32:兄妹の決着

「「「「いただきます」」」」


 当然だが、カーベラ達が来てまだ俺の家族や友達と一緒にご飯を食べたというのはこれが初めてだ。おそらく一番おどおどしてしまっているのは俺自身だと思う。


「ん〜 美味しっ」


「やっぱり、むつきの料理は美味しいですねっ! この珍しい料理はいつ食べても美味しいです」


 カーベラとアリアは感嘆の声を上げる。本当に妹の前では恥ずかしいのでやめてください。


「でしょっ? お兄ちゃんの・・・なんでもない」

 いや、その反応は危ないです。こいつらの前では本当に恥ずかしいのでやめて下さい。この後、ネタのダシにされますから。


 3人はその後、一気に食べ終わり、各自食器を片付けてくれる。俺は男子高校生なのに気恥ずかしさからなんやら、食べるのが結局ビリっけつになってしまった。


「ねぇ、彩芽ちゃん。一緒にボードゲームっていうやつでもどう?」


 急にカーベラが提案した。もしかして、あいつ俺が彩芽と喋れる場を作ろうと考えて・・・と考えたが、その思考は途中で終わる。そんなことあいつに限ってありえない。アリアも俺の様子を察したのか、


「(あれはただただ珍しい遊び道具で遊びたいだけですね)」


 俺はコクコクとうなずいた。だが、結果としてはとても良いものだった。これはチャンスだろう。


「えーっと・・・」


 だが、彩芽本人はなんだか困惑している。彩芽が帰ってきてから立て続けにカーベラに絡まれているので、しょうがないだろう。


「まぁ、久しぶりにやるか彩芽」


「えぇ・・・まぁ、い、いいけど」


 どうやら押され気味に了承してくれた。カーベラは「やったー」とはしゃぎ、アリアは親指を立てて「これで一歩進みましたね」と賛辞を送ってくれる。

「で、何やるんだ?」

 そういうと、カーベラは俺の部屋に走って行き、走って戻ってきた。その右腕には何やら大きい箱が抱えられている。


「・・・人生ゲームか」


 カーベラが持ってきたのは人生ゲームだった。確かどこかにしまってあったとは思うが、よく見つけたものだ。

 アリアは、

「人生ゲームですか・・・言葉の通り、人生をゲームするならこの世界について何か知れるかもしれませんねぇ」

 カーベラはドヤ顔で「でしょでしょ」とうなずく。


「彩芽、いいか?」


 一応この遊びの主役である彩芽に確認をとる。彩芽は何か吹っ切れたのやら笑顔で俺たちに向かって言った。


「じゃあ・・・一番になったら誰か一人になんでも命令できるってルールならいいよ」

「えぇ?・・・まぁ、わかったよ」


 カーベラ、アリアに火がついた。早くやりましょうと眼差しを向ける。

 俺はルールを端的に説明した。だが、ルーレットやすごろくといったところから説明するのはかなり困難なものだった。



「えっと・・・私は女優ですって! 一体何?」


 カーベラが元気よく聞く。


「ドラマとか出ている人ですよ。カーベラさんは可愛いし、綺麗だから本当になれるかもしれませんね?」


 彩芽は人生ゲームの説明をしている俺と、カーベラ達に驚愕と呆れた目をし、もう何が何だかわからないと笑っていた。

 その流れでカーベラ達にも快く口を開くようになった。

 兄としても妹の笑顔が見れるのは嬉しいことだった。


「私は、獣医・・・ですね。何だか名前がカッコいいのですが」

「獣医は動物のお医者さんだよ」


 俺がそう答える。


「っ!私にぴったりの職業ですね! このゲームは素晴らしいですっ」


 4人でルーレットを回しあって、呆れて、驚いて、騒いで、楽しむ。最初からこうすれば良かったのかもしれないと今になって思った。彩芽は最初こそ呆れていたが、俺の言葉を決して無視するような妹ではない。

 最初からしっかり説明して、一緒に遊んでれば良かったなと反省と後悔をささやかに俺は行った。


「っ勝ったぁ!」


 もう結果は決まっている。もうこういう流れなのだろう。ルールも熟知している彩芽が圧勝を収めた。俺は僅差で2位。アリアは最初にしてはいいところをついていて、少し間が空き、3位だった。ちなみにカーベラは借金返済に追われている。


「じゃあお願い聞いてね? お兄ちゃん」


 どうやらご指名は俺のようだった。というより、この賭けの意図は俺に向けられたものだと大体気付いていたが。


「じゃあ、お兄ちゃんは、そこで正座して下さい。 っと・・・よいしょっ」

「お、おいっ彩芽!」

「勝者の特権ですぅ。ちょっとくらいいいじゃんっ」

 彩芽は俺を正座させたかと思いきや、カーベラとアリアの目の前で頭を俺の太腿に置き膝枕をさせた。


「「・・・・・」」


「ほら、カーベラ行きますよ」

 アリアは気を利かしてカーベラの首根っこを掴み引きずってリビングを出て行ってくれた。カーベラは意味がわからないと物凄く不満げだったが。


「お兄ちゃん。カーベラさんに熱血プロポーズした話の真相を聞かせてください」

「え、えぇ? いや、そんなんじゃないから」


 まだ引きずってたのかよ。


「はぁ、でもカッコつけたんでしょ?」


「・・・・・」


 その質問には答えかねますよ。


「っもう。お兄ちゃんはホントのホントはヘタレなのに場の流れでそうやってカッコつけたりしてぇ・・・」


 もう、本当にその話は掘り返さないで欲しいです。どうやら顔が紅潮しているのだろう、耳が熱い。

 それを見て彩芽は呆れたように笑みを浮かべる。


「・・・でも妹には甘えてもいいよ? お兄ちゃんのヘタレなところ全部受け止めてあげるからお兄ちゃんはいっぱい外ではカッコつけな? そうじゃないと、一生恋人なんか作れないからね?」


 もう兄として妹に顔向けできません。


「・・・はい」

 そういうと彩芽は呆れた笑みではなく笑顔を向けた。そして心配そうな顔になる。


「あの2人がどこから来たのかは知らないけど、遠くに行ったりしなでよね?」


「あぁ、当分はどこか行きやしないって」


「当分・・・か」

 彩芽は当分という言葉に引っ掛かっていた。当然、俺はカーベラを匿ったためいずれ異世界にちょっくら旅に出るのだろう。だが、それまでにはまだ時間がある。


「別にどこか行ったって俺は彩芽のお兄ちゃんだぞ?世界中のどこに行っても彩芽のお兄ちゃんのポジションは無くならないから」


「あ!またそうやってカッコつけて・・・」


「お兄ちゃんなんだからそのくらいはカッコつけてさせてくれよ」


 俺と彩芽は今日の朝からのイザコザには一切話に触れずお互い笑い合っていた。この大雑把な感じが兄妹っぽくてちょうど良いのかもしれないな。


―バタンッ


「話、終わった?」

 俺は急に入ってきたカーベラに驚きつつも一応うなずく。全くもうそうやってズケズケと・・・

「ねぇ・・・彩芽ちゃん」


「なんですか?」


「さっきのボードゲーム探して漁っていた時にね、なんかこれが出てきたんだけど・・・このむつきについて解説願えるかしら?」


 おいおいおい・・・待て待て・・・。人生ゲームって押入れの下にあったのか!?あそこの奥には俺が小学生の頃のアルバムやら何やらある。


 カーベラは分厚い冊子をペラペラとめくり、一つの写真を彩芽に差し出す。写真の中の俺は小学校の先生に怒られていた。隣には彩芽もいる、


「あぁ・・・これは運動会で私がかけっこで1番をとったらお兄ちゃんが飛んできたんですけど、急に飛び出してきたもので先生に怒られてしまった時の写真ですね」

 そう聞いた瞬間にカーベラはこちらを向き物凄くニヤニヤしながら「シ・ス・コ・ン」と口パクで俺に言う。そして続け様に、


「ねぇ、彩芽ちゃんコレはー?」

「えっと・・・これはですねお兄ちゃんが・・・」


「カーベラこのむつきも気になりませんか?」

「あっ!アリアさんよく見つけましたね!これはですねお兄ちゃんが・・・」



 ヤメロォォォ!!


 彩芽はその次の日カーベラのことを『お姉ちゃん』と呼ぶまでに親しくなっていた。だが、アリアだけにはその容姿からどんどんタメ口になっていき、アリアは私もカーベラと同じ歳ですっと叫んでいた。


 俺は部屋の布団にくるまって、カーベラの煽りから逃避していた。

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