アルメリアのお気楽生活2
盗賊の討伐から1週間が経ち、アルメリアは鍛冶屋も無い辺境において必要なものである道具の修理と都でも貴重な薬師としてのんびり生活をしていた。
「アルちゃんこれなんだが」
アルメリアがもらった家の土間の部分を軽く改装した店舗は木製の壁で簡単なカウンターが置いてあり、かろうじてお店の格好をしている。
今日は木こりフーガが、刃の潰れた銅のオノを持ち込んできた。
「これは……少し形が変わってしまいますが良いですか?」
可愛く小首を傾げるアルメリアにフーガは少し顔を赤くして
「ああ、直るならある程度は構わないよ」
アルメリアの修理は新品よりも良くなると評判で、入れ替わり立ち替わり人が訪れていた。
フーガの了解を得たアルメリアはカウンターの下から鈍色のインゴットを取り出し、魔法陣を刻み付けた木の板の上にオノと一緒に置いて魔力を込めていくと、オノの金属部分も溶けると一つになっていき、緑の光が一瞬あたりを包み込むと、黒鉄色のオノがそこにあった。
「ふ〜、完成です
少し重さとか確認してもらって良いですか?」
フーガは呆然としながら言われるままにオノを手に取ってみる。
銅のオノよりも重く明らかにしっかりとした鋭い刃の付いた金属部分は最近出回り始めた鉄のオノのように思えた。
「こ、これは鉄のオノかい?」
目を見開いて問いかけるフーガに、アルメリアは笑顔を向けると
「黒鉄ですよ
鉄の上位版ですね、オノに向いてる強度と重さがあって、お手入れも楽なので変えてみたのですが、ダメでしたか?」
そう言って上目遣いで見つめた途端、フーガは顔を逸らして
「い、いや、あのな
鉄でもオレ達の手には遠い金額なのに、それより上のもんなんて払えるわけがないぞ」
フーガの言葉にアルメリアは唇の下に人差し指を当てて、うーんと唸ると
「鉱石は村のそばの川縁にあったし、錬金術は木の板に刻んで何回か使えるようにしてるから、ほとんど元手がかかってないので、大銅貨5枚でいかがでしょうか?」
アルメリアの提案に、フーガは驚き開いた口が塞がらなかった。
その姿にアルメリアはドライマウスになりそうとか、あ、虫歯発見とか思っていた。
結局は、アルメリアの言うように大銅貨5枚になり、そのかわりフーガが森に行った時に手に入る鉱石や、石をタダでもらうことで決着がついた。
こうしたやりとりは他の村人とも何度も行われ野菜や織物肉なども、村人からもらえるようになって行っていた。
そんなある日、村に魚がないことに気がついたアルメリアは川まで行ってみることにした。
川には黒鉄の材料になる鉱石と、魔道具のコアになる天然魔石があり、アルメリアは無限収納に素材を収めつつ、川のほとりから川の中を覗いてみると、透き通った川の中を緑色の魚が泳いでるのが見えた。
よくよくその魚を見ると珍しい回復魚と言われるポーションの材料で王国ではまず手に入らない素材だった。
「よし、この子の出番だね」
無限収納からタモを取り出して静かに動かして3匹ほどすくい上げる
タモには静音と光学迷彩の魔法がかかっている魔道具でもちろんアルメリアの作品だ。
皇都にいる魔道具販売士や魔道具の復活のために研究している者達からしたら、何ともったいない技術の使い方をしているのかと怒り出しそうな、ムダハイスペック道具に仕上がっていた。
回復魚を手に入れた事ですっかり機嫌を良くして、食べるための魚を探すのも忘れて家に帰って行った。
家に戻ると、アルメリアはいそいそと魚を育てる生簀を作り始め、その日の夕方には庭に立派な生簀が完成していた。
生簀の中に川で取った黒鉄の原石や天然魔石を置き環境をととのえ魔道具で水流も再現して完璧な姿を満足そうに眺めていると、フーガがやってきて生簀を覗き込むと
「アルはこんな長い魚が好きなのか?」
と訪ねてきた。
「これは、お薬の元になるんですよ」
そう答えると、フーガは明らかに苦い味を思い出したかのように顔をしかめて、身震いをすると
「オレには使わないでくれよ」
そう言って去っていくフーガの後ろ姿がなんだかかわいいと思ってしまったアルメリアだった
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