25:彼らはシリアスになれない
「お、おはよう。むつき」
「あ、あぁ。おはよう」
カーベラの過去を知らされて一晩が過ぎた。
考えてみると、自分のしたことがとてつもなく恥ずかったことに気づいた。そして、俺の腕の中で泣き、寝たカーベラも然り。
どうやらカーベラはお手洗いに行くところらしく押入れから出てきた。そして俺は朝の目覚ましがわりに漫画を1冊呼んでいる。
つまり端的にいうと、物凄く気まずいのである。
「「あのさっ!」」
被った。同じ言葉で。
「さ、先どうぞ」
「い、いや何でもないから大丈夫。むつきこそどうしたの?」
この物凄く気まずい雰囲気を整理したいと言いたかったが、もうこれは言えない。
勇気がないからとかではなく、これはもうそういうお決まりなのだと思う。これは自然の摂理なのだ。
勇気がないのだとしても!!
「い、いや、俺も何でもない。えっと・・・ と、取りあえず朝食を準備してきます・・・」
期末試験が終わり、今は採点期間中となっている。学校に行かなくていいので炊事は俺が担当となり、今日は祖母がこない。
唯一の逃げ道をフル活用してこの場をさる。
自分の発言一つでこんなにも恥ずかしくなっているのに「いいさ。家族でいい」なんてキザった言葉をよく言えたものだと思う。もうこれは後悔というより、称賛と受け取ってもいいかもしれない。というか、そのほうが心の保ちようとしては楽なのだが。
あぁ・・・何で俺あんなキザなセリフを言ってしまったのだろうか。そういうキャラじゃないのに。慣れない言葉を放つとこんなにも恥ずかしいものか。
い、いや・・・あんな思い過去を急に話したカーベラに問題があると思う。俺は急なハプニングに慌ててあんなセリフを言ってしまったのだ。
この恥ずかしさから何とか逃げられる逃げ道はないのだろうか・・・
「っと、危ねぇ」
手慣れた手捌きで野菜を切っていたが、思案しすぎていたばかり、思いっきり自分の手を切るところだった。
今日は、卵焼き、ほうれん草の胡麻和えそして白米という和食っぽい献立だ。本当は焼き魚を入れたかったところだが、冷蔵庫に置いてなかった。まぁそこは朝食と言うことで軽めに済ますということでいいだろう。
いつものように1人分を食卓に置き、彩芽に声をかけて3人分の朝食を持ち自室へ向かう。
「お、おーい。ご飯だぞ」
そして、これまたいつも通り押入れ越しから2人を呼ぶ。
「・・・・・」
が、反応がない。
「おーい」
「・・・・・」
またしても反応がない。
朝食が冷えてしまうので、しょうがないが押入れの扉に手をかける。
「開けるぞー」
一応確認の合図を送り、俺は押入れを開ける。
「・・・何これ・・・?」
以前、押入れが異次元空間として拡張されていたが、どうやらまた進化しているようであった。
以前は俺の部屋と同じくらいの大きさとなっていた押入れだが、現在はおそらくその3倍には広がっている。おそらくと付けたのは、左右に扉があり、大きさが不明瞭な部分があるからだ。とは言え、2つの部屋で挟まれている空間も大広間となっており、俺の部屋の2倍弱はあった。
何だか物凄い進化している。
2つの扉が隔たる部屋はカーベラとアリアの部屋なのだろうか。
「失礼しまぁす」と声をかけ俺は押入れの中に入り、片方の扉にノックをする。
「おーい。朝ごはんだぞー」
数秒もたたないうちに扉が開いた。どうやらこの部屋の主はカーベラだったらしい。心の底から今はアリアが良かったぁと思う。
「ご、ご飯できたぞ」
「あ、ありがと」
カーベラが何だか少し頬を赤らめ感謝を述べた。
「・・・い、いやぁなんか押入れが物すごく進化しているんだけど、どったの?」
取りあえず話を切らさないように話題をふる。
「あ、えっとね、2人になったし部屋でも作ろうかって話になったの。まぁプライベートな部分もあるし」
まぁなるほど。理解はできる。ちなみに自室の押し入れに美少女2人が住み着いている俺にはプライベートも何もなくなってしまったのだが。
「そ、そっか。あ、あぁなるほどね」
何だかとてもぎこちない返事になってしまった。
「じゃ、じゃあアリアも起こすよ。先に押し入れ出てて」
「う、うん」
とても気まずかったので、カーベラにこの場を後にするようさり気なく頼む。
「アリアー ご飯だぞ」
数十秒が経ち、アリアが顔を出す。どうやらカーベラとは違い寝起きのようだ。
アリアは一言「わかりました」と俺に言うとすぐに押し入れを出た。俺も続くように押入れから出る。
「い、いただきます」
無言で朝食の時間が進む。何度も言うがとても気まずい。
別に俺は特別カーベラを意識しているということはないと思う。ただ、俺自身が言ったことが普段絶対言わない内容だったので、気恥ずかしくなっているのだ。
「どうしたんです?カーベラ」
「っひえっ! な、なんですか?」
「何でそんなに動揺してるんです?それにいつもならご飯食べてる時途中から喚き散らすでしょう? なんか元気ないですね」
アリア・・・以外にも鋭い。いや、別にやましいこととか俺とカーベラの関係性が恥
かしいことがあった訳ではなくただ俺は言ったことが恥ずかしいだけだから・・・
「なんか昨日ありました?私が寝てる間に」
コイツどんどん核心に迫ってくる。別に話ても良いことなのだが。やっちまったことが恥ずかしくて言い出せない。
「・・・・・」
「まさか・・・一夜を共にすご」
「いや違う」
一応断言しておこう。そういうのではないから。
「なんか、そこまで断言されるとちょっと悲しいよ? むつき」
「いやっ、誤解招くよりましだろ」
「で、何があったんですっ?」
そこまで興味深々にならなくても・・・
「・・・私の過去をむつきに教えただーけ」
どうやらアリアもカーベラの過去については共有しているようだった。
「あぁ何だそういうことですか。何だか期待損ですね」
あのなぁそんなこと言われてもな。
「・・・もしかして、むつきがいつもと違ってなんかキザっぽいセリフ言ってカーベラが心動かされちゃった的な感じで気まずくなってるんですか?」
アリアはついに核心にたどり着いてしまった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
この際なんと口を開けば正解だったのだろうか。ちなみに問いは、『どうやったら恥ずかしいのを回避していい感じにできますか?』だ。
ここから何をどう持って行ったらいい感じになるのだろうか。そもそもいい感じとは何だ?
そんなこんな考えている内にかなり沈黙が過ぎてしまった。
「あ、コレあたりですね?」
うん。
「そ、そうなの、アリア! でね、むつきったらその時私になんて言ったと思う?」
あ、こいつ汚ねぇ! 掌返して暴露しようとしてやがる。
「や、やめろぉぉぉ!!」
「“いいさ、家族でいい。肉親じゃないけどそんな家族でいい・・・”だってぇ!」
あぁぁぁぁぁぁ! 声にもならない悲鳴が俺から放たれる。
「ふっ。まぁ文脈的に大体の話はわかりましたが・・・あのむつきがっクスッ・・・あんなキザっぽいクスッ・・・いやぁーだめですっこれ我慢できないっ!」
我慢する気なかったろっ!アリアは腹を抱える。
「あぁもうこうなったら暴露してやるよ! こいつそんな俺の発言聞きながら俺の腕の中で泣いて、その後ぐっすり寝たんだぜ?」
「やぁぁぁぁめぇぇぇてぇぇ!」
フン。ザマーみろ。カーベラはドタバタと床の上で悶える。
―ドンッ!ドンッ!
扉から音がして、返事も聞かずに扉が開く。
「お兄ちゃん、ドンドン朝からうるさいんだけっ・・・またいんのかよっ!」
彩芽がカーベラとアリアを視界の中に認識すると驚愕の声を上げる。
あ、彩芽の問題まだ解決してないんだった。
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