04 この次会った時は

「あ、久美さんだ!」


「おかえりなさい、久美さんっ。」


「ほんとごめんね、待たせちゃって!」



なんだかとても不思議な感覚のまま、すずちゃんと愛萌の待つオシャンティなお店へと飛び込んだ。



「全然!10分も待ってないですし。

それに、鈴花から楽団の話色々聞いてたので!」


「そういえば、記者さんとは会えたんですか??」


「会えたには、会えたんだけど...。」



私はつい色々聞いて貰えたことが嬉しくて、たくさん話しすぎてしまった。

日向さんはとても謙虚で控えめ、聞き上手な方。だからこそ、尊敬できる人の話をする時、いつも自分を下げる癖があることに、一緒に作品を作っていくようになってから気がついてしまって。私は、それがずっと気がかりだった。



「「けど...??」」



変な間に、思わず声を重ねるふたり。

私はなんだか心が落ち着かないまま、日向さんが最後駆け足で手渡してくれたチラシを、机の上に差し出した。



「「My...god??」」



「もらったの。その、記者さんから。」


「なんか、かっけぇ!!画家さんの個展かぁ。」


「あ、この通りを東に行ったところにあるんですね。夕方頃までオープンしてるみたいですし、行ってみます??」


「賛成!!宮田先輩オススメのオシャレランチからの個展なんて、めっちゃ充実じゃないですか?!」


「久美さん?もしかして行くの嫌でした??」



ひとり、走馬灯のように、日向さんと立ち話したことを思い返していた。

この個展を開いている画家のけやきさんは、とても凄い方なんだと、彼は語っていた。その時の目は、優しい目だった、と思う。だけど、どこか寂しそうで。そうした日向さんの表情が、私の心の中で雨雲のようにひしめいている。



「ううん!私もちょっと気になってたから、この後行ってみよ!」


「そうこなくっちゃ!」


「じゃあ、早く頼んじゃいましょ!わたしのおすすめは、このレディースランチで、カスタムサラダをつけられるんですけど...」


「まぁた、宮田先輩サラダの話してる〜。」


「いいでしょう、別にぃ!ここのサラダほんと美味しいんだから!」



あぁ、ふたりのこうした何気ない会話に、私は救われていたんだ。


最近、日向さんの事を考える時間が増えた、ような気がする。でも、それがなぜなのか分からない。でも、この次会った時は、この心の雨雲を、おひさまに変えたいって思うんだ。



「え?!久美さん、どうしたんですか??!!」


「...え??」



すずちゃんの声で、私は我に帰った。



「久美さん、個展はやっぱりまた今度にしましょう!お家、帰りましょ??」



愛萌の優しさが、私の心に傘をさした。


私...泣いてる??



「ごめんね。こんなはずじゃなかったんだけど...」



たしかに最近、日向さんのことを考えると、もやもやすることが増えた。

でもそれがなぜなのか、今の今まで気がつけていなかった。

なのにそれは、あまりにも突然だった。

私、日向さんの魅力を、知りすぎてしまったのかな...。



「久美さん...。」



寂しそうに隣で私の名前をつぶやく愛萌と、悲しい目でこちらを見ているすずちゃんが、視界の両端に写った。

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