国宝?そんなこと知りません

 アルメリアはフーガの苦い魚という言葉が気になり、本で読んだ知識を思いだしていた。


 ポーションにすると死ぬほど苦く、丸薬にして苦味を抑えても胃がひっくり返るとの一文を思い出した時にはまさかと思った。


1匹を捌いて口に入れ事を後悔するほど苦い事を認識すると、使い方が分からなくなったが、そんな時に天啓が訪れた。


 捌いた回復魚の中から回復の天然魔石が出てきたのだ、自然界には存在しないとされる回復の天然魔石が。


 アルメリアの頭は素早く幾つかの予測から正しいと思われる結論を導き出した。


 川の天然の魔石を誤って飲み飲んだか、何かしらの理由で飲み込み、回復魚の回復力をゆっくり吸収して出来上がったのではないかと。


 そして、王国にいる時から考えて来た物が作れるかもしれないと。


 早速5枚の木の板に魔法陣を描きつつ、慎重にコアになる部分に回復の天然魔石がハマる部分を掘り進めて行く。

5枚の板に描かれた魔法陣が一つの魔法を再現するためのシステムのように組み立てて行く。


「出来た」


 次の日の朝、お店のカウンターの上には黒髪でオカッパ頭の市松人形が有った。

 

「名付けて回復の人形おいちちゃん」


 そう言うとカウンターの上にあったナイフで浅く指を切りおいちちゃんの前に出すと。


 おいちちゃんは口を開き


「い、イタソウカワイソウニ」


 と無機質な声を出すと、目から緑の光を放つと、アルメリアの指の傷が綺麗に消えた。


「やった!成功♪」


 少々不気味な人形ではあったが、回復能力がある事を確認すると、おいちちゃんを小脇に抱えて、家の外に出て行った。


 最初は腰痛持ちのおばあさんの所へ


「あら?アルちゃんどうしたんだい?」


 にこやかに出迎えてくれた、おばあさんは腰が曲がって杖をついているが腰が痛いためか足を引きずるような動きをしていた。


「少しこの子の性能を見たくて、おばあさんの腰が治れば成功なの。

 お願い使っても良いかしら?」


 おばあさんはまぁ毒にならないならと、軽く了承し、アルメリアの言うように椅子の背もたれを前にして座った。


「おお!ナントツラソウナコトカ!」


 おいちちゃんは目からアルメリアの時とは比べ物にならないほどの強い光がおばあさんの中に入り込み、まるで光の繭に包まれたようになった。


 あれ〜?おかしいな、もっと簡単に治るはずなんだけど?


 アルメリアは心の中で冷や汗をかきながら光が消えるのを待っていた。


 かなりの時間が経ちようやく光が収まると、中から高身長のキリッとした銀髪の妙齢な女性が姿を現した。


「あの?おばあさんはどこへ?」


「うん?あたしならここにいるじゃないか?」


「え?」


 アルメリアは無限収納にある自分の手鏡を渡すと、女性が鏡を覗き込み、目を見開いて


「何これ!!!!!!」


 と叫び声を上げた。


「わ、若い頃のあたし……

あ、アルちゃんこれは元に戻らないのよね?」


「えっと……」


 アルメリアが視線をおいちちゃんに向けると、おいちちゃんは器用に親指を立てて、ウインクして見せた。


「も、戻らないみたいです」


 アルメリアがそう伝えると、元おばあさんは身体中で喜びを表すと


「よっしゃ!これで第二の人生を謳歌してやるわ!!

 同い年のじじいにばーさんばーさん言われてへきへきしてたのよ!

 あたしはルビイって名前があるってぇの!

あはは」


 喜び踊り狂うルビイにアルメリアはどうしようと途方に暮れていたが


「これはすごい物だよ!

 まさに、皇國の失われた国宝じゃないか!

これが再現できるなんて、アルは天才だね」


 国宝なんて知らないよ、私は回復アイテムを作ったつもりだったのに、若返るなんて……


 アルメリアの心の落ち込みはともかくとして、ルビイが若返った事により、多くのお年寄りがアルメリアに若返りを望んだが、2人若返った所で回復の天然魔石の力が切れた。


 お年寄り達の落ち込みは激しかったが仕方ない、回復魚から魔石が取れる事は黙っている事にした。


 こう言うことが出来るから、他の国では回復魚が絶滅したんだなぁと思いつつ、そっとおいちちゃんを棚に仕舞い込むのだった。











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