30:トラブルが日常
「入らないで」
俺は今、門前払いというものを初めてされた。もし社会人になったらこういうことも数回は体験するのだろうと思っていたが、その記念すべき1回目が身内で、しかも妹とは。
果たしてこの事態をどう解決すれば良いのだろうか。
そして後ろからこっそり覗いている視線も鬱陶しい。
もう覚悟を決めるしかないか。幸いなことに彩芽の部屋は今鍵がかかっていない。ただただ言葉で拒絶されているだけなので強硬手段を取ればいくらでも彩芽と話し合う場を作ることができる。
よし、入るぞ・・・
―ガチャッ
「え・・・?」
彩芽は学校の制服に着替えていた。忘れていたが、今日は平日の朝。俺は試験が終わったばかりで休みだが、彩芽はいつも通り学校に行かなければならないのだ。
その下着姿からはいつも服に隠れている胸部といいボディラインが曝け出されていた。服の上からでも分かる胸の厚みは視界に直接届くことでさらに男子高校生の思考を歪ませる。
ただ、それも刹那。すぐに兄という自分のポジションを思い出した睦月は、「大きいな・・・」という思想から「いつの間にこんな成長したんだ」という保護者的視点に置き換えに成功した。
そして、「やってしまったー」という後悔が血流のように睦月の全身を駆け巡った。毛細血管までも巡ったのか睦月は血管がブワァッと広がる感覚に襲われ、額には汗が滴る。
彩芽がこちらに気づき、しばしの沈黙が睦月に針のように刺さる。
「ぉ、お、お兄ちゃんのすけべへんたい、ばかぁぁぁぁ! 入らないでって言ったのにぃ!」
「ご、ごめんっ!」
―バタンッ!
急いで部屋を出た。彩芽の右手には近くにあった辞書がとっさに持たれていた。そんなもの投げられたら流石に俺もただじゃ済まないぞ。とは思ったが、後悔が全身を巡っていたあの状態ではそんなことは口にすることもできない。
「はぁぁ」
彩芽の部屋の前で体育ずわりになりながらため息をつく。
何で物事がこんなにも悪い方向に進んでしまうのだろうか。
これは大魔女カーベラ様の御加護なのだろうか。本当に必要ない御加護だな。
鬱陶しい視線の方を睨みそんなことを考える。
「今なんか、失礼なこと考えてなかった?」
鬱陶しい視線の方には当然のようにカーベラがひょこっと顔を出してこちらに近づいて座る。
「・・・何で?」
「私の方睨んでたから」
「ていうか、ずっと俺のこと視てただろ」
話を逸らされたのが気に食わなかったのか「むぅ」と頬を膨らませた。
「だって気になるんだもん」
「お前には関係ない話だろ 一応俺たち兄弟の家族の話なんだから」
きっかけは確かにコイツの他にはないが、結局は俺と彩芽の問題だ。正直言って関わって欲しくないのが本音のところだ。
特に何かしらトラブルを起こしそうなカーベラには。
「ねぇ・・・昨日私のこと家族って言ったよね。じゃあ私も家族としてこの問題に関わっちゃダメなの? それとも昨日の言葉は嘘なの?」
カーベラが落ち込んだ声から話しかけ最後はまくしたてるように訴えてきた。
「いや・・・嘘、じゃないけど・・・。その家族とこの家族は違うだろ?」
「・・・それは、そうかもしれないけど・・・私だってたまにはむつきの役に立ちたいんだから、だから・・・」
そして下を向き、俯く。はぁ、やっぱり俺は美少女には敵わないただの男子高校生らしいな。
「はぁ、わかったから。その何だ、あんまりあてにはしてないが頼るから元気出してくれよ」
前半部分を聞き、顔がパッと明るくなったが後半部分を聞いて不満気にこちらを向く。
「まぁ、お前が落ち込んでるよりは、元気に明るくバカやってた方が俺は救われるから」
自分でいうのも恥ずかしくなったが、カーベラはバカやっていた方が明るいし、可愛い。それで俺も元気が出るのはいささか冗談にとどまる話でもない。
「だから、まぁ何だありがとな」
カーベラの表情が不満気な表情と恥ずかしそうな表情で迷子になっている。俺は何か言われない内にここから退散することを決め、腰を上げる。
そして今一度彩芽との問題を解決するべく作戦を立てようと、彩芽の部屋の前から隣 にある自室に戻る。
―ドテッ
「・・・は?」
俺は見落としていた一つの視線に気付いた。俺の部屋からこっそり覗いたり、聞き耳を立てたりしていた視線は、こっそり話を聞いていたのか俺が自室に入るまで俺の存在に気付かず俺が入った瞬間に尻餅をついた。
「・・・あの、その、良い感じだったのでちょっぴり気になって聞き耳を立ててしまいました!」
「テヘッ」という効果音が流れそうなアリアはウインクをしながら見上げるように俺にそう言った。
鏡を見ずとも、俺は自分の顔が紅潮していくのが頬の熱具合からわかった。
「お前・・・今見たこと全てわすれろよな・・・?」
アリアのこめかみをつねりながら脅迫する。事情を知らなければ俺はいろんな人にいろんなバッシングをされそうな絵だ。アリアが美少女であるのもあって。
「ごめんなさい!・・・許してっ 痛いからっ ごめんって! 忘れるからぁ!!」
はぁ・・・コイツだけはまともで頼れるやつと思っていたのだが。暗い一面を除いて。
アリアに対する見方がちょっと悪い方向に傾きながら、俺は彩芽の問題を解決する方法を考え始めた。
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