拝啓、僕の愛する、僕を愛する人へ
ねぇ、貴方。僕と貴方が知り合ってから――もうすぐ五ヶ月になります。色々なことがあったかもしれません。僕は駄目な女の子だから、貴方を困らせたこともあったでしょう。それに、不器用だから、貴方に対して愛情を巧く伝えられてないでしょう。
この文章は、そんな僕からの、せめてものお詫びです。
貴方は僕の筆名を知らないから、屹度、貴方に宛てたこの――恋文とも、懺悔ともつかないこの文章に辿り着くことはないでしょう。それでもいいのです。僕は、貴方へ叫んでいるのではありません。このどうしようもないやるせなさを、苦しさを、世界に向かって叫んでいるのですから。
※
ねぇ、貴方。三ヶ月前――雪の振らない冬の日。どうして僕が貴方からの告白を――未だ知り合ってから二ヵ月程度しか経っていない相手からの――それも、自分より幾つも歳の離れた――告白を受け入れたのか、ご存知ですか。
僕はね、あの頃、全てが恐ろしかったのです。僕にとって、人間と言うのは――微かな違いこそあれど、殆どは――僕の死を望んでいる――即ち、僕を殺そうとしている存在で、学校などの社会は、そんな人々の前に出ていかなければならない、言わば、自分を憎んでいる人々の前に晒されるようなものでした。
けれど、貴方だけは違ったのです。貴方と電話をしたのは、たったの二、三回程度だったけれど、その都度僕は何故か貴方に対し――あぁ、この人は僕を殺さないで居てくれる、そんな人だ、と――安心感にも似た感情を抱けました。だから僕は、住む場所も、年齢もずっと違っている貴方からの告白を受け入れ、恋人という地位を手に入れたのです。
※
いつかに、僕が「貴方には倖せになって欲しいから、もし、貴方に僕よりも好きな人が出来たのなら、僕は甘んじて身を引く」と言ったのを、果たして、貴方は覚えてらっしゃるかしら。あれはね、僕の本心なんですよ。
貴方は、とても優しい人です。僕には勿体ない位の、好い人です。それに引き換え、僕は、どうでしょう。文章を多少書けるということ以外に取り柄のない、将来性もなければ社交性もない、ちっぽけな小娘です。そんなのと一緒に居て、貴方が本当に幸せになれるのかどうか、僕はそれが不安でならないのです。僕は、貴方に倖せになって欲しいんです。それは、本当です。僕なんかのために、とっても優しい貴方が傷付くなんてことにはなってほしくないんです。
だから僕は、貴方の幸福のためならば、喜んで身を引きましょう。きっと、僕と同じように、貴方のその優しさに魅入られてしまっている方が、何人もいらっしゃります。その中の誰かに貴方の心が傾いたのならば、僕は受け入れますとも。――その後、僕が生きていけるかは、別としましょう。
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普段は決して口に出さないけれど、僕は貴方を愛しています。大人の居ない日にのみ行える貴方との電話も。その中で交わされる、二人の未来の話も。その未来がどうしようもなく遠いという事実も。そこから目を逸らし続ける私達の愚かさも。その全てを愛しています。
あんまり気障すぎて、伝えられやしないのですけれど。
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僕が社会に絶望している、ということは貴方もご存知でしょう。――いいえ、社会に対してというよりかは、そんな社会に適合できない自身の不甲斐なさに、と言った方が正しいかも知れません。
この数年間、僕は、死ぬことばかり考えて生きてきました。誰にも必要とされていない気がして、その上、生きていくための才覚もなくて。
けれど、僕は、貴方が望むのなら、貴方さえ僕を必要としてくれるのならば、このまま生きられるような気がするのです。社会はとても恐ろしく、僕と貴方の関係を口汚く罵り、貶めるでしょう。けれども僕は平気です。貴方がいつまでも僕の味方で居てくれるのならば。もう僕は、何も恐くありません。
全て、貴方のお陰です。
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