第4話
双子の姉のマリアンヌは、ちょっとお馬鹿だけど可愛い女の子だ。
特に声が良い。
何故なら他のキャラクター同様、人気声優の声帯を持っているからだ。
悪役だか好敵手だか知らないが、事前に紹介されていたので出番の多い役どころだったのだろう。あのクソゲーは、シナリオ以外はとても豪華だったのである。
ゲームのことを思い出すと文句しか出て来ないので、それは横に置くとして。
母に似ているのは顔だけでまだ可愛いマリアンヌを、どうにか母に似ないように育てて行きたいと思った。母コワカッタ……
どうしたら良いのかしばらく悩み、思い付きを形にするために時間もかかった。気付けば前世を思い出してから半年が過ぎていた。
「という訳で、読むが良い!」
「何がどういう訳なのよ。なんで読まなくてはならないの。ディアンヌの分際で生意気よ!」
ま、まだ似てないから!まだ可愛いから!今ならまだ間に合うって信じてるから!
つんけんしていても5歳児だから可愛いのだ。美少女だし。声も良いし。
「あー、わかった。マリィ、字が読めないんだ。私はお義兄様のところで勉強してるから、もうなんでも書けるけど」
「な、なんですって!読めるもん!」
ほらチョロイン。悪役令嬢じゃなくて、私の可愛いヒロインですよ。
マリアンヌは簡単に挑発に乗って、私の差し出した紙の束を引ったくった。汚い字とか言いつつ、こそこそお付きの女中に尋ねながら読み始める。
渡した紙の束は何かと言えば、前世で取った杵柄と言うか、前世でやってた同人活動と言うか、私の書いた物語である。
と言っても、かの有名な童話シンデレラをアレンジしただけだ。マリアンヌが興味を持てるように、王子様の描写に力を入れてある。モデルはこのクソゲー世界のメイン攻略対象の王子だ。外見だけ。
あとは私のヲタ知識を駆使して、他のゲームの王子様の性格・言動・セリフなどを考えた力作だ。
ちなみにこの世界で使われているのは日本語なので、手が小さくて書きにくい以外は問題なかった。
さほど長い話ではないので、しばらくすればマリアンヌも読み終えたようだ。
「これ、ディーが考えたの?素敵!王子様かっこいい!」
「シンデレラのモデルはお義兄様よ」
「!?」
「継母、どう思った?いじわるな双子の妹たちは?王子様に好かれる女の子って、どんな子だと思う?」
たたみかけるように問えば、マリアンヌにも伝わったようだ。いやー!?と悲鳴をあげて頭を抱えている。
一緒に読んでいた女中が、悟りの境地に至ったかのような顔でなだめていたものだ。
継母といじわるな妹たちのモデルは言うまでもないだろう。
「まさかこの妹たち、ワタシとディーなの……?」
「陰気なほうが私!」
「自分で自分をなんだと思って書いたのよ!?」
いじわるな妹たちは高笑いするほうと、クククと陰気に笑うほうという、わかりやすいキャラ付けをしておいた。
女中が似ていませんよとなぐさめを口にしていたが、けっこう自信作だ。
「これは作り話だけど、お母様似のマリィが心配よ」
「いやー、ワタシお父様似が良かったー!」
母を反面教師として、素敵なレディになってもらいたい。まだ間に合うから!
マリアンヌは「いやー」「やだー」としばらく半泣きで悩んでいた。なぐさめていた女中が私に「ところで」と話を振って来た。
「大変素晴らしい才能だと思いますわ、ディアンヌ様。他の者にも教えてあげたいのですが、よろしいでしょうか」
「お母様にバレたら八つ裂きよ、私が……」
誰も否定しなかった。
ヤバいブツは庭で焼却処分にして、証拠は隠滅したのだった。
その後、マリアンヌが「王子様の出て来るお話を書いて!」と何度も言うので、脱お母様のご褒美と思って書いてあげた。母に見つかっても大丈夫な内容にしてある。
マリアンヌだけでなく女中たちにも人気で、褒められると悪い気がしないし、前世でも似たようなことをしていたのだ。
童話風からロマンス小説へと進化して行き、転生しても人間ってあんまり変わらないものなんだなと思ったりしたものだ。
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