エピローグ




 リリーが消えた。


 公園で話している時に訳のわからない事を言いだして、話の途中で消えたのだ。

 見ていた私にも何が何やら、キツネに化かされたような気分だ。


 特殊能力者の消失は国家として放っておけない事態だというが、二度と戻らないという確証を得たいだけであって、戻って来て欲しい訳ではない。

 はた迷惑な能力だったからね。

 リリーが王妃になったら、国を好き放題だっただろうし。


 そして学園内では、リリーがいなくなったことで、王子を含めたイケメンたちの評判が回復していた。

 彼らのせいではないと知っていても、かっこ悪い姿を見せられたら評価も下がるというものだ。

 だから本来の評価になったと言うべきなのだが、第一印象って大事だし。




「誰かが、クラウディオ殿下の舞踏会イベントがマジ最高!フォー!とか言ってた気がするんだけど、予知夢かな……」

「予知するまでもないと思うわよ」


 あれから約2ヶ月が過ぎた。

 夏休み直前に学園恒例の舞踏会が開かれるのだが、五日後に当日を迎えるのだ。


 舞踏会といっても終業式の後の昼間に行うし、生徒しか参加しないし、七月下旬でクソ暑いしで、なんでこのタイミングに設定しやがったー!?と久々にクソゲー感がハンパない。

 いやゲームのイベントは、実際の気候まで考えないのが普通なのかもしれないけどさ!


 私はドレスなんて着たくない。

 マリアンヌは「王子様と踊れるかしら」とそわそわしていて可愛いけど。


「私、舞踏会より朗読会のほうがいいな。そうだ、眼鏡、じゃなくてエリックに言うの忘れてた。あー、でも結局何の役にも立たなかったから言えなかったんだっけ……」


 暑くてぐだぐだしてしまう。


「お義兄様に頼んだら?」

「この間、私の書いた奴を読まれたからヤダ……!」


 新手のいじめかと思った。


 教室の席で姉妹で話していると、他の女子も聞きつけて寄って来た。読書好きで大人しめの子たちである。


「そうだ、今度、殿方同士の愛の劇場を書いてやろう!お義兄様は受けな!処女おとめのように翻弄されるがいい!」

「な、何を書くつもりなのっ」


 私の思いつきのテキトーな話にマリアンヌは恥ずかしいとばかりに怒ったが、友人たちは目を輝かせて喰いついてきた。


「ディアンヌさん、イケるクチですの!?」

「お書きになられるの!?」

「殿下とレイモンド先輩の主従モノはいかがかしら!?でも先輩は受けではなく攻めよ。ここは譲れませんわ!」

「主従モノなら殿下とロイドでしょう!?わたくし、受け攻めはそこまでこだわりませんけど、好みで申し上げるとロイド受けですわねっ」

「闇堕ちした先輩をお見かけしてから、あの方は絶対に攻めだと思いますの…!」


 いつの間に腐に染まっていたのか、肉食系女子にも勝るとも劣らぬパワーであった。

 懐かしいな……前世でもいたんだよね、こういう友達。

 だから知ってる。こういう時の女の子には勝てないって。


「マリィは染まらないで……」

「そうね……」


 あとお義兄様には言わないで。

 バレたら恐ろしいことが起きることだろう。



〈Fin.〉

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