。」


「で?佐々木さん、何て??」


「明日、ご飯行ってくれるって。」


「え、まじ?!やったじゃんよ!!

...って、どうした、あんま嬉しそうじゃねぇじゃん」


「いやっ!嬉しい!嬉しいんだけど...心の準備が!!」


「ブッ...ハハッ、おまえ乙女かよ!」


「うるさいなぁ!だって、緊張しちゃうじゃん。」



佐々木さんとご飯か。


どんなことを話そう。

どんな服を着ていこうか。

どんな店を予約しよう。

どんな料理が好きだろう?

どんな雰囲気のお店が好きだろう?

どんな服を着てくるのだろう。


僕の頭の中は、佐々木久美でいっぱいになっていた。



「うぉっ、日向照れてやんの!顔真っ赤じゃん、ビデオ越しでもわかるわー」


「う、うるさい!そういうけやきだって、加藤とラブラブなくせに。」


「まぁな?お前がこちら側の世界にくる未来も、すぐそこだなー、お前は一生非リアだと思ってたのに」


「お前なぁ!ビデオ越しじゃ無かったら一発小突いてたわ!」



僕が手を出せないからって、普段心の底に漂わせているお調子者モードを全開に発揮してくるけやき。次会ったらただじゃおかねぇ。


と思ったが、佐々木さんとのご飯、明日じゃん。ギャラリーまで迎えに行くとなると、ばっちりけやきと会って茶化される可能性が大いにあった。



「『My god』ってさ... ________。」



「...え??」



佐々木さんの事で脳内を埋めつくしている隙に、けやきが何か話し始めていたのだが、電波不良だのなんだので聞こえなくなり、僕はそのままビデオ通話にひとり取り残された。



「...ってやば!!もう0時回ってんじゃん、シャワー浴びないと」



僕はけやきに「シャワーして寝る」とだけメッセージを打ち、風呂場へ駆け込んだ。



「My god、か...」



僕にとっての「My god」は、どんな存在なんだろう...。


ぼーっとしながらシャワーを浴び続けた僕の手は、ふやけて少し柔らかくなっていた。

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