27:妹は兄と同じ道を歩む

「あ、朝から・・・それに2人も・・・」

 彩芽は「うわわわわ・・・」と口に手を添え、こちらを見てくる。


「えっと・・・何て言えばわかるかなぁ・・・」


 本当に、俺とカーベラたちの関係をどう説明しろというのだ。


 一番簡潔なのは、「魔王軍からの追手から守るために匿ってまーす」だが、まず「魔王軍」というワードが入っている時点で、理解を示してくれなさそうなので却下だ。もう少し踏み込んだ説明をする必要があるだろう。

 では次の案だ。「なんか異世界で魔王を倒すのを手伝えって言われて、この世界にいる内は匿うことになってます」だ。これでどうだろう。いやまた「魔王」というのが入ってしまった。これでは信じてもらえない。

 しかし考えてみると、「異世界」だの「魔王」だのというワードは必ず入れなければこの関係性は説明できない。

 要は『目的』が説明できない。今のところ彩芽は俺が何だそのちょっぴり大人な感じの関係性上でこの2人と関わっていると思っていることだろう。この場合目的とは恋愛だのいちゃつくだのまぁ恋人同士の成れの果てというものになってくるのかもしれない。

 まぁこのように人と接する目的と人間関係は極めて近しいものだと思う。

 つまり逆説的に言えば、目的が説明できれば関係性が説明できる。だから俺はコイツらが何故俺の部屋に居座っているのか、何のために俺が匿っているのかということを説明しようとして説明できてない。


 何を長々当たり前のことを連連と語っているのだろうかと思ったが、これも一種の現実逃避だな。


何だが、動揺を飛び越えていつもより思考が冴えている。


「お、お兄ちゃんも・・・大人になっ・・・」


 おっと、どうやら俺があれこれ頭の中で考えている様子を俺が動揺していると考えたのかもしれない。動揺していないわけではないが・・・


「えっとだな・・・前も言っただろ?」


「魔王だの何だの言ってたやつ?」


 まぁ、その通りだが。そんなに呆れた顔で見るな。仮にも兄貴だ。


「いや・・・信じると思ってんの?」


 「何コイツ馬鹿なノォうけるぅー」みたいな視線を送るな我が妹よ。

「まぁ、事情が説明できないのはしょうがないか・・・まぁ取りあえず、俺はこの2人を匿ってるんだ」


「ふぇ?」


 「ふぇ?」じゃないだろ。

 今頃魔法と言っても信じないし、まず彩芽相手には俺と同じように魔法が効かないよな・・・


「あ、おい彩芽ちょっと悪りぃ」


「きゃっ、急に何すんのよお兄ちゃん」


 俺は彩芽を持ち上げた。まぁ俗にいうお姫様抱っこだ。とはいえ兄である俺は妹をお姫様抱っこしても不純な感情は思いつかない・・・よな?

 にしても今気づいたが、彩芽も中々中々の少女に育ったものだ。そこまで背は高くないが、小柄だが、そのボディラインといい女性的になってきた。というよりこの年にしては大きい方なのではないのか?

 っと、妹にいろいろ思考を巡らすのはここで止めておこう。


「カーベラそこ開けて」


「ん?いいよぉ」


 そう、俺が思いついた方法は押入れを見せることだ。魔法は俺たちには効かないし、適当に放つわけにも行かない。そこで他に手っ取り早く魔法を“視る”ことはできないかと思ったのだ。


「な、何これ・・・」


 まぁ驚くのもしょうがないだろう。

 彩芽は押入れの中にある異次元空間を見て、喉を詰まらせ、言葉が続かない。

 後ろでカーベラとアリアは「なるほど」と俺を見ている。つまるところ論より証拠なのだ。


「・・・えーっとな、この空間はそこにいる忠告破るの大好き女が作った異次元空間だ。絵とか、プロジェクター見たいので写してる幻じゃないから手を伸ばしてみな」


中々言葉がでず、驚愕から一点ボケーっとしてしまっている彩芽に次の行動を与える。

「・・・ほんとだ。押入れの壁がない。ちゃんと広がってる・・・」


彩芽の目には驚愕の色が出ているが、中々納得というのは難しいだろう。経験談なのだがな。

 おっと後ろからは怒りの感情を感じる。「忠告破るの大好き女」から。


「まぁ、信じるのは難しいかもしれないが、これは大マジなんだよな」


「・・・・・」


「事実なのは本当だから少しずつ理解してくれればいいよ」


「・・・・・」

 何だ?返事がない


「・・・むつき。アレ、もうショートしてますよ?」


「え?」


 アリアの一言に一瞬「?」マークが頭の隅から隅を駆け回ったが、彩芽を視ると彩芽の頭からは「プスッ・・・プスッ・・・」と熱気放たれている。

「お、おい・・・大丈夫か?」

 急いで今にも倒れそうな彩芽を支える・・・が、もう頭の思考回路が足りなくなってしまったのだろう。気絶していた。

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