13 結果
「陸、よく頑張ったよ。まさかこんなにうまくなるなんて、思ってなかった」
今日は夢佳先輩の家でお疲れ様会。
今日結果が発表されるの。もうすぐ顧問から連絡が来るはず。
陸先輩、部活が終わってからも一人で練習していたんだって。
なるほど、あそこまで成長するはずだ。
「みんな、ありがとう」
このはちゃんも、すぐに上達した。
ありえないほどの吸収力で。
実は練習してたのかな……?
「今日こそはケーキ買ってきたよー、陸の財布には頼らないことにした」
「わあ、ありがとうございます!」
「おいしそう!」
「ああ、そうだ。夢佳先輩」
すみちゃんが思い出したように手をたたく。
「先輩が筆を返したとき、どんな感じで返したんですか?」
「ああ」
私もそれ、気になってた!
陸先輩、雰囲気が柔らかくなったもん、なんでそうなったのか、不思議だったんだよね。
夢佳先輩は少し顔を赤らめる。
「全部
「えええ」
すごいなあ。
「そうしたら陸、許してくれた」
「夢佳が、そこまで思い詰めているなんて知らなかったから。なんか、俺真希がいなくて、世界が灰色になった感じがしてたんだ。でも、夢佳がいることは変わらないんだって、遅くなったけど、気づくことができたから。夢佳、ありがとう」
「陸先輩、夢佳先輩の告白、どうでしたか!」
「……可愛かった」
「おおお!!」
夢佳先輩、顔真っ赤!
「……でも、」
私たちは次にづづく言葉がわかっている。
焦ったけど、どうしようもない。
「俺は真希が好き。これは、変わらない、と思う」
そして夢佳先輩を見る。
「だけど、これからも一緒にいてくれると嬉しい」
夢佳先輩、小さく頷く。
なんだか卑怯な感じもしてしまうけど、夢佳先輩は、今はそれで幸せなんじゃないかな。
隣にいれることが。
今は……真希ちゃんは、もう、いないから。
いつか真希ちゃんのことを忘れて、二人が一緒になれたらいいな、なんて思った。
ちょっと泣きそうになって、私は慌てて拭った。
それが、きっと。
誰にとってもいい道だと思うから。
ずっと引きずってたってしょうがないんだよ、きっと。
陸先輩も、私も。
突然ドアが開く。
夢佳先輩のお母さんだ!
「先生から電話! 結果きたって!」
心臓がこれ以上ないほどドキドキしてる。
「変わる」
夢佳先輩が電話を手に取る。
「はい、はい。……わかりました。ありがとうございました」
なんか暗い顔をしている?
もしかして、だめだった……?
そう考えて、なんだかうれしい気持ちもあふれてきて、そんな自分に戸惑う。
私が出せなかったのは夢佳先輩のせい。
夢佳先輩が私のことを真希ちゃんと重ねたから……。
真希ちゃんが、陸先輩に好かれていたから……。
私は何一つ悪くないのに。
私が出せたら絶対金賞とれたのに。
そう考えて、余計夢佳先輩のことが許せなくなる。
嫌いだ、と心が叫ぶ。
そういう気持ちを隠し通すことはできないような気がした。
金賞取れたら、真希ちゃんだって喜んでくれたのに……。
……でも、そっか。真希ちゃん、もういないもんね。
結局、関係なかったのかもしれない。
その時ふと思った。
私。真希ちゃんのことしか考えてなかったのに、真希ちゃんがいない人生なんて、たえられるの?
みんなは不安になって夢佳先輩を見ると――。
急に笑顔になった!
「上位賞、うちが独占しました!」
私たちはみんなの手を取って喜ぶ。
心は、複雑だけど。
「やった!」
「銅賞はこのはちゃん、陸」
あ、陸先輩、ガクッって倒れた。
「銀賞は私」
――てことは……?
「金賞は、すみちゃん」
「うそ……!」
「本当! おめでとう、すみちゃん!」
みんながすみちゃんに抱き着く。
「ありがとうございます!」
ふと顔を上げると私の顔が鏡に映っていて。私の頬に涙が伝っていた。
みんなが目標を達成してくれて、すごくうれしかった。——でも。私が書道できてたら、ってどうしても思ってしまう。
私だって、金賞、取りたかったのに。
ごめんね、みんな。
こんなこと考えちゃって。
でも、私は頑張って笑った。
みんなを不安にさせないように。
パーティーは、とても楽しかったけど、どうしてもそれを忘れることはできなかった。
☆★☆
今日は書道部のみんなで夢佳先輩の家に集まっていろいろなゲームをしたり、みんなをよく知るためのお話をしたりしてるんだ。
箱の中からお題を取り出す。
私は四つに折りたたまれた紙を丁寧に開いて質問する。
「すみちゃん、今はまっていることは?」
「ずばり、天野姉弟!」
すみちゃんはビシッと、人差し指を立てる。
「高校一、二年の声優さんなんですけど、演技がベテラン声優さん並にうまくて、アイドル顔負けの可愛さ、かっこよさなんです! 歌もダンスもすごくうまくて。スタイルもよくて、私服もおしゃれ、って話題なんです」
「へ~、どんな子なの? 写真ある?」
珍しく夢佳先輩が食いついてきた。
夢佳先輩はアイドルオタクらしいから、アイドル顔負けって言われたら見ない訳にはいかないかも。
「もちろんです! あーでも、二人とも写っている写真は持ってないかも……」
「私もみたい……!」
お、おしゃれオタクのこのはちゃんも反応してる!
私もちょっと気になるなぁ。
すみちゃんは一番近くにいたこのはちゃんにまず見せる。
「わあ、可愛い……! ほんと、お尻ちっちゃい。美脚! それに可愛いお洋服。着こなせるのすごいなあ。……ん、でも……ちょっと誰かに似てる?」
記憶を探るようにして顔を難しくさせたこのはちゃん。
そして夢佳先輩は強引にすみちゃんのスマホを奪う。
――あれ?
夢佳先輩、不自然に動きを止めた。
笑顔がはがれ落ちる。
「……あのさ、この子たち、生きてるよね?」
「え?」
まさか生きてるかなんて聞かれるとは思わないもんね。
どうしたんだろ、夢佳先輩。
まさか、夢佳先輩、幽霊とか見える体質だったり!? なんてね。
私は少し苦笑する。
我ながら変なことを考えるなって。
でも、幽霊が見える体質だったら……真希ちゃんに会えるから、それはうらやましいな、なんて思ったり。
たくさん言いたいこと、まだあったのに。
まだ約束、果たせてないのに。
……ばかだなぁ、私。
幽霊なんて見えたら余計悲しくなるだけなのに。
すみちゃんは訝りながらも口を開く。
「たぶん。昨日、アニメの生特番にでてましたし」
夢佳先輩は目を大きく見開く。
「あ、あのさ。その子たちの名前って……」
夢佳先輩の唇が震えている。
こんな夢佳先輩、見たことない……。
対してすみちゃんは落ち着いている。
「名前ですか? ……あ、そういえばみんなが話していた……でも、これ言っていいですかね……」
渋るすみちゃんに夢佳先輩は急かすジェスチャーをする。
「この間夢佳先輩がな、亡くなったって言ってた方と、その弟とも、名前が同じなんですよ。お姉ちゃんのほうは
ちらっと慌てて陸先輩を見るけど、この前みたいな症状は見えない。
とりあえずホッとした。けど。
はまのじゃなくて、あまの……? って。
「陸!」
夢佳先輩がそういうや否や陸先輩はひったくるようにしてスマホを見る。
「須藤……!」
私も画像を見せられた。
「う、そ……!」
声がかすれる。
心臓がバクバクと大きく動き始める。
焦点が合わなくなって、頭もぼんやりし始める。
どういうこと、なの。
しかもさっき、生きてるって……。
そこには私の憧れの先輩と、大好きだった男の子が写っていた。
「え、だって、嘘……」
夢佳先輩は放心状態だ。
私も、まだ状況がつかめていない。
どういうこと、なの。
あ、遥大くんが言ってた、同じ顔が世界に三人いるって話?
よく似た別人? ドッペルゲンガー?
でも、こんなきれいな顔、何人もいる……?
いないよね。
すこし、二人であってほしいという気持ちが大きくなる。
すみちゃんは何を勘違いしたのか「ごめんなさい。同じ名前の人がこんなにきれいだったらそうなりますよね」なんて言ってる。
——そういえば……。
遥大くん、私に見てほしい動画があるって。
慌てて遥大くんとのLINEを開く。
あの時は夢佳先輩のことで頭がいっぱいで、忘れてたけど、遥大くんから、悠希くんに似た人がテレビに出てたって。もしかして、それって……!
『今回のゲストは今話題の人気声優、天野姉弟です! その演技力、歌唱力、そしてそのルックスに、心を奪われる人が続出! 今日はその魅力に迫ろうと思います!』
「あ、この間の特集ですね! 梨々花さんもファンなんですか? すみもみましたけど、このテレビ局、最高ですよね! よくこの二人のことがわかっていて——」
ふいに、すみちゃんとの会話が思い出される。
「すみは声優さんが好きなんですけど、声優さんに書道好きの方がいらっしゃって。雑誌で連載を持ってたくらい上手な方で、すみは彼女に影響されて習い始めたんです。彼女もまきさんって名前なんですよ」
「へえ~! なんか運命感じちゃうね。私たち、真希さんに影響されて書道始めたもの同士なんだね」
あの時は何も考えなかったけど、つまり、これは——
「え、陸先輩、その写真どこで入手したんですか!? そんな子供のころの写真、すみ見たことないです! 送ってください! やだなあ、陸先輩もファンだったなんて。みんないってくれればいいのに」
私ははやる気持ちをおさえて口を開く。
「すみちゃん、あのすみちゃんが憧れだって言ってた、声優のまきさんって」
すみちゃんはニコッと笑う。
「あ、そうですよ! 天野真希さんのことです! すみ、雑誌は紙と電子、どっちも買ってるんですけど、その連載見ますか?」
すみちゃんがタブレットを取り出してその連載のページを開く。
私たちはいっせいに顔を寄せる。
「間違いない、これ、真希だ……! 真希の書だ」
「ここにほくろあったの、覚えてる。似た人でも、さすがにほくろの位置までは同じじゃないよね……」
「じゃあ……真希ちゃん、生きてるの……?」
私たちは顔を見合わせた。
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