2 いつものこと

「お願いします」

「……」

 いつものことだけど、先生に見られるときは本当に緊張する。

 今回はうまく書けたと思うんだけど……どうかなぁ……。

「りりちゃん、この線曲がってる」

「ここは余白が空きすぎ」

「この線細すぎ」

 あああ。

 だめだったか……。

 肩をガクッとおとす。

「りりちゃん、今日は調子悪いんじゃない? 頑張らないと三船みふね先生んとこの秋野さんに差をつけられちゃうよ」

 そうなのだ。

 今月で秋野さんが2段になってしまったの。

 あ、秋野さんっていうのは近くの支部の同い年の子なんだ。

 あったことはないんだけど勝手にライバル視してる。

 勢いがあって子供とは思えないような字を書くの。

 すごいんだよ!

 でも……。

 今まで同時に上がってたのに先を越されちゃったんだよね……。

「あ、そのことをひきずってるの?」

「うん……」

「じゃあなおさら頑張らなくちゃ!」

「そう思ってはいるんだけど、そう思うほどかけなくなるっていうか……」

 先生は静かに口を開く。

「もうとっくに真希ちゃんのレベルを越してるよ」

 私ははっと顔を上げる。

「りりちゃんはもっと自信を持っていいと思う」

 そして私の作品を指さす。

「こことか、」

 また別のところをさす。

「こことか。真希ちゃんの真似をしようと思ってるのはわかるけど、真希ちゃんとりりちゃんは違うよ。りりちゃんはりりちゃんらしく書けばいいんだよ」

 ふと真希ちゃんの弟、悠希ゆうきくんの声が思い出される。

「お前はお前のいいところがある。真希の真似してたら俺には一生勝てない」

 分かっているつもりではいたけど、分かっていなかった。

 知らず知らずのうちに、真希ちゃんならどう書くだろうって考えちゃって。

「先生、私らしく書けるように頑張ります」

 先生は笑ってくれた。

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