第2話 開戦

 雪華が帰ってきてから数日後、雪華を含めて3人の傭兵が日本国某所にあるブリーフィングルームに集まっていた。


「さて、みんな、よく集まってくれた。特に、チーター」

「お父様、うるさい。続きを」


 実の父親に辛辣な言葉を投げかける雪華。

 それをくすくすと笑う他の傭兵達。

 実に微笑ましい光景である。


「うおっほん。さて、今回の依頼だが、久々の国連からの正式な依頼だ。内容は、日本国海上自衛隊の国連軍本部への海上輸送を空から護衛しろとのことだ。報酬はUSドルで1000万ドル。日本円で約10億円だ。何を運んでるのか知らないが、報酬は良い。今回は800万ドルを俺とお前ら4人で分けてもらう。あとは全てハイパーウィングスの金だ。何か質問は?」


 ゆったりとした動作で雪華が右手を挙げる。


「なんだ?」

「春と違うシリーズのAIを載せたステルス無人機、連れてっていい?」

「ダメだ。あれはこっちのジョーカーだろうが。日本に見せる必要なんてない」

「……ウィルコ」

「それに、あれを連れていったらお前、完全に楽するサボるだろ?」


 図星だったのか、すーっと視線が外れていく。

 と、その時、耳を劈くようなけたたましい警報が鳴り響く。

 反射的に、席を立ち、格納庫ハンガーへ走り出したのは雪華だ。

 その目は先程までとは違い、緊張を孕んだものとなっていた。


「……なんだとっ!? くそっ、わかった。おいお前ら、作戦変更だ。現在、日本国首都東京に大量の国籍不明機が接近している。空自の戦闘空中哨戒任務CAP機が警告を行っているも侵攻中。我々に即時出撃要請が出た」


 他の傭兵達が次々に立ち、雪華の後を追っていく。


 残された雪華の父、蒼井雄樹ゆうきは目に涙を浮かべ「……まだ話し終わってないのに……」と言っていた。


 ☆★☆★☆


「やっぱり、陸より空がいい」


 離陸して早々にそう呟く雪華。

 彼女のノンキャノピーの雲の如く白い大きな機体が白鳥の様に優雅に飛行していた。

 ピピッ、ピピッと無線が入電していることを報せる音がなり、面倒くさそうにスイッチを入れる。


『よし、全員上がったな? 目標は領空侵犯をした国籍不明機だ。既に空自に被害が出ている。日本国はこの事態に対して【防衛出動】を宣言、防衛措置に移行すると発表した』


 彼の説明を右から左へ受け流していると、何時の間にか、彼女らの周りを戦闘機が囲んでいることに気が付いた。

 その戦闘機の翼には日の丸が。


「スカイキーパー、話は後。空自にインターセプトされた」

『了解』

『Warning Warning Warning, unknown aircraft. This is Japan Air Self-Defense Force, 303 Squadron. Disclose your purpose and affiliation. (不明機へ警告する。こちらは航空自衛隊303飛行隊である。貴機の所属と目的を開示せよ)』

「空自の303ね、了解。こちらは国連軍所属独立混成部隊、シルフ所属のリーパーワン。国連の要請により貴隊の援護に来た」

傭兵部隊プライベーティアか! それはありがたい! よろしく頼む!』

「ん。こちらこそ。仮にも私の母国。空賊パイレーツ如きの好きにはさせない」


 雪華はそう言うと、機体を空自機の下へ潜り込ませて仕事に移る。


「各機、自由戦闘を許可する。警告は不要」

『『『了解』』』

「Auto mode boot. Maneuver limiting device boot. You have control, Harukaze. (自動操縦モード作動。機動制御装置起動。操縦権をAI春風に委譲)」

【I HAVE CONTROL. (操縦権を委譲された)】


 雪華は直ぐに春風に操縦権を委譲してサボり始める。

 だが、これが彼女の戦闘スタイルなのだ。

 基本的にはAIに戦闘技術を学習させ、彼女が必要と判断したり暴れたい時などに操縦権を返してもらう。こうして戦闘AI春風のようなヤバめの兵器が出来上がるのだ。


「Priority mission is Guard of the Cruisers and the Suppliers. (優先作戦は護衛艦と輸送艦の護衛)」


 彼女の言葉に【WILCO. (了解)】とだけ返す春風。

 それを見た雪華は操縦桿から手を離してMaster ARMのスイッチを入れる。

 その瞬間、エンジンの出力が徐々に上がっていき、凄まじい量の機動演算がなされていく。


 次の瞬間、【ENGAGED】と書かれていた火器管制の表示が【LAUNCHED】に切り替わる。

 それと同時に、翼下のミサイル4本が慣性に従いつつ少しだけ自由落下し、直ぐに敵前線に存在する4機を狙って推進器を点火する。

 ミサイルは敵に当たる直前に推進器を停止させ、至近距離で爆発することで多大なダメージを与える。

 4機ともに火達磨となって海に墜ちていった。


「……んー、なんかおかしな反応がある。この反応……もしかして……」


 雪華が思考に深けろうとしたところで無線から怒鳴り声が聞こえてきた。


『南東より新たなレーダーブリップ……ステルス機だッ!!』

「……ッ!? あれはッ! 春、あれの生体反応を調べて。操縦代わろうか?」

【……】

「どうしたの?」

「Auto mode is released. Maneuver limiting device is released. You have control, CHEETAH. (自動操縦解除。機動制御装置解除。操縦権を返上する)」

「I have! (もらったっ!)」


 雪華は操縦桿を荒々しく横に倒し、敵へ機首を向ける。


「やっぱり……無人機型……」

【B/R IS NOT IDENTIFIED. (生体反応無し)】

「了解、フォックスツー」


 そこからは一方的だった。

 淡々と敵を炙りだし、撃墜していく。

 コールサインの【死神リーパー】に相応しい動きだ。

 彼女の機体は敵を翻弄し、仲間を引き離していく。


 ……不意に、無線が流れる。


「~~♪」


 気の所為だろうか。一瞬、戦闘中は無口な彼女の楽しそうな鼻歌が聞こえた気がした。

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空に生きる者 月夜桜 @sakura_tuskiyo

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