いつもは災い、今回はご褒美

 アルメリアが魔包丁を作って村中に行き渡らせて一ヶ月が経った。


 アルメリアも村にすっかり馴染み、たまにとんでもない魔道具を作る魔道技師としてすっかり馴染んでいた。


 前日に徹夜で狩猟用の弓を作っていたので、昼過ぎまでベッドに潜り込んだアルメリアは半鐘の音で目が覚めた。


 ベッド脇の窓から外を見るが半鐘の音以外いつもと変わらない景色だったので軽く小首を傾げるとモソモソと服を着替え、まだ眠い頭のまま店舗部分に行くと、ルビイが入ってきた。


「良かった、まだ居たね」


 明らかにほっとした顔のルビイに対しアルメリアは不思議そうに


「外で何があったんですか?」


 と、尋ねるとルビイは口の端をにっと上げて獰猛な笑みを浮かべた。


「ああ、ホーンラビットの大群がこの村に向かってるのさ」


 ルビイの話だと年に一回ホーンラビットの群れが村に突撃してくるそうで、普段なら男達が村の前で迎撃しているそうだが、今回は女衆が包丁を使って迎撃することになったそうだ。


「情け無い男どもと違ってあたし達は村の中に入れる前に仕留めてやるさ」


 そう言ってにししと笑うルビイ。


「私も行く準備をしないとですね」


 そう言って手を握るアルメリアにルビイは首を横に振って


「アルには村の中にいて怪我人とかの治療を頼みたいんだ」


「そうなのですか?」


「ああ、こんな辺境の村だし医者もいないから毎年困ってたんだよ

 アルはポーションも作れるし、最悪あの人形も使えるだろ?」


 そう言われてアルメリアも、そっかと納得した。


 実際はルビイ達がアルメリアがホーンラビットとかを倒せるとは思っていないのと、優しいあの子を危険な目に合わせたくないと話し合った結果だった。


 

 村の外side


「おーし!今日のあたいらはちょっと違うよ!なんせ魔剣……いや、魔包丁があるんだ!いつも男どもに溜まってるストレスをぶつけるつもりでやりな!」


「「おおー」」


 サファイアの号令で村の女衆は包丁を構えて殺気立ち歓声を上げると、森の少し先の方にホーンラビットの群れが見え始めた。


「抜剣!突撃!」


 ルビイの号令の元全員が包丁を抜き放ち森に突撃していく。


「フーガ!もう少し綺麗に木を切れよ!

後の加工が大変なんだよ!」


 フーガの幼なじみの17〜8のオレンジの髪の女の子が包丁でホーンラビットの胴体を真っ二つにする。


「あんた!いつもいつも、女を見れば色目使って!ちょんぎるよ!」


 村長の奥さんが包丁を振るってホーンラビットの大事な部分をちょん切り首をはねる。


 女衆は口々に男への不満をぶつけると、ホーンラビットの命を刈り取っていく。


 魔物であるホーンラビットは子供サイズとは言え150cmはある大型のウサギに鋭いツノが生えた魔物である。


 その突進を受けて毎年男達は大怪我を負ったりもしていたのだが、女衆はまるでそれを食らうことなくホーンラビットの首や胴体を何の抵抗もなく切り裂いていく。


 偶に男の子の大切なところが切り飛ばされるのはご愛敬だろうか?


「いいぞ!ただし、ツノと真石は傷つけるなよ!」


「「はい!」」


 100匹は軽く超えるホーンラビットの群れはこうして次々に刈り取られ、大進行は終わりを迎えた。


後には清々しい笑顔を浮かべる女衆がお互いの健闘をたたえたり、今度一緒に旦那をお仕置きしようと盛り上がる姿も見えた。


「今回はご褒美になるほどの成果だったね」


「そうだな、女衆もスッキリしたみたいだし、村に通した奴もいねぇ」


「それに真石も取れたし、アルちゃんに素材をいっぱい提供できますね」


 元さんばばはそう言いながら大量に地面に転がってるホーンラビットの残骸を見ていた。




村の櫓や門付近side


「お、おい、いつもよりホーンラビットの数多くないか?」


「あ、ああ、間違いない

こりゃぁこっちにかなり来るぞ

みんな準備を怠るなよ」


「「おお」」


 気合を入れた男達だったが、目の前で繰り広げられる斬殺劇に目が点になる


「フーガ!もう少し綺麗に木を切れよ!

後の加工が大変なんだよ!」


 幼なじみの怒声に大きな体を縮こまらせて


「はい!すいません」


 と、思わず声が出てしまう。


「あんた!いつもいつも、女を見れば色目使って!ちょんぎるよ!」


 村長は股間を押さえてただただ青くなって頷くだけだった。


 ホーンラビットの大事な所が切り飛ばされるたびに男達は股間を押さえて顔を青くさせる。


 あまりの出来事に理解がついていかなくても、恐怖が体に刻み込まれていく


 ホーンラビットの群れを討伐し終わった女衆に、後片付けを任せられた男達は


「なぁ、本当は魔物よりうちの女達の方が怖くないか?」


 誰かの呟きが聞こえると


「そうだよな、俺切り飛ばされるの嫌だ!」


 女達を恐れる声があちらこちらで上がり、真面目にホーンラビットの回収や血抜きをしていく。


「おれ、もう少し丁寧に仕事することにするよ」


「そうだな、ワシも女房にバレないように色目を使うことにする」


「そこはやめないのか?」


 フーガの呟きに答えた村長の言葉にフーガのツッコミが入る。


「そりゃあ前、女に色目を使わないのは失礼だろう

それにワシの命の源だからな」


 フーガは強いな、と思った反面、こうならないようにしようと心に誓った。


 こうして男達の心に消えない傷を作り、いつもなら村に損害が出るホーンラビットの氾濫は収束した。


 村のあちこちで恋人や奥さんの尻に引かれた男達の姿を見ることになったのもご愛敬。


 アルメリアside


 村の外が静かになり、血塗れの女性達が帰ってくると

 アルメリアが奇妙な物を庭に作っているのか見えた。


 回復魚の生簀の横に岩で囲まれた池の中から湯気が立ち上っているのだ。


「お帰りなさい、疲れに効く回復の湯を用意しました」


「あ、ありがとう?

ってこれは何だい?」


「お風呂ですよ炎と天然魔石と回復の魔石を足してそこにお水を張るたと回復の湯の完成です」


一瞬嫌な予感がしたルビイだったが、疲れが先立ってしまい「ありがとう」とお礼を言ってみんなを連れてお風呂にいってしまった。


 アルメリアは庭が手狭になってきたので、隣の空き地を使っていいか、村長の奥さんに聞こうと思っていた。


 もっともこの後女性のために、大きな露天風呂を作ることになるとは誰も思っていなかった。


「なんじゃこりゃぁ」


 露天風呂から叫び声が聞こえて、アルメリアが覗きに行ったら。


 そこには20代まで若返ったり肌がピチピチになった女性達がいた。


「何かありましたか?」


アルメリアが顔を覗かせると村長の奥さんが驚きを身体で表現しながら


「何かって、30より上の人はみんな20に若返ったし、この子なんてアカギレも消えて年相応の肌に戻ってるんだよ」


 アルメリアは可愛らしく小首を傾げて


「回復の魔石が入っているので、皆さんの適正な状態に戻りますから」


「それだ!引っかかってたのはそれだ!」


「まあまあ、私たちには悪いことじゃないんだから、でも男達には使わせるのはしばらく後にしましょう」


 村長の奥さんがとりなすと


「ま、まあローザさんが言うなら……」


 そう言ってルビイも無理矢理納得する事にした。


 結果的に、辺境の村には女性だけが入れる露天風呂ができ、その後男達の懇願で男達には回復の魔石を使わないお酒が飲める露天風呂が出来た。


 ちなみに何故だかその後の村の出生率が上がったのは永遠の謎である。





















 

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