27:「彩芽」

「お兄ちゃん、おは・・・」


 今日は平日の朝、いつもと変わらない私の生活リズム。太陽は・・・春になるにつれ日出が早くなっている気がする。


 いつも・・・というよりも今までから最近、変わったのはお兄ちゃんとあまり顔を合わせなくなったことだ。

 朝はいつも私がリビングに行くとお兄ちゃんは寝ぼけながらリビングでスマホを見るか、新聞を読んでいる。本を読んでいるときもある。そして私が起きて来るとお婆ちゃんは「朝ごはん何にしようかなぁ」と決まって言う。

 夜はお兄ちゃんが作ったご飯を食べてから各自リビングでゴロゴロする。お兄ちゃんと一緒にテレビを見たり、遊んだりすることもある。

 両親が忙しいからか、私たちは比較的、仲の良い兄妹だった。それこそ休日は一緒に出かけることもあった。


・・・今日もいないか


 だが、最近お兄ちゃんは部屋に篭り気味だ。朝はお婆ちゃんが朝ごはんとお兄ちゃんを呼ぶまで。夜はほとんどリビングに顔を出さない。その上最近はご飯を自室で食べている時も少なくない。


 お婆ちゃんは特に気にしていないようだが、私は急なお兄ちゃんの引きこもり具合に少し驚いた・・・いや何だか寂しくなってしまった。


 べ、別に私はブラコンという訳ではない。私自身ではそう認識している。

 ただ、小さい頃からよく世話を焼いてくれたお兄ちゃんと急に話す機会がなくなるのはなんとなく、こう1日が物足りなかった。

 お兄ちゃんだって高校生になって友達だっている。たまに部屋から話し声が聞こえる。友達と電話でもしているのだろう。もしかしたら彼女かもしれない。


 彼女・・・か。


 私は薄々彼女ができたのではないかと思っていた。お兄ちゃんは陽キャという訳ではないので友達は多い方ではないが、少ない訳でもない。だから友達ができたからってこんなに部屋にこもっているのはあまり納得できない。

 それに、お兄ちゃんの部屋から女性の声らしきものがしたのを一度聞いてしまったのだ。電話をスピーカーにしていたのか、それとも本当は部屋にいたのかは知らないが何となく女性の声に聞こえた。

 別にお兄ちゃんに彼女ができたからって、私が止める権利もないし妹としては祝ってあげないといけないことだ。

 これまで女っ気を全然感じさせなかったお兄ちゃんにやっと妹以外で心の許せる異性ができたというのは字面だけを見れば私にも嬉しいことだった。


 ・・・そう理屈では理解できてるんだけどな


 もし最近お兄ちゃんにもたらされた変化が彼女という存在であるものだとしたら、お兄ちゃんと彼女さんはお互いにお互いを求めていくのだろう。

 そう考えると何だか少しだけむず痒い気持ちになった。お兄ちゃんも恋かぁ・・・と。

 そして、お兄ちゃんの急な変わり具合に私はやはり、寂しいと感じてしまった。


 お兄ちゃんは私が中学校になる前まで、いや今も癖が抜けていないのだろうか、友達をあまり呼んだことがない。それは紛れもなく私のためだった。

 小学生、特に低学年のときなんかは遊びたいだろうにどこにも遊びにいかず、友達も呼ばず私が家で一人にならないようにと真っ先に家に帰ってきた。

 そして私の遊び相手をしてくれた。小学校低学年の時の思い出だろうと、しっかり覚えている。

 私はお兄ちゃんと遊ぶのが楽しかった。周りの小学生が知っている遊びより面白いものをお兄ちゃんは知っていたし、私にいろいろ配慮もしてくれた。

 中学年・高学年になり、私は友達と遊びに行くことも多くなったが、それでも私たちは家で、よく一緒に遊んだ。


 私はおそらくお兄ちゃんを世界で1番知っている。お兄ちゃんと1番触れ合ってきた。お兄ちゃんを1番理解できる。


 

私はお兄ちゃんの優しさに感謝している。お兄ちゃんが私の世話をしてくれたから中学生までこれた。両親もお兄ちゃんにはとても感謝していることだろう。





そして、私はお兄ちゃんを『兄』として愛している。





 私を気遣ってくれる兄として、私を構ってくれる兄として、私を育ててくれた兄として、私は兄を心の底から愛している。


 でも兄妹だから・・・男性としては好きにはなれない。なってはいけない、


 自分でいうのも恥ずかしいが、お兄ちゃんにとって私は特別な存在だったんだろうと思う。いつも友達より私を優先してくれた。時には自分よりも。


 お兄ちゃんに友達以上の存在ができる。それは私を不安にさせる十分な材料だった。

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