短編集 コメディ系
相澤
ゲーム内にお邪魔する系
ただただ顎が刺さる話
プレイ中の乙女ゲームに吸い込まれました。何で? 乙女ゲームが終わったら元に戻れるかな?
元来の楽観的な性格と、現実逃避で深くは考えないことにした。うん。考えたってわからんものはわからん。
セーブしようとしていた所なので、ここは学園の寮にあるヒロインの部屋だと思う。
状況を把握しようと鏡で見たら、やっぱり自分、ヒロインでした……。
しかもイラストのまま立体で動いている感じ。イラストが気に入って始めたが、実際に見ると迫力が凄い。
凄い目がでかくて、睫毛は何もしなくてもくるんと上向きカールでバサバサ。鼻も口も凄く小さい。
髪の毛は青だけどサラサラ、お肌はスベスベ、スタイルもモデルみたいに手足が長くてスレンダー。なのにしっかり胸もある。
現実で見たら化け物だろうけれど、イラストとして見るなら相変わらず素敵。アニメを見ている気分。
さてどうしたものかときちんと椅子に座って頬杖をつこうとしたら、手のひらに激痛が走った!
何これ、めっさ痛いんですけど!?
……自分の顎でした。手のひらに突き刺さりました。
そうですよね、美しいイラストは顎が尖りがち。ヒロインの顎が丸いとかないもんね。
手のひらは諦めて机に顎を乗せようとしたら、今度は顎が痛いし何より安定しない。
普段の自分が落ち着く体勢は不可能だと知った。顎が安定するようにすると、角度があり過ぎて首が痛い。
角度がホラー映画のワンシーン並みだ。首の骨が折れるわ。
膝を抱え込んでも膝に顎を刺すわけにもいかず、膝と膝の間に刺し入れて何とか落ち着いた。膝下が長いので、案外落ち着く体勢になった。
どうしたもんか……。丸まった状態でしばらくぼんやり考えた。
ふと、好奇心から色々確認した。ムダ毛は一切ない。下には申し訳なさげに毛が生えていたが、髪と同じ青だった。違和感が凄い。カビが生えているみたい。こわっ。ホラーだ。
いかん、私がいるのは乙女ゲーム。ホラーじゃない。思考を切り替えよう。
お腹が空いたので時計を見ると、夕食の時間になっていた。寮の一階にある食堂へ移動した。
腹が空いては戦はできぬ。そんな物騒なゲームじゃないけど。緩いゲームで良かった。
今日のメニューはステーキ。お貴族様の学校設定なので、ディナーは豪華なのだ。
ステーキは省略したイラストで、肉感が感じられない……。そうですよね。乙女ゲームでステーキをリアルに詳細に描いたりしないですよね!
味はゲームの設定を信じる!! 美味しいはず!! フォークとナイフで……食べられない!!
思っているより口が小さかった。食べる気だった半分にしても口に入らない。
待って! この鋭い顎に歯はどうなっているの!?
舌でなぞると、普通に歯はあった。何これ、異空間?
味は美味しかったが、ステーキを細切れにし過ぎて、気分は手術だ。ちょっとずつしか食べられないので、すぐに満腹になってしまった。
満腹中枢刺激されまくったんだろうな。だから皆スレンダーなのかな。
周囲を窺うと、皆ステーキを当然のように切り刻んでいた。この世界では常識だったのか……。
お風呂は豪華で、布団はふかふか。気が付いたら熟睡していた。精神的な疲れと、手術疲れ?
朝食は部屋で。パンは小さく千切って。スープも具材が小さかったので、楽に飲めた。朝から疲れなくて良かった。
授業があるので校舎へ向かう。風が吹いて砂ぼこりが舞う。よくある気にも止めない日常の風景……あぁーーーーーー!!!!
目がでかくて、睫毛は全て上向きカール。砂ぼこりの餌食!! 目がぁ、目があ!! 大量の涙が流れた。
あれか! だからヒロインはいつも目がうるうるなのか! 目にいつもゴミが入って苦しんでいたのか!! 地味にきつい。
「大丈夫?」
ゲームの進行状況も自分のプレイしていたのと同じみたい。
声をかけてくれた彼、一番好みの伯爵令息を落としている最中。ライバル令嬢とも親友になり、後もうちょっと。
ボサボサ頭に長い前髪で眼鏡のキャラなんだけど、眼鏡を外すと凄いイケメンっていう。
その設定のために、ゲームではまだ目を見ることはできていなかった。
イラストは角度とかで上手に誤魔化していたけれど、実際に見ると眼鏡が不透明なのか、こちらから目が見えないんですが、見えてます? どういう仕組み?
ねぇ? それで前見えるの? まじで? 気になって眼鏡を奪い取ろうとしたけれど、うまくいかなかった。
好感度がそこまで上がりきっていないので、攻略サイトでしか眼鏡なし姿を見たことがない。
エンディングで絶対にガン見してやる! 覚悟するのだ!!
性格的に攻略サイトを見てからやるタイプなので、選択肢を間違えることなくついにエンディング!! これで現実に戻れるといいけれど。
最悪戻れなくても今は相思相愛、本来の性格がバレる前に結婚してしまえば、何とかなるかな?
とっても性格がいい人だから、努力をすれば穏やかな生活を送ることも出来るだろう。顎とか色々目を瞑れば、それはそれで幸せかも。
好感度がMAXになるといつもの待ち合わせ場所に、眼鏡を外し、髪を切って会いに来てくれる。
だけど彼はシャイなので、私が芝生に座って待っていると背後から優しく抱きしめてくれるのだ。
そこで愛してると囁いてくれ、見つめ合うのがハッピーエンドのスチル。
彼の気配を背後に感じる。
「恥ずかしいから、まだ振り返らないで……」
来た来た! ハッピーエンド!! 彼がそっと優しく後ろから包み込むように……。
ぎゃぁぁぁぁぁぁ!! 後ろから肩に顎刺されたぁぁぁ!! ぶっすぅぅぅぅぅ! って。容赦ないな!!
痛い痛い!! でもこれきっと、最後の試練! 頑張れ私!! ちゃんと微笑みながら見つめ合え!!
彼が好きなら耐えるべき!!
***
気が付いたら携帯ゲーム機を持ったまま、ベッドで寝ていた。夢か……。
それにしても最後の顎刺しは、何かの拷問かと思った。思わず肩をさすってしまう。
ゲーム画面を見ると、エンディングのスチルになっていた。まさかね? 最後までいったのに眠くて寝ちゃって忘れてただけだよね?
スチルのヒロインは幸せそうに微笑んでいるはずだが、涙目だ。
顎が刺さって痛くて泣いているんじゃないよね? 幸せで嬉しくて泣いているんだよね?
ちゃんと美男美女の微笑ましいスチルだよね?
………よし、ちゃんと布団をかぶって寝よう。そうしよう。美麗イラストは見て楽しむもの…………。ぐぅ。
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