28:彩芽

 一体なんで私はこんなに不安になっているのか、自分ではわかっていても納得がつけられずに数日が経った。


 日に日にお兄ちゃんと話す機会がない毎日にも慣れてきて特に何も感じなくなった。その分夜はクラスメイトとお話しをしたり、本を読んだりしている。


 ただただ、急に変わったお兄ちゃんに少しばかり不思議がって動揺していただけなんだと自分の中では整理ができた。でもその日だった。

 自分がインターネットでイヤフォンを着けながら音楽を聴いていたのが失敗だったのだろう。毎晩の「ご飯できたぞ」というコールが聞こえなかったのだ。そうとも知らず、お兄ちゃんは試験勉強で料理ができそうにないのかもしれないと思い、お兄ちゃんの部屋に晩ご飯をどうするのか確認しに行ってしまった。


 お兄ちゃんには彼女らしき人がいた。しかも2人。2人の女性を自分の部屋に連れ込んでいる。


 おそらく一人だったら、その場でお兄ちゃんを冷やかし部屋で涙を流した程度で済んだだろう。

 だが2人だった。衝撃、驚愕、動揺全てが入れ替わりに、最後には合体必殺技になって私を襲った。流石に女っ気がなかったお兄ちゃんがハーレムを作っていたなんて想像がつかなかった。


 その上、お兄ちゃんの彼女達らしき人はどちらも超が付くほど美人だった。一人は黒髪ロングで紅い綺麗な目を持ち、「綺麗」であり「かわいい」女性。もう一人は紫紺の瞳とかすかに青を感じさせる白い髪を持つ「かわいい」が最適な表現と断言できる女性。


 私は容姿が恵まれた方なのだと最近になって理解した。周りよりも胸の発育も良い方だし、最近ではたまに男子から告白されることもある。まだ受理したことはないが。そんな私でも太刀打ちできないほど美人だった。


 どう接すれば良いのかわからないので、少し落ち着いてから私は元気に、そして気丈に振る舞ったつもりだ。その元気が空回りしていなければ良いなと思いながら。


 私は兄の部屋を出て、自分の部屋にいき布団にくるまった。お兄ちゃんがどこか遠くに行ってしまいそうな感覚は私に涙を流させるのには十分な動機だった。

 その日はお兄ちゃんの顔を見ると自分がどうなってしまうのか不安だったので、とりあえずお兄ちゃんを拒絶した。

 お兄ちゃんには悪いとは思った。でもその時はは正直しっかり話せるような自信がなかった。


 こんなの誰かに見られたら、ブラコン認定されちゃうな・・・


 でもブラコン認定されてしまうなど私の中ではもうどうでも良くなっていた。私がお兄ちゃんを慕っているのは事実だし、私はお兄ちゃんが好きだ。


 おかしいな・・・気持ちの整理はできていたはずなのに・・・

 それから数日経っても心の中に残る腫瘍は取り除かれず、お兄ちゃんとは微妙な雰囲気になってしまった。


―ドンッ  ドンッドンッ

 一階のリビングにいると何やら2階のお兄ちゃんの部屋が騒がしい。私は良い気っけだと思った。妹らしくお兄ちゃんに遠慮なく注意することで自分の心に区切りをつけようと思った。

 でも、そこにはまたしてもあの2人の女性がいた。


―「―ぃ・・・―ぉーぃ・・・―おーい」

 声が聞こえる。何だか肩に感触を感じる。


「おーい 起きたか?」


 お兄ちゃんがいた。お兄ちゃんは私の肩を揺さぶっている。私はお兄ちゃんの部屋のベットで横になっていた。この状況を考えれば私が気を失っていたことが容易に想像できた。果たしてどのくらい気を失っていたのだろうか。

 そして、気を失ったきっかけも徐々に思い出してきた。異次元空間やら魔法やら。


「どのくらい気を失ってた?」


「うーん そんなに長時間じゃないぞ? というか急に気を失うから驚いた」


 笑える。異次元空間なんてものを見せられて頭がショートしたなんて。


 でも、何となくお兄ちゃんと2人の綺麗な女性の関係が恋人とか友達とか一つの言葉で収められる関係でないことはわかった。でも何故か、お兄ちゃんはもっと遠くに行ってしまいそうな気がしてならなかった。


「ごめんね 急に部屋に入ってきては気絶なんかしちゃって」


 お兄ちゃんは特に気にする様子もなく首を振る。もちろん横に。


「気にすんな 兄なんだから」


 そっかお兄ちゃんなんだよね。

「・・・なんかお兄ちゃんが遠くに行ってしまいそうだなぁ」

 私は心の中をありったけぶちまける決意をした。どうやら2人の女性は気を利かしてかこの場には見えなかった。異次元空間とやらに入っているのかもしれない。

 お兄ちゃんは何だか不思議そうな顔をしていた。

 私は泣きながら拙い言葉で今の気持ちを伝える。もちろん少し、いや恥ずかしくて相当濁してだが。


 体を起こし、お兄ちゃんの胸の中で。

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