05 何かが始まるような予感がする

「はぁぁ、疲れたぁぁ。」



私の一押し店から久美さんのお家までは意外と距離があったみたいで、鈴花はもうヘトヘトだった。



あれから料理が運ばれてきて、私たちは美味しく楽しくランチを食べる、はずだったんだけど...。


久美さんがあまりに寂しそうな表情で帰ってくるもんだから、ぽつりぽつりと料理の感想を言い合う程度で、なんだか微妙な空気感のまま、久美さんのお家まで戻ってきた。



「ごめんね、愛萌。せっかくいいお店紹介してくれたのに。すずちゃんも。」



そういう久美さんは、多分色々なことを思い返している、そんな表情だった。



「記者さん、日向さんって言うんでしたっけ??その方と、今日何を話したんですか?」



鈴花にしては落ち着いた口調で、心の底に常にある彼女の思いやりと優しさを、その言葉で久美さんに捧いでいた。



「いや、大した話はしてないんだけどさ。

その『My god』って個展を開いてる画家さんが、日向さんのお友達みたいなんだけど。なんかすごく現代アートって感じで、斬新で、すごいんだって。とにかく。それをね、日向さんが私に話してくれるんだけど...。」



久美さんが涙ぐみながら語ってくれたにはこうだ。

日向さんはそのお友達さんの話をするとき、いつも無意識に自分自身を下げて話すんだそうで。


でも久美さんは、その日向さん自身もすごい記者さんで、聞き上手な優しい方で、記事を通して伝える力とか言葉選びがすごくて、もうとにかくすごいと。

久美さんは、日向さんの魅力を知りすぎていて、だからこそ、もやもやするんだと...。



「んん??」


「びっくりしたぁ、どうしたんですか?」



これはもしや...??



何かが始まるような予感がする。


これは、女性の本能的に??



「久美さん、それってもしかして...」


「「恋だ!!!!!」」


「って、えぇ?!ちょっとぉ、なんで鈴花が被ってくんのよ!ここ、完全に私の見せ場でしょ?!」


「いやいや、私もずっと考えてたんですよ。

ほら、私はやる仕事もないじゃないですか。

だからずーっと考えてたんですよ。」


「ゲームをやりながら??」


「そうですよ?宮田先輩こそ、お仕事をしながら??」


「むぅ...。そ、そうですよ!!」



「...恋??恋かぁ...。」



当の本人、久美さんはイマイチ納得がいってないみたいだった。



でも、久美さん?

この次会った時は、きっと何かが始まりますよ?


私はそんな予感しかしないのです。



「ところで、そういう宮田先輩は、恋とかするんですか??」


「ちょっと、話しそらさないでよね?!私は...今は光源氏にしか、興味無い...かな??」


「はぁ、ですよね。文学オタクなの忘れてました。なんか、すみません。」


「ちょっと、なによ、そのため息!!!」


「ふふっ。もぉ、すずちゃんったら辞めてあげなよ?愛萌まだ21歳だし、出会いはこれからだって!女子大なんだし、社会に出るまでの、お預け的な??」


「いや、なんかそれはそれで傷つくフォローだなぁ。」


「えぇ?!なんでよぉ!!」


「いや、なんやかんやで久美さんが一番いじってますからね?宮田先輩が今まで一度も三次元の男性とはご縁がなかったみたいな言い方((」


「ちょっとぉ!久美さんはそこまで言ってないでしょ??!!」




私が今まで男縁が無かった...みたいな?感じに言われちゃったのは、なぁんか納得いかないけど。

でも、また今朝みたいにたわいもないことで笑い合える空気感が戻ってきてくれてよかった。



やっぱり久美さんには、おひさまのような笑顔がよく似合うのだ。

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