旅行

33:可愛い魔女には旅をさせよ

「旅行行きます」


「「「!!!」」」



 俺は高校1年生の榊原睦月。高校1年生と言ってもすぐに高校2年生となる。今年最後の期末テストはギリギリギリギリ赤点。赤点をとった原因に邪魔をされながらも必死に勉強して追試は合格。色々あって1年生最後の学期を乗り切り春休みを迎えた。

 そんな春休みも半分近くすぎ。あと1週間あればもう学校が再開する。


 なので、旅行に行きます。


「えっ!? 今むつきなんて言った?」


「旅行行きます」


 俺をギリギリギリギリ赤点取らせた原因であるカーベラが驚きながら口を開く。


「学校が休みになったと言ってから、全然遊んでもくれずに一人遊びに行ってたのに!? 急に!?」


 そう。俺は春休み前半の期間ほぼほぼ家を空けていた。家に問題児がいるにはいるも、彩芽がこの世界のわからないことは色々サポートしてくれるだろうし、特に心配は要らないと思ったので、遠慮なく出かけていた。


 バイトに。


「「なんで(ですか)?」」

「嫌なのか?」

 親切心のつもりだったのだが、ここまで「何故?」と思われると悲しくなるものもある。


「いやいや、嫌ってことはないけど、これまで放置されてたから、なんだか不自然といいますか・・・」

 アリアが遠慮気味に聞く。急なことだ、驚かせるつもり100%だったのだが戸惑うのも無理はない。


「金を稼いでたからな。この世界のこと知るのも異世界に行けるための第一歩なんだろ?」


「ぃやったー! むつきっ大好きぃっ!」


 カーベラが後ろから抱きついてくる。これはアプローチと取っていいのだろうか。いや、コイツに限ってありえない。違うなら、遠慮して欲しい。男子高校生が美少女にハグされたらどうなるか分かっているのか?中身がポンコツ魔女だろうと。


「お、お兄ちゃん。彩芽も行けるの?」


「もちろんだ」


 そういうと、彩芽は「やったー!」と腕を突き上げる。


「で、旅行先だが、鎌倉にした」


「やったぁ!」

 と、彩芽は言うが、


「かまくら?」


 当然カーベラとアリアは知らない名前だろう。


「雪で作る小さい家とは関係あるんですか?」


 アリアがそう訊いてきた。

 彩芽にカーベラとアリアをこの家で匿うことになったということを打ち明けてから、テレビや新聞、インターネットなどに、少しずつ触れさせることができた。2人は最初こそ不思議すぎて意味がわからないと反応していたが、新しいことを取り入れるのには積極的で、特にアリアは毎日この世界の情報を調べている。ちなみにカーベラはテレビや新聞より、この世界の小説や漫画といったものにハマり、こちらはこちらで毎日読みふけっている。

 魔女とはこういう性なのだろうか。俺は初めてこの2人に関心した。

 で、話を戻すと、アリアはかまくらのことをどこかで訊いたのだろう。


「んいや、全然違うぞ。まぁ行けばどんなところかわかるさ」


 鎌倉に決定した理由だが、バイト代的に近場がよかったということが1番の理由だ。榊原家は東京の中央らへんに家を置いている。そのため、新幹線も簡単に乗れるため、関西、九州などでもよかったのだが、今回ばかりは資金的な理由で交通費がまだかからない鎌倉となった。


「で、これまた資金的な問題だが、1泊2日だけだ。宿泊先もそこまで高いところじゃないから期待すんなよ」


 今回の旅行は本当に資金繰りが大変だった。カーベラとアリアの服や何やを買っていたらお年玉は無くなってしまったので、中学生になってから密かに貯め込んでいた貯金の半分を失った。


 何故、自分自身この2人にお金と時間を割いているのか不思議にも思ったが、もう自分で決めたら引き返せなくなってしまった。


 ただ、早く帰って欲しいからなのか、思ったよりもうコイツらに俺は感情を入れてしまっているのか。自分でも自分のことが分からなくなり呆れてしまった。


「行くのは明後日だからみんな準備しとけって言っても代えの服くらいだけどな」


「はぁーい」

 俺に抱きついてからまだ俺を離さないで腕を首から回しているカーベラがそう答える。

 俺は背中に感じる2つの弾力にそろそろ男子的な限界を迎えた。

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異世界人が降って来たので、匿ってしまいました 大福 @road-daifuku

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