シュミレーションRPG

 大学で友達に欲が強すぎるから、代わりにガチャを回してと頼まれた。

 コラボキャラの男戦士ブラッドか女魔法使いレイラが欲しいそうだ。


 リアルタッチのイラストはとても美しい。なるほど。

 えいや! と気合いを入れてボタンを押す。あれ、欲深いのはダメだったっけ。


 ………レイラとして、ゲームの中にいる。何で? 何特典? 何ボーナス?? 物欲センサーが働き過ぎた?


 それからの生活はたった三日でも過酷だった。何やら私は世界を救うために、仲間を集めながら旅をしているグループに参加しているらしい。

 辛すぎて涙が出そう。イラストに泣いているバージョンがないからか、どんなに辛くても涙が出ない。私はずっと真顔。喜怒哀楽なし。

 二十四時間笑っている人もいて、正直怖い。色々な姿形の人がいるが、あまりに色々過ぎて理解出来ない。


 突然ブラッドが仲間に増えた。スマホで見た時が遠い昔のようだ……。ぼんやり見つめていると、彼はとても挙動不審だった。


「どうかしたんですか?」

「えっ、あっ? いや、ここゲーム? 何で俺、ブラッド??」

 仲間発見!! 嬉し過ぎて気分的には涙を流しながら真顔で抱きついた。


 私の興奮が落ち着くと、ブラッドはとても冷静な人だった。

 しかも聞き上手で、今までのことを全てブラッドに話した。


「見て! あそこ。あの人たちがここにいる人たちを纏めている人なんだけど、滅茶苦茶弱いくせにえげつない依頼を受けてきて、私たちに戦わせるの! 話すといい人なんだけど、鬼畜なの!」


「あぁ、あれは初期配布メンバーの五人だな」

「初期配布?」


「こういうゲームはやったことないのか?」

 素直に頷くと丁寧に説明をしてくれた。


 彼らは物語の中心となる主人公とそのお友達で、ゲーム開始当初からの仲間だという。

 彼らを中心に物語は進んでいくから、常に話の中心にはいる。

 けれど、会社側としては課金してでも強いキャラを望んで欲しいから、物語序盤しか使っていられないくらい弱いそうだ。


「じゃあ、あれは? 同じ名前で一人に話したことは両方に伝わるのに、顔が違うの」

「話が進むに連れて、主人公や人気キャラの成長した姿が出てきたりするんだ。途中で絵師が変わったんだろうな。ゲームの中では同一人物扱いだ」


「作風が安定していないのも、その絵師が影響しているってこと?」

「そうだな。色々な人がイラストを提供しているから、リアルタッチだったり漫画タッチだったりするんだ。俺たちはコラボキャラだから、かなり浮いているな」


 それから誰がガチャをまわしているのかわからないが、キャラクターが増えていった。

 新しく増えたキャラクターは、私たちと同じ状況の人だった。


「ちょっ、何この服。紐パンで戦士ってどういうこと? 防御力ゼロじゃない? それ以前に変態じゃない?」


「鎧だけど乳首しか隠れてない……。恥ずかしいし、これ敵の攻撃を胸に受けたら即死じゃない?」


「私、ただの下着姿みたいなんですけど……」


「何このスケスケ衣装! 恥ずかしい!」


「弓使いみたいなんだけど、胸が大きすぎて弓を引けない……」


「私も! こんなでかい胸で剣を振り回せない!」


「何で俺、裸に鎧なの? 肌にこすれて痛い……」


「俺は常に上半身裸なんだけど」


「爪が尖っていて、うっかり顔を触ったら大変なことに……。っていうか、俺は人間じゃないのか?」


「俺、フルプレートアーマー。常に兜まで装着してるんですが。戦闘時だけでよくない?」


 何故か目の前にあってもイラストにある装備以外を身に付けることができず、街中へ出ると露出狂の集団にしか見えない。非常に恥ずかしい。


 依頼で森に行くことになった。男女問わず露出狂だらけなので、大騒ぎになっている。


「あぁぁぁ! 葉っぱがこすれて地味に痛い!」


「ちょ、枝は丁寧に処理して! 跳ね返りが当たると私の防御力はゼロだから!」


「かゆい、草にかぶれたかも」


「虫に刺されまくる!」


「フルプレートアーマーだと、足元が見えない……」


「私たち、しっかりした旅装束衣装で良かったよね」

「そうだな……」


 戦闘時に魔物相手に旅装束は恐ろしかったが、以外と痛くない。死ぬ前に戦闘から強制離脱出来るシステムにも助けられた。


 依頼で砂漠に行くことになった。森での経験を活かし、全員が日焼け止めを塗りまくった。


「露出が多すぎて直射日光が……」


「俺、裸足なんだけど……」


「スケステよりマシでしょ! 日光への防御力ゼロだわ!」


「フルプレートアーマー、まじ熱くて死にそう……」


 傘持ちのキャラが大人気だった。


 依頼で雪山に行くことになった。全員が湯たんぽを装備したが、ほぼ全員が凍死しそうになっている。


「寒い、寒い」


「死ぬー」


「フルプレートアーマーに触るな! 指がくっつくぞ!」


 そうなるよね……。現地の人だけ毛皮を着ていたりで、羨ましい。

 ただここで増えた仲間は、毛皮の下が薄着だった。どうして。


 船に乗ることになった。暖かくて皆快適。既に仲間は数えきれない程に増えていて、船団での移動になった。

 私たちは既に一軍から外れ、先頭以外は戦闘もない。ただの船旅かと思ったら、嵐で死ぬかと思った。


「船酔いでフルプレートアーマーが辛い……。せめて兜脱がせて……」


 実際に戦うのは二十人にも満たないのに、旅の仲間は三百人を越えているらしい。

 集団での移動が、ただただ周囲に迷惑をかけていた。だが途中で多くの仲間が突然消えていった。

 フルプレートアーマーの彼も、ある日突然姿を消した。


「所持枠に制限があるから、売られたんだろうな」

「売られたら、どうなるんだろう?」

「わからない」


 そしてようやく、最後の戦いの時を迎えていた。ブラッドと私は、最後まで売られずに辿り着いた。

 遠くから戦いを見守り、エンディングを迎えたようだった。


 気が付いたら、大学に戻っていた。


「ねーねー、かんなちゃん。ガチャ回して欲しいんだけど。ブラッドとレイラが欲しいんだ」

「えっと、ごめん。私くじ運ないんだよね」


「えーそうなの? じゃ、かずや回してよ」

「いや、俺もくじ運が悪い」


「えー」


 話し方と仕草でわかった。かずやはブラッドだ。私たちは自然と目が合った。そして、話をした。


「無事に戻れて良かった。スマホゲームは人気がある限り続くから」

「そうなんだ。あれは、何だったんだろうね?」


「ちょっと、何で誰もガチャ回してくれないのー!?」


「体が軽いー! 周囲がよく見えるー!」


 その後、ゲーム中ずっと一緒にいたかんなとかずやは付き合い始めた。

 付き合い始めたばかりのはずなのに、もう何年も一緒にいるようなカップルになったらしい。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編集 コメディ系 相澤 @aizawa9

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ