23:魔王よりタチが悪い

「っお前なぁ! 今回のテストばかりは8割方お前のせいと言っても過言ではないと俺は思ってるからな!」


 毎日毎日「暇だ、暇だ」と俺にいい、俺をまともに勉強させてくれなかったのはお前だろうがっ! 勉強しようとしたら、「暇なんだけど、遊ぶものない?」といい、学校で授業を聞いていたら、透明化しながらペンを奪うとって落とすというたちの悪い悪戯をする。この誰にも白状できない悩みをどんなに抱えていたと思ってんだっ!


「お前が、ことあるごとに構って、構ってと俺の邪魔をするからこうなったんじゃないんですかぁ? あぁ?」


 どうやら俺の理性は保たれず、憤怒が爆発してしまったらしい。


「うわぁぁん。アリアー むつきが虐めてくるー。 だって暇だったんだからしょうがないじゃん! それに学校でほぼ会話しないしされないむつきが可哀想だったんだもん!

わぁぁん」


 え・・・この罪悪感に襲われる感じは何だ。目の前で美少女が泣いているというだけで湧くこのいたたまれない気持ちは何だ。

いや、騙されてはいけない。こいつは美少女というのを活かして俺に罪悪感を持たせようといているだけだ。


「うるせぇ。カーベラお前そうやっていれば何でも許されると思ってんのか?毎回毎回俺の注意を無視しやがって」


 よしっ惑わされずに言えた・・・え?


 俺の前ではカーベラが鼻をすすり「シクッ、シクッ」泣いてこちらを見る。


「カ、カーベラ泣かないでくださいよぉ・・・ そんなにショックだったらレオでも貸しますよ? ほら、むつき、むつきも何か言ってくださいよ」


 おい、さらっと自分のストレス解消法を人に押し付けるな。

 アリアは「とりあえず謝ってください」と俺に視線で伝える。

 え、えぇ・・・今頃そんなこと言われても・・・

 俺が動揺してアタフタしているとカーベラがまたこちらを見て、今にも泣いて喚きそうな顔を向ける。

 あぁ!何だか、本当に俺が悪いような気持ちになってきた。もう限界・・・


「・・・はぁ。俺が悪かったって。言いすぎたよカーベラごめんな」


「そ、その言葉に嘘はないのよね?」


 涙声でカーベラが俺に確認する。まぁこの状況だ返事は一つしかない。


「あぁ、嘘はないよ。俺が悪かったって。だから機嫌直せよ」


「・・・・・」

 何だこの嫌な間は。


「・・・いいのよ。むつき。誰だって過ちを犯すものだもの。許してあ・げ・る」

 俺が謝るとカーベラは言葉を発した。そしてこちらを向き、「ニヤリ」と笑顔を作る。


 最悪だ。コイツ謀ったな!!


「・・・な、なぁ、カーベラ・・・まじでもう許さねぇからなっ!」


 俺は手元にあったボールペンをカーベラに向けて、カーベラに叫ぶ。

「アリア・・・流石に今のはひどいですよ・・・? 庇ってしまった私も馬鹿みたいじゃないですか・・・あぁ?」


 アリアの口調が変わる。どうやら彼女の暗い面はもっと奥があるらしい。にしても「も」って何だ俺はそんなに馬鹿みたいに見えるのか。


 アリアはカーベラに叫びながら、レオを呼ぶ。これはガチだな。



「え、え・・・二人とも冗談だってばぁ。 だ、だからそんなに殺気を放つのやめて! ねぇ、ねぇ聞いてる二人とも!!」

 どうやらカーベラはやっとこの状況を理解したらしい。みるみる顔が青ざめていく。


「・・・なぁ、アリア?」

「なんです?」

「まぁ、レオに暴れさせてもいいんだが、家を壊さない程度にカーベラを苛めろよ? そして俺は超絶協力するわ」


 流石に家を壊されては困る。レオとアリアは家をぶち壊す程度造作もなさそうなので一応釘を刺しておこう。とは言ってもこの状況においては完璧な協力関係だ。何とも心強い。


「わかりましたよ、むつき。今カーベラを苛める方法をざっと100個思い浮かびました」


 おそらく今浮かんだというよりは彼女の暗い面を見るに人を苛める方法をこれまで幾度とない数想像してきたのだろう。本当に敵に回したくないな。


「では、行きますよ? レオ」

「ねぇ、2人とも待ってってば! ねぇ!悪かったってば!」


 カーベラは青ざめて叫ぶ。だがもう俺たちには届かない。


「とりあえず、レオ軽―くカーベラに噛み付いてやってください」


「いやぁぁぁぁ!」


 カーベラは慌てて、押入れの中に入って扉を閉める。


「開けろ! カーベラ。土下座しながら「ごめんなさい。むつき様、私が全部悪かったです。これからはしっかりむつき様のいうことを聞くので、許してください」というなら許してやらんこともないぞ!」


 あぁーいい気分!ちなみにアリアは「私にも同様のことを言ってくれますよね?」と笑みをこぼしながら押し入れの向こうのカーベラに話かけている。


「さっき、むつき「嘘じゃないって、本当に悪かったよカーベラ」って言ってくれたじゃない!」


 どうやらコイツは置かれた状況が分かってないらしい。


「なぁ、お前今どういう立場かわかってんの? 俺がその気になればカーベラを家から追い出すことができんだぞ?」


「・・・・・」


 押し入れから観念したようにカーベラが出てくる。そして土下座して謝ると思いきや、俺に飛んで抱きついてきた。


「わぁぁぁぁん! わ、私が悪かったから、許してよぉーむつき 追い出すなんて言わないでよぉぉぉ!」


 泣いて、喚いて俺に抱きつきながら、叫ぶ。おい、胸部の下あたりに弾力を感じる。これが女性とのハグか・・・悪い気分では・・・ない。

「何、頬を緩めてもういっかみたいな顔してるんですか!」


 アリアから忠告がくる。でも、でも・・・・

「むつき、許して・・・」

 そう泣きながらもカーベラはう一度こちらを見て、また顔を俺に埋める。

 あぁ、これ可愛すぎて男子高校生には無理ですわ。

 多分、アリアにやられてもこれは逆らえないな。二人とも見かけは抜群なのだから。




 魔王がどんなに恐ろしいものかわからないが、俺は、カーベラがもっとタチが悪いものなのだと思う。

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