extra episode.2




 夏休みになって、私はクラウディオ王子に王宮に招かれた。義兄のレイモンドも一緒である。

 マリアンヌが行きたがっていたが、招かれていないし妃候補の一人だし、連れて来る訳にもいかなかった。


 なぜ私と義兄が招かれたのかと言えば、リリーから救った件のお礼という話だった。

 あとは被害者の友の会である。


 城に入るのは初めてなので少しキョロキョロ、ワクワクしてしまったが、内輪の茶会ということで、私たちを乗せた馬車は王族の暮らす奥の王宮へ直接向かった。

 宮殿前で馬車を降り、中へ案内されて廊下を進んだ。白を基調とした明るい雰囲気で、華美というより優麗と言いたい。

 しかし部屋には通されず、夏の花が咲き誇る庭園に出た。そこに青い屋根の四阿ガゼボが建てられている。宮殿と同じく白い柱の八角形の建物だ。


 この時間帯は日陰になるようで、風通しも良さそうだ。

 王子の他にエリック、ロイド、セージも先に来ていた。


「良く来たな」

「お招きいただき、ありがとうございます」


 挨拶を交わして、示された席につく。六人で入ってもまだ広さには余裕があった。

 テーブルの上にはすでに茶会の用意は整っていたが、私たちの到着に合わせて侍女がお茶を淹れた。


「何か欲しい物や、希望はあるか?」


 お茶を待ちながらテーブルの上を見ていた私は、王子に声をかけられて、悩みつつ答えた。


「オレンジ、いやでもそっちのベリー系のケーキも気になる……」

「ディー、殿下はケーキの話をしている訳じゃないと思うよ」


 義兄にこっそり教えられて王子を見れば、気まずげに目をそらされた。


「早急すぎたな……ケーキはどれも王宮の料理人の力作だから、私も選ぶのに迷う」

「助けられたお礼だって言っただろ。俺は全種類制覇するけどな!」


 王子は気遣ってくれたが、2歳年下の少年は失礼だった。

 セージは緑色にも見える黒髪に、明るいオレンジ色の瞳をしている。教室であまり話さない相手なので、背伸びしたいお年頃の悪ガキというイメージしか持っていなかった。


「カボチャ色……」

「カボチャじゃねぇ!」

「海藻頭……」


 カラーリングのせいで常々思っていたことを告げたら、本人も「この色キライなんだよ!」と怒ったものだ。


「というか、美少年たちに囲まれて一人逆ハーレムなお茶会がお礼じゃなかったんですか?すでにこの状況がご褒美なのかと思ってました」

「いや、そんなつもりは……」

「きっと多くの女子たちが羨ましがると思いますよ。特に殿下を囲む肉食獣の群れが」


 羨望より嫉妬のほうが大きい気もする。


「舞踏会ですごかったよねー」

「舞踏会は恐ろしい所だった……」


 エリックとロイドがそれぞれの見解を述べている。肉食獣の話だ。


「殿下が結局だれとも踊らないから、余計に次こそはって威力を増したように見えました」

「……気のせいだ」

「ああいうのは徐々にヒートアップして行くものですよ。後回しにしたツケを払う日がきっと来る!」

「そうは言われても決めかねてるんだ!」


 王子の妃探しは難航しているらしい。

 うちのマリアンヌは可愛いですと売り込みたい気分だ。出来ないけど。


「だいたい私の一存で決められる訳でもないし、大臣たちのすすめて来る娘は特に考えたくない性格をしているし……!」


 大臣たちは自分の縁者をすすめているのだろう。王子の好みは度外視で。

 うちのマリアンヌは可愛いですよ、と益々おすすめしたい。


 義兄が「今日のところはそれは忘れて、お茶を楽しみましょう」となだめている。

 王子の愚痴を聞く会になるところだった。


「お前が話をらすからだぞ」

「ディアンヌが一番喜ぶのは朗読会ですよ、殿下」

「朗読?」


 義兄が話の流れを修正するように、私の気持ちを代弁し始めた。さすがは義兄だ。私の好みは熟知している。


「内容よりも声を聴いていたいと言って、絵本や昔話でも喜びますから」

「変わった趣味だなー」

「カボチャ君……じゃなくてセージだと、微笑ましい気分になると思うな」


 一言余計なセージは、子供扱いするな!と定番のセリフを口にする。

 それすら私にとってはご褒美だと気づかないとは、まだまだ青いのぉ。


「特に口数の少ないロイドとか、喋るの苦手だろうと朗読ならその美声を堪能できるのだよ。おすすめ!」

「何におすすめしてるんだよ」

「セージ、いちいちつっこむと話が迷走するからね」


 突っかかって来ていたセージも、エリックに言われて嫌そうな顔をしつつも引き下がっていた。

 確かに義兄が修正したのに台無しだ。


「まあ、それで良いというなら、そのくらいは……」

「会ということは、他にも参加者が?」

「ディアンヌが殿下を独占しては恨まれてしまいそうですから、そうしていただければ」


 私は妃候補に入っていないので敵ではないはずなのに、お構いなしでジェラシーストームを吹き荒らすことだろう。目に浮かぶ。

 恋は理屈ではないのだ。

 恋ではなく打算の人もいるかもしれないが。


 その後は、人を集めるのならば絵本とはいかないだろう、と何の本にしたらいいか話し合った。王子のイメージを損ねる物は却下された。



 人気声優の声帯を持つ美声の主たちが話し合うのである。正直朗読会より豪華で楽しかったが、開いてくれるというのなら朗読会も堪能するつもりだ。


 お茶会のことが過激派女子たちにバレて文句を言われたが、朗読会おすそわけしたじゃないと言って誤魔化す役にも立った。


 有意義な一時だった。



〈episode end〉

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