第5話 コーラにメントスは誰もが知る常識。


 

 ――――時刻は21時


 夜の街を木蓮とハズキは歩いている。

 勿論、周囲の警戒を怠ってはいない。


「次、そこまがんぞー」


 木蓮の異常な索敵能力が、黒服の者達をより早く見つけ即行動を回避をする。


「ねぇ、これってコンビニよね?」


 道を曲がったところにハズキはコンビニを見つけた。


「あぁ、そうだな」


「あたしちょっと寄ってみたいわ。行ったことないのよコンビニ。」


「……まじかい。」


 驚いた表情を浮かべ「まぁ、いいけどよ」と木蓮はコンビニの入り口の扉を開く。


「なにか欲しいのがあんのか?」


「……そうね。特にはないわ。」


 ただ入ってみたいという好奇心だったのでしょう。「そうかい」と木蓮は頷き、コンビの中を観て回るハズキの後を追った。


「あ、これコーラよね?」


 ドリンク売り場で、ハズキの目に小さなコーラの缶が映る。


「そうだな」


「これ、貰うわ」


 ハズキはその小さなコーラの缶を手に取った。

 そんなハズキの姿に(余程、コーラが気に入ったのか)と木蓮は小さく頷き


「いいのか、そっちで? こっちのが大きいぞ。」


 木蓮はペットボトルに入った500mlのコーラを指差した。


「いいのよ。そんなに飲めないもの。」


 そう言って断るハズキに、木蓮は小馬鹿にするような笑みを浮かべて言ていうのだ。


「ははーん。さては炭酸が、まだお得意ではないんですね。ぷふふ、お子様だーい」


「ぅるっさいわね! さっき初めてしゅわしゅわを飲んだんだから仕方ないでしょ!」


 そんな苛立ちを表すハズキに「しゅわしゅわなんて、可愛らしい表現ですこと。ぷふふ。」と更に木蓮は煽るのだ。


「ホント、ムカつくわね!」


 と言いつつも、ハズキは小さな声で「これ、どうすれば良いのよ……」と木蓮に相談するよう尋ねてきた。

 木蓮は「あー。」と頷いて


「あそこの店員さんがいるレジに持ってけば買えるぞ」


 ハズキにコーラの購入の仕方について教える。

 ハズキは「そう」と素っ気なく返事をすると、言われた通りに小さなコーラの缶を持ってレジへと向かった。

 その途中でハズキは振り返り、「アンタにも一つだけ何か買ってあげるわ。3秒以内に選びなさい」と唐突に木蓮へ告げる。


「ええ!?」


 木蓮は咄嗟のことに驚きつつも、「コレしかないだろ!」と一つのお菓子を片手に3秒以内にレジへと向かうのだ。


「ありがとうございましたー!」


 そうして、二人はコンビニを出る。


 夏休みの夜。

 木蓮は、コンビニエンスストアで買った350mlのコーラを片手に歩く少女と夜の散歩をする。

 その少女は可憐で美しい。

 けれど、その少女は心に何かを抱え、多くの普通を知らない。

 深くは聞かないが、依頼と契約がある限り少女を護ると誓った。

 今も、少女は誰かに狙われて追われている。

 その者達を警戒しながら、木蓮と少女は道を歩むのだ。

 そして、そんな少女から買ってもらったお菓子を木蓮はこの手にもっている。


 お菓子の名前はそう――――メントス。


 そのお菓子を木蓮は、普通を知らない少女の前で態とらしく美味しそうに食べる。


「うんめぇー。 ありがとな、コレ買ってくれてよ」


 ハズキはその木蓮の姿を、興味を向けた目で見る。


(そんなに美味しいのかしら……)


 そんなハズキに気づいた木蓮は、笑みを浮かべて「どうした?」と言葉を発するのだ。


「なんでもないわよ!」


 ハズキは強く否定してそっぽを向くが、明らかに気になっている様子。

 しめしめ、と木蓮は企み「一ついるか?」と嘘の優しさで塗り固めた笑みを向ける。


「そ、そこまで言うなら貰ってあげてもいいわよ?」


 仕方なさそうに、だが嬉しそうにするハズキに「ほらよ」と嫌らしい笑みを浮かべて手渡した。

(さて、どんな味なのかしら)と興味深々にハズキは口へと入れる。


(グレープ風味ね。でも、あいつが言うほど美味しいとは思えないのだけど)


 木蓮が、凄く美味しそうな表情を浮かべる程の味には到底思えなかった。

 すると、そんなハズキに木蓮は言う。


「あぁ、それな。絶対に秘密なんだがよ、コーラとは一緒に飲むな? 美味すぎて馬になっちゃうから。 絶対に絶対だぞ?」


 念押しして態とらしく、忠告をする。


 ハズキは「馬?」と訳の分からない木蓮の忠告に困惑する表情を浮かべるが、その前の「美味すぎて」と言う言葉に惹かれてしまう。

 そして、絶対にやってはいけない。絶対に一緒に飲んではいけない。と言われればやってみたくなるのが人の性だ。なりより、未知なるモノへの好奇心と興味が人一倍強いハズキにとっては抗えない事柄であった。


「わ、わかったわよ……!」


 と言いつつも、その表情は

(絶対やるなコイツ……!!)と木蓮が確信し喜びの笑みを浮かべる程に言葉と相反していた。


 だが、そんな中――――


「やられたぜ……」


 道を曲がろうとしたところで、黒服の者達に遭遇する。

 いいや、違う。これは必然的な出会い。

「やられたぜ」と語る木蓮の言葉。それは、相手に出し抜かれた事を意味していた。


 そして、後ろからも黒服の者達が現れ、建物の上に視界をむければそこにも黒服の者達が現れた。


「……こりゃ、完全に嵌められたな」


「あんたこれ、どう言う状況よ……!」


 メントスを舐めるハズキの表情に、不安が現れる。


「わりぃ、俺たち誘導されてたみたいだ。」


 いち早く、黒服の者達に気づきバレないよう道を変えていたが、それは単に逃げる方向を木蓮達が誘導されていたのだ。

 その結果、二人は追い込まれ前後と上空を包囲され逃げ場を失った。


 するとその時、目の前の黒服の物達が間を開け、一つの道をつくった。


「なんだよ、物分かりいいじゃねーか」


 と木蓮は気丈に振る舞ってその道を、何事もなく進もうとするが、ギロっと先頭の黒服の者達に睨まれる。

 そんな黒服の者達に「ですよね〜」と木蓮は引き返す。


 そして、その開かれた道から一人の少女が現れた。


「ハズキちゃん。もう、ここまでだよ。」


 その姿は、ハズキに瓜二つ。

 そんな少女に木蓮は「おい、ハズキ。いつのまにそっちに行ったんだ?」と不思議そうに言葉を発した。

 すると、「あたしはこっちよ!」と後ろで苛立った声が響く。

 後ろを見れば、苛立ったように口の中でメントスを転がすハズキがいた。

 そして、前を向く。そこには、微笑むハズキがいた。

 木蓮の顔に困惑が浮かぶ。


「よし、そこのハズキっぽいお前。俺の頬を叩いてくれ。」


 そう言って木蓮は、近くにいた方のハズキへと近づく。


「だから、ぽいじゃなくてあたしがハズキなのよ!

 それに、なにが叩けよ! アンタこんな時に頭おかしいんじゃないの! 気持ち悪い!」


 この苛立ち具合。罵り具合。態度、目つき、表情。確かに本物のハズキっぽい――――と木蓮はそのハズキに思った。

 そして、確信を持つ。


「あ、そのコーラ。メントスのグレープの香り。

 ……お前がハズキか。じゃあ、あっちは?」


 右までに持つコーラ、口に含むメントス。

 こっちのハズキが本物のハズキなのだと。

 そんな木蓮に「だからそう言ってるでしょ!」とハズキは苛立ちの声を上げる。


「あっちは、アンズ。あたしの可愛い双子の妹よ。」


 その説明に「へー」と頷いて木蓮はアンズ――私を見た。

 確かに瓜二つだが、髪型が少し違う。

 ハズキその灰色の髪は腰元まで伸びているが、そのアンズという私はうなじ辺りまで伸びたショートボブ。


「キミが報告にあったハズキちゃんと一緒にいるっていう男の子だね。」


 黒服の者達からとある少年の事を聞いていたその少女は、木蓮がその少年だと直ぐに理解した。


「そっか、二人は仲が良さそうだね。うふふ」


 優しく微笑み、二人を見つめる。


「全っ然!」 「まったく」


 そんな二人の言葉こそ違えど同時に否定するその姿に、「ほら、やっぱり仲良いじゃん。」と確証づいて少女はまた笑い「それで――――、」と初め、ここへ来た目的を語るのだ。


「ハズキちゃんをこっちに渡して欲しいんだけど」


 少女は頼み事をするように木蓮へとお願いをした。そんな少女の態度に木蓮は(コイツとは真逆だな)と思いつつ返答をする。


「断る。」――――と。

 依頼と契約の下、ハズキを渡すことなどできない。(こいつは捻くれてて納豆のように腐ってるが腐っても客だ)と断固として拒否を示すのだ。


 その返答に「……んー?」と悩むように少女は表情を浮かべ

 追われているハズキを守っている? 

 では何故……? 想像し想定しうる状況を判断。

 悪い人に追われていると思っての正義感から?

 もしくは、そう言う巻き込まれ体質でただ巻き込まれただけ? 

 と、考えるが前者には少年の意思が含まれ、後者には木蓮の意思は含まれていない。

 明らかに後者ではない。

 そう判断し少女は――――、


「ハズキちゃんに何を言われたのかは分からないけど、私達はハズキちゃんに何も悪いことしないよ。」


 と答えた。しかし、


「いかにも悪役が言いそうなことだ」


 と木蓮に言われてしまう。

 その言葉に「確かに」とハッとしたように少女は同調してしまう。


「でも、何となく分かった。

 アンタらは悪い奴じゃねーってね。」


 しかしどうやら理解はしてくれていたようだ。

 でも、木蓮のその発言に後ろにいたハズキは動揺を浮かべる。


「ちょ、アンタ……何言って!」


 そんなハズキを宥めるように「まぁまぁ、落ち着けって」と言いながら木蓮はもう一個メントスを渡した。


「たぶん、こいつの家出かなんかだろ?」


 木蓮の見解では、普通の生活と常識の知らないハズキは多分どっかのお嬢様か何かで、

 そして今、ハズキは家出をしていてその為、家族と従者に捜索されている。――――そんなところだろ。と考えていた。


「うん。端的に言えばそうだね。

 だから、ハズキちゃんを引き渡――――……」


 どうやら、それも含め理解してくれたみたいだ。

 思考力と状況判断が優れている。

 そう思いながら少女はハズキの引き渡し要求を――――と


「だが断る!」


 したのだが、木蓮にキッパリと断られてしまった。

 そんな木蓮は「一回これ使ってみたかったんだよね」と満足気な表情を浮かべていた。


「悪りぃがこれは、こいつの依頼なんでぇ。

 俺は何があっても依頼は遂行するし、契約は守る主義。」


「――――」


「だから、アンタの言っている事がいくら正しかろうが、正当性がそっちにあろうが関係ない。

 アンタにとっての邪魔者が俺で、俺が悪であろうが関係ねー。

 アンタがこいつより全然良い奴だろうと関係ないんだ。」


 例え相手が正しくて、家族を取り戻す為に立ちはだかる悪が自分だったとしても、依頼を投げ出さず最後まで遂行する。そう語る木蓮の志にハズキは感心しつつも「最後のは余計よ!」と不満気に言葉を漏らすのだ。


「俺は何があっても約束のその時間までコイツを護ると約束したんでぃ。だから、悪りぃが断る。」


 力強い拒否の言葉。

 その真っ直ぐな瞳は、意思を曲げることはないだろう。


「そう、分かったよ」


 少女は静かにそう告げた。

 同時に、黒服の者達の視線が二人へと注視する。


「手加減はするが、勿論俺らは抵抗するぜ? 」


「そう言うことよ! アンズ」


 ハズキは肯定し笑みを浮かべた。


 しかし――――、『勿論俺らは抵抗するぜ?』と言われてしまえば、それは問わなければならないだろう。逆に問わないのは失礼なことだ。


「どう抵抗するのかな? 」


 ふむふむ。と一連の流れに感心しつつ、少女は再度問うのだ。


「この数にキミは一体何ができるの?」


「じゃあ逆に聞くが、有象無象が束になったところで何ができるんだ?」


 そう、木蓮は余裕と自信に溢れた表情で問いを返してきた。そんな木蓮の右手に

 ――――ビリリビリっと電気が迸る。


「キミ、霊能力者なんだね。」


「あぁ、そうだ。」


 数はおうよそ、20人。だが、誰もが手練れであろう。その纏う彼らの雰囲気はただのボディーガード、従者を凌駕していた。驚異的な身体能力と体術を持つ木蓮であったとしても、この数の彼らを相手に何も使わずにハズキを守り戦うのは不可能だと踏んだのだろう。


「でも、良いの? 

 この国では街中での霊能力使用を法律で禁止していた筈だったよね。

 ――――キミはそれを破るのかい?」


 そう、それは違法。

 罪に問われるものだ。まだ若い将来のある木蓮がここで安易に犯罪を犯してしまうなどあまりに愚かなこと。


「あぁ、流石の俺もただの生身一つじゃ切り抜けられそうにねーんでな。」


 だが、その決意は堅く。

 護ることを前提として全ての行動理念を置いていた。


「犯罪をも厭わない……か。

 不思議だね。そうまでしてハズキちゃんを護る義理がキミにはあるの?」


 犯罪を厭わない、その行為に躊躇いも躊躇も無い木蓮に「あんた……」と罪を背負わせてしまう罪悪感にハズキは不安な表情を浮かべる。


 そして、そんなハズキに「大丈夫。心配すんな」と木蓮は声をかけ、(それよりコイツ、まだコーラ飲まなねーな)と物惜しそうな目を向けながら、言葉を続けた。


「確かに許可のねぇ霊能力の使用は違法だ。

 だが、それは奴らだけだろ。」


 その木蓮の言葉に少女は「まさか、キミ……」と一瞬の動揺を示し固まった。

 そして、木蓮へ問うのだ。


「自分が『国家霊能術師』とでも言うのかい……?」


 その問いに、ニヤリと笑って木蓮は答えた。


「そのまさかだが?」


 そう答える木蓮の背後で(コイツ……本当に何者なのよ……!)とハズキは怪訝な表情を浮かべる。


「……そう。

 でもね、キミが霊能力を使うと聞いてこちらも何もしないと思うかい?」


 嘘か本当かは分からない。

 でも、能力を使うと言われてこちらも何もしない訳がない。

 少女の言葉と共に、黒服の者達がそれぞれのSPO装置を構えた。

 それらは、携帯端末型、グローブ型、ブレスレット型、ネックレス型、イアリング型などのノーマル型から剣型や銃型など戦闘特化型まで。

 ――――そこにいた全ての黒服の者達。

 そう、その全ての者が霊能力者だったのだ。


 「これは、居なくなった大切な家族。姉を取り戻す為の行為だ。

 正当性はこちらにあり、キミはただの妨害者。

 加えて霊能力を使用してくる相手に、私達が何も使わず戦うなどと思わないで欲しいね。」


 少女の脅迫じみたその言葉と共に黒服の者達が臨戦態勢へと入る。


「そうかい。ならそっちの方が幾分かましだね。

 俺も普通の人間相手に能力使うのは気が引けてたとこだったもんで。」


 だが木蓮は、自身を囲む20人近くもの霊能力者を前に1ミリ足りとも臆すことなく、そう言い放った。

 その表情には余裕が浮かび、むしろこの状況を楽しんでいるようだ。


「だったら、アタシも戦うわ! 

 これだけ霊能力者がいるんだもの、誰が使ったなんて有耶無耶になって分かるはずがないわ!」


 多くの者が霊能力を使用するその気に便乗してハズキも戦闘への参加の意を示す。


「アタシの力、凡俗達に思い知らせてあげるんだから!」


 黒服の者達を『凡俗』と揶揄し自信満々に語るハズキは、木蓮に「ふん! 見てなさい!」と指をさすのだ。


「ハズキ様……!?」


 とハズキその発言に、黒服の者達はハズキの実力を知り得ているかの様な反応を示し、表情に動揺を浮かべた。


 その姿に「へー」と悟るように木蓮は頷く。

 20人近くの霊能力者。それもかなり手練れであろう者達に、戦闘の意を示すことで動揺を与えるハズキのその力。

 少なくとも霊能力者としての実力は、彼らを軽く凌駕しているのだろう。

 だが――――


「いいさ、アンタはそこでコーラでも飲んで見てな。ここは俺、一人で十分だ。」


 そう言って木蓮はハズキの参加を断った。


「何よアンタ! アタシの実力疑ってんの!?」


 しかしハズキは納得のいかない様子。


「いいや、あいつらの反応を伺えば、アンタの実力は相当なもんだと理解出来る。

 けど、必要ない。護るべきクライアントに手を出させることは二流のやることだ。」


「――――」


「だから、これを預かってそこで見ててくれ。

 アンタの雇ったこの俺が、カッコよく活躍する様をな」


 その言葉にハズキの不満は霧散する。

 微笑む木蓮に「分かったわ」と頷いて、渡された棒状に包まれたお菓子――メントスを受け取った。

 木蓮は「おう」と頷いて、「ついでにそれ、もう一つやるよ」とハズキに言葉を残し、前を見据えた。


 そして、ハズキはメントスを一つ食べて――――


「見てなさい、アンズ!

 このアタシの雇ったコイツが、貴方達をコテンパンにするところを!」


 と私に向かい高らかに宣言し、笑みを浮かべたのだ。


「アタシはここで、コーラでも飲みながら高みの見物をさせてもらうわ!」


 周りは建物の壁で阻まれ、20人あまりの黒服の者達に包囲されている。

 それも、黒服の者達、皆が霊能力者で尚且つ逃げ場のないこの状況。

 そんな中で、少年は余裕を漂わせた笑みを浮かべる。

 その少年の後ろの、少女は何一つ少年の実力を疑うこと無く気構える。

 そして、悠々とコーラを飲む――――……


「ぅおえええ!!!」


 が、その時。その少女の嗚咽が大きく響くのだ。


「ハズキちゃん!?」


「ハズキ様……!?」


 と少女アンズ並びに黒服の者達は驚愕の色を浮かべた。

 私達が見た、そのハズキの姿は口から泡状になったコーラを吐き出し、喉で逆流したコーラを鼻から黒の液体として垂れ流している。

 そんなハズキの姿に木蓮は


「おいおい、一緒に飲むなっていったろ?」


 と振り返り嫌らしい笑みを浮かべるのだ。


「だ、騙したわね……!」


 ハズキの表情には、今までにないくらいの憤怒が浮かび木蓮を凝視する。


 態とらしくメントスを美味しそうに食べて興味を引かせたのも、態とらしくコーラと一緒に飲むなと言ったのも、異様にメントスをくれたのも、一連の行動全てがこの為だったと理解したのだ。


「騙したなんて人聞きの悪いなぁ。

 言ったろ? コーラと一緒に飲んだら馬になるって。 

 ハァハァって息づいて、前屈みになってるアンタ。 今、めっちゃ馬みたいだぞ。」


 ぷふふ――と笑う木蓮に「絶対やり返す……!」と小声で吐き、心に復讐を誓った。


そして――――


「さてと――――」


 そう一息つく木蓮の表情は一変し神妙な面持ちが浮かんだ。

 黒服の者達と同じく、木蓮もまた臨戦態勢へと入ったのだ。

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