第11話
「やったわ!敗者復活成功よ!あはははは!」
マリアンヌが王宮での茶会から帰って来てから「お話は出来たけど、わからないわ」と乙女な悩みを抱えていて可愛いなぁ、と思った週明けの朝の教室で、リリーがどことなく狂気を感じさせる声で嗤っていた。
そしてクラウディオ王子が以前のようにリリーに操られていた。
「マリアンヌ!貴様、私のプリンセスになんてことをした!」
「え!?何のことですの!?」
「とぼけるな!」
マリアンヌは悪役令嬢として巻き込まれている。リリーはニヤニヤ嗤って、演技すら省いて「助けて、王子様」と王子にしがみついていた。
エリック、ロイド、セージの三人もリリーの味方で、クラスメイトたちまで操られてマリアンヌを責め立てている。まるでイジメである。
しかし『ディアンヌ』は今回も強制力を受けていなかった。
「殿下、まず『いつ、どこで、何があった』のか説明して下さい。突然すぎて何の話かわかりません」
私がなるべく冷静に割って入ると、リリーは「邪魔をするな!」と慌てたが、王子がそれもそうだなと応じた。
リリーのシナリオが中断されたのか、生徒たちの熱狂はそこでぶつりと途切れた。混乱よりも、またかよという空気である。
「昨日の王宮での茶会の席で、マリアンヌがリリーに紅茶をぶっかけたのだ!」
「リリーも招待されていたのですか?」
「いや……いや……?」
話の矛盾点はすぐに見つかった。マリアンヌが「そんなことしてませんわ!」と言うまでもなく、王子が自分の発言に考え込んでいる。
リリーのフォローをするように、騎士ロイドが説明を追加した。
「自分が案内しました。殿下が他の女性と婚約する前に話がしたいと彼女が泣くのが哀れで」
学園内で話しとけ、という言い訳である。
「城に入る許可はどなたが出したのでしょう。それだけの理由で簡単に許可されるものなのですか?」
「か、彼女は特別なんだ!」
「それと、殿下も同席されていた茶会での話を何故今頃おっしゃるんですか?その場で注意しなかったのですか?殿下が目撃したんじゃないんですか?」
それは、と王子は口ごもる。
「案内した騎士の方なら、目撃したんですよね?」
騎士の方も見ていないと頭を抱えてている。
「なんで邪魔するのよ!こういうシナリオなのよ!」
「じゃあ作り話じゃねぇか」
今までもリリーに都合良く話が進んだが、明らかに事実無根ではまかり通らないだろう。
証拠も証言もないようだし。
「マリアンヌ、お茶会でその人に会った?」
「会ってないわ!お茶会は和やかに過ぎて終わったもの!殿下だってご存知のはずよ!」
マリアンヌも偽証するまでもない。
王子が「そうだ、そうだった」と頭を押さえながら応えた。
「茶会で問題など起きなかった。リリーには会わなかった。だが、なんだこれは……」
「王子様が帰ったあと!そう、王子様は見てなかったから、今朝知ったの!それなら辻褄が合うんでしょ!騎士様だってアタシを送ってくれた後、離れていたの!二人きりで話せるようにって気を遣ってくれた!でも王子様はもういなくて、その女がいたのよ!」
リリーが必死に話を作っている。そんな適当でもいいのか、ヒロイン補正ズルい!
「だったら証拠と目撃者を出してもらおうか。どっちも本人の主張以外にないんだし、ここで殿下もリリーが好きだからリリーが正しいに決まっている!とは言いませんよね?ね?」
「……い、言わない……」
仕方なく王子を脅しつけて言質をとった。
リリーが凄まじい顔で睨んでくるが、こちらが勝った訳でもないのだ。
リリーは証拠と証人をでっち上げて来そうで安心出来ないし。
「城に戻ったら、調べてみよう。ロイドもそれでいいな」
「はい、殿下。自分はその日、城に行ったのでしょうか……」
王子と騎士は本来の性格に戻ったようで、互いに記憶が混乱した様子ながらも対応について話し合っていた。
リリーは「フラグを建てて攻略が成功すれば他はどうでもいい」という態度だが、もう少し他人の気持ちも考えて欲しいものだ。
翌日はリリーの嘘のほうが証明されてしまい、その代償とばかりに王子と騎士が解放されたらしい。残った二人が悲痛な叫びを上げていたものだ。
嘘をついたせいでシナリオが破綻して、進行不可能になったのだろうか、と思う。ただの臆測でしかないが。
「ディアンヌ、昨日は助かった。君が冷静に指摘してくれたおかげだ」
「何故か私は強制力を感じなかったんですよね」
休み時間に王子が声をかけて来た。
リリーは「イベントは成功したのに」「原作だってああいうシナリオだったのに」と納得できない様子だが、やり直しが効かなかったのか、時間が巻き戻ることはなかった。
「前回も君は彼女の力に逆らっていなかったか?」
「なんででしょうねー」
特殊能力が効かないとか、我ながらおかしいと思われているだろうとは思う。だが前世だ転生だと言う訳にもいかないだろう。
それに実際のところは、理由がわかっていないのだ。
「ところで、殿下のお妃選びの進捗はいかがですか?」
「……私の一存では決められないし、まだ極秘だ」
「候補の中に何人くらい肉食系がいましたか?」
「皆無ではなかった、とだけ言っておく」
王子が「アレはない」という顔をしている気がするものの、マリアンヌは大丈夫だったはずだ。だからライバルは減ったはずだ。
双子の姉のためにも、だったらいいなと思ったのだった。
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