プロローグ―転校―
さて、どうして、
こう、なってしまったのだろうか――――。
少年は今、ここ数週間の出来事を思い出しながら、「あの時、あいつに逢わなければ……。」
――――などと
新しい生活には期待に胸も膨らまず、胸の高鳴もなく、希望も感じず
ただ、不安と動揺と心配で悲歎し胸が押し潰されそうだ。
目の前に映る現実から目を背けたくなるくらいには、少年は今、思い悩んでいる。
――――転校初日。
大きな溜息を吐き少年は見上げた。
目の前には立派な門が構え、その向こうには広大な土地と幾つもの最新設備を揃えた建造物が聳え建ち並ぶ。
なぜだろうか。少年の顔には、曇った表情だけが浮かんでいる。
明らかに不安を抱えている、そんな表情だ。
「ここ、本当に高校だよな……?
マジで、今日からここへ通うんだよな……。」
そう、ここと言うのは少年の見上げている一際大きな建物だ。
少年は、生まれて16年。初めてこのような建物を実際に目にする。
この立派な中世ヨーロッパのお城のような建物は、まるでどこかの王様や高貴な貴族、大金持ちの大富豪が住んでいそうだ。
だが、ここは正真正銘の学校なのだ。
「うわ、すげぇ……。」
「ねぇ――――……」
そして、もう一つ少年が驚くその光景は、
黒のスーツをビシッと決め隙など1ミリたりとも感じない運転手に手を取られながら、黒塗りの高級車から降りてくる高貴で上品な生徒達の姿。
並んだ高級車から、一人また一人と生徒達が降りてくる。
「見るからに、別の世界にいる人たちだな。」
「ねー、ってば――――……」
なんて、少年は目を丸くし驚愕しながら思う。
「いや、ここでいえば、俺が違うのか……。」
「ねぇってば! 聴きなさいよ!」
その時、右の鼓膜を破壊されるのではないかと言うくらい大きな声が直ぐ側で響いた。
「あ、ハズキ。」
苛立ちを示す、真っ白な肌に膨ませた頬。
銀色の綺麗な髪は腰のあたりまで伸び、瞳はブルーサファイアのように碧く美しい。
そこに居たのは、そんな顔を見知っている女の子だ。それも、とびっきりの美少女の。
そして、何故か頬を膨らませて苛立っている女の子だ。
「あ、ハズキ。じゃないわよ! まったく!
アンタの癖に生意気ね! 」
まず初めに言っておこう。彼がこの高校に転校する事になったのは、この少女が原因である。と
約1ヶ月前まで彼は一般的な普通の高校に通っていた。本来なら――今もそのはずだったのだ。
「それより、あんたね!
直ぐに、あたしに気付かないなんてやる気あるの!?
もしかして、1週間もあたしと会うことが出来なかったからって腑抜けちゃったわけ?
このままじゃアンタ、あたしの下僕失格よ!?」
そして、これは彼の名誉の為に言っておこう。
彼は決して少女の下僕ではない。と
それと、彼が今少女の言葉を無視――……ではなく聴こえていないフリを……いやいや、目の前の壮大な光景に呑まれ少女の言葉が聴こえていないだけなのだが、もし聴こえていたのならば「あたしと会うことが出来なかった」との少女が言う
さも、彼が少女に会いたがっていたような言い回しに対し「別に、会いたいなんて一度も思ってねーさ」と彼は少女に返したことだろう。
「て言うか、いつまでもそこに突っ立てってないで行くわよ! アンズが待ってるんだから!」
ともあれ、今日から彼は卒業までこの学校へ通うのだ。
日本最高位の教育と最高峰の設備が揃った
防衛省直轄の軍の教育機関【国立霊能大学附属第ニ高等学校】へと。
「言っとくけど!
待ってるのはアンタじゃなくて、あたしのことだから! 勘違いするんじゃないわよ。」
そう言って、そそくさと歩き出し少女は校門へと入っていくが彼は一歩たりとも校門前から動こうとはしなかった。
校門を過ぎ少し歩いたあたりで、そんな彼の事に気づいた少女は振り返りその足を止める。
「……って! なんで着いて来てないのよ!」
そして、またも苛立った様子で頬を膨らませ彼の元へと戻るのだ。
「失格! 失格! 失格よ!
アンタ、完っっっ然に下僕失格だわ!」
その少女の姿に「やっぱり不安だ……」と彼は言葉を漏らし、もう一度、聳え立つ校舎を見上げた。
「ちょっと! 聴いてんの!?
無視するなんて生意気よ! 」
そして再度視線を落とし、少女の方に視界を向けて
「おい、ハズキ」
「なによ!」
と苛立つ少女に彼は笑って――――
「早くしないと、置いて行くぞ」
と、目の前まで戻って来ていた少女を置き去りにし校門を越え校内へ走り駆けていく。
そして、少女はその彼の後ろ姿に、「ぐぬぬぬ……!」と溢れんばかりの怒りを含め大きく叫ぶのだ。
「ハズキによる公平! 公正! 正当である! 裁判において! アンタは死刑! 死刑だわ!」
そうして、ここから彼らの物語が始まる。
だが、その前に話しておかなければならない事がある。
彼と彼女が出逢った物語。
彼がなぜこの学校へ来ざるを得なくなったのかと言う、事の発端についてだ。
だからまずは、その話を語るとしようか。
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