06 立ち話してただけじゃないか

「あっ、ふぉーふぃふぇぶぁ(そういえば)...

日向さんに連絡とかしないんですか??」


「それっ、わざわざバナナ食べながら言うこと?」


「だって、今思い出したんですもん。噛んでる間に忘れちゃう。」


「ふふっ。えっ?!そんなことある?!」


「宮田先輩、絶対今馬鹿にしたでしょ?!ひどぉい!」



愛萌の冷静なツッコミにより、日向さんの話題が自動的に消し去られた。

あれから3人で銭湯に行った後、やっとこさ仕事を再開したのはいいんだけど、ちっともちっとも筆が進まなくて、愛萌にバレていないことを信じながら、ずっとメールを開いて文章を考えている。

どうしてこんなに、彼のことを考えてしまうんだろう。いつも仕事で会ってる時間の方が長いのに。今日は、ほんの数分、立ち話してただけなのに。



「鈴花が口にもの入れながら喋るからでしょ?!

ていうか、私、咀嚼音やだって言ったよね?」


「ご、ごめんなさいぃ!!」


「まぁまぁ、落ち着きなってー」


「っていいながら久美さん棒読みだし、さっきからメール開いてますよね?」


「えっ?!なんでバレてんの?!すずちゃんにならまだしも」


「全然キーボード打たないし、小声でメールの文面候補呟いてるし、バレバレですよ?」



そう言いながら、愛萌はニヤニヤと笑っている。

すずちゃんも笑いを堪えながら、またバナナの皮をむきはじめた。



「もうバレちゃったならいいや、どうすればいいと思う?今日チラシ貰ったお礼(?)と、ちゃんと挨拶できないまま別れちゃったことを謝りたいんだけど」


「そのまんま言えばいいんですよ、

『今日は急いでいてきちんとご挨拶出来ずにすみません。チラシまで頂きありがとうございました』ーって。」


「うーん。そうなんだけどさぁ、なんか...ねぇ。」



さっきふたりに、それは恋だと言われてから、色々と考えてみた。

でも、日向さんにどういう思いで接していたのか、私自身正直よくわかっていないんだ。

ただ、職は違えど同じ文章を書く身としてすごく尊敬していて、彼の書く文章に魅了されている。

だけど...



「いやいや、やっぱり次に会う約束はしておかないとっ。」


「お?!さっすが宮田先輩、できる女ぁ!」


「うるさいなぁ、やっぱりモヤモヤしてるなら、会って解決しないと!ね?」



«ピコンッ»



「え?」


「ん?今のなんの音ですか??」



私は咄嗟にパソコンの画面をみた。



「メールだ!日向さん、から...」


「おっ、噂をすれば!なんて書いてあるんですか?」



メールの文面はこうだった。



『佐々木さん

今日はお声がけ下さり嬉しかったです。

個展の感想とかも語り合いたいので、

佐々木さんが個展を見に行かれた帰りにでも

ご飯行きませんか?お返事待ってます。』



「え、どうしよう、ご飯誘われちゃった。」


「え?!凄いじゃないですか、久美さん!!」


「ふむふむ。個展の帰り道か。

よしっ、明日!個展行きましょ!鈴花と私と、3人で!!その後私は鈴花とオシャディナーに行くので。」


「あっ、いいですね、それ!

よしっ、久美さん、返信しましょ!!」


「え、明日??!!」


「え、なんか不味いこと言いました?

明日スケジュール入ってないですよね?」


「は、入って、無いけど...!心の準備が!!」


「もぉ!久美さんったら乙女なんだから〜」


「ふふっ、久美さんかわいいっ。」


「んんもう!ふたりとも!私は真剣なんだからね?!」



2人に笑われて、なんだか頬があつくなってきた。けど、個展楽しみだな。私はウキウキした気持ちで文を打った。



『日向さん

こちらこそ、急いでいて挨拶もできずすみませんでした。個展の宣伝、うれしかったです。

早速明日、宮田と富田と行ってみるつもりです。夜ご飯食べずに解散することになったので、明日の夜いかがですか?

佐々木久美』

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