19:2つ目の爆弾

 紫紺の輝きを放つその瞳はその笑顔とは裏腹に壮絶な存在感を放っていた。紫紺の瞳に白色の髪、いやどこか空を感じさせるような青色を纏っている。そして整った顔立ち。カーベラとはまた違った可愛さがある。

 外見はまさしく幼女だ。かよわく、非力そうな外見の内に物凄い自分に対する自信を持っているような雰囲気を感じる。


 そう。それはカーベラの自信に似た― いやそれは自信ではなく単なる慢心だな。自分の中でツッコミを入れたあと、隣につれた獣に目を移す。


隣に連れるのは紺色の毛をなびかせる獣。その獣の頂点では厳かで、勇猛で、暴力的で、優しそう、かつ美しい銀色の角が輝いている。


「ア、アリア?」


 沈黙の中口を最初に開いたのはカーベラだった。

「そうですよ カーベラ。 アリアです」

 幼女は軽く頷きながら笑顔でそれに応じる。

 と、同時にカーベラは幼女に向かって走り、思いっきりハグを交わしていた。

 どうやら彼女もこの世界に送られた魔女らしい。魔女といってもどうやら獣使いのように見えるが、そこらへんの定義はどうなっているのだろうか。

 とりあえず、今はこの二人が面識のある者同士ということを確認できただけでよしとするが。


「ア、アリアさん? 君もこの世界に送られてきた人なのか?」

 俺は少々気弱になってしまったが、一応確認のために聞く。


「そうです。あと、タメ口でいいですからね?」


 あらまぁ。カーベラより話しが分かる方でよかった。あいつと話しているとカーベラがふざけた話にすぐ持っていってしまう。アリアにはそういう傾向がまだ見えない。


「その隣にいる動物は・・・」

 アリアの隣で大人しくしている獣について恐る恐る聞く。先ほど首なし男を咆哮だけで吹き飛ばしてしまったのでもう怖すぎる。


「この子は私のペット兼パートナーです。名前はレオと言います」

「アリア、送られてから何してたの?」

 カーベラがまぁ当然思い浮かぶ疑問をアリアにぶつける。

「っえーと・・・」

 ―ぐぅぅぅぅぅぅ〜

 アリアの腹が鳴った。かなり大きく長く。どうやら相当お腹が空いているらしい。

 アリアは恥ずかしそうにこちらを見てくる。何かを願っているような眼差しを向けて。


「まぁ、危なかったところを救ってくれたことは救ってくれたんだ。飯くらい作るよ。それから洗いざらい聞くことにしよう。」


 アリアはパッと顔を向け、嬉しそうにこっちを見た。その笑顔には安堵の表情も浮かんでいた。そんなに命の危機って感じだったのか・・・




「はい、どうぞ」


 俺はカーベラが家に初めてきたとき同様、焼うどんをアリアに提供した。アリアは不思議そうに俺の料理を見て、「食べていいの?」とこっちを見る。

「そんなに怪しまなくても、焼うどん美味しいよ、アリア」

 俺が「いいよ」という前にアリアが不思議そうに俺の料理を見ていることに対し、カーベラが口を開いた。


「い、いただきます」


 その言葉を聞いて、アリアは焼うどんを食べ始めた。カーベラと俺の分も作ったので、俺とカーベラも焼うどんを食べ始める。午後2時に公園で首なし男と遭遇し、家に帰ると3時頃だったが、戦ったことに加え、寿司をろくに食べていなかった俺はお腹が空いていた。

「美味しい・・・」

 アリアは食べている途中そんな言葉を漏らしながら焼うどんを完食した。


「ほら、水だ」

 急にたくさん食べ、少し苦しそうだったので、水を渡した。

 「ゴクッゴクッ」とアリアは水を飲み干してから顔をあげた。

「あ、ありがとう えっと・・・」

「むつきだ。よろしくな」

 なんでコイツらは揃いも揃ってこの場面で俺の名前を聞くのだろうか・・・

 とはいえ、やっと話ができるような状態になったので、いろいろ聞きたいことがある。まず・・・

「さっきの獣、いやレオと言ったか。お前のペットはどこに行ったんだ?」

 俺の家についてからレオの姿が見当たらない。アリアより断然大きいあの獣をどこにやったのだろうか。

「今は私の影の中で休んでいますよ。私が呼び掛ければまた出てきます」

 まぁ何でもアリな異世界だ。カーベラと数日過ごしてもう驚かなくなってしまった。とはいえ、アリアも異世界ではそこそこ名をあげた獣使いなのだろう。


「ところで、いつこの世界に送られたんだ? ていうか、何であんな腹空かしてたんだ?」


「この世界に送られたのはカーベラと同じ日です。初日は夜薄暗い場所に送られて誰にも会わず、寂しく夜を過ごしました。

 2日目も同じく誰にも声を掛けられなかったのですが、1日何も食べていないと流石に死にそうだったので、何か食糧を探したんです。たくさん食料らしき物が売っている場所に入り、食料を買おうとお金を出したのですが、『円』という通貨の貨幣を手に入れなければ食料が買えないと店を追い出されました。あのときの店員の露骨な呆れ顔を思い出すと今でも物凄い嫌悪感を感じますよ・・・ハ、ハハ・・・

 そして途方に暮れていると、路上で音楽を弾いてお金をもらっている人を見かけたんです。そこで、私も動物を操ればお金を手に入れられるのではと期待を込めて、野良猫を捕まえてダンスをさせたんですよ。私はこれでもあっちの世界で有名な獣使いだったんです。まぁ大体の動物と意思疎通ができます。     

 ちなみに、レオは特別に訓練していて、魔法をレオを介して発動することもできますよ。魔法はイメージ力なので、意思疎通をして頭のイメージをそのままレオに伝えればレオから私の魔法が発動します。普通の動物と人間ではできませんよ?イメージを伝えるなんてかなり訓練が入りますから。まぁ私とレオはずっと一緒にいるので今ではほぼ時間ロスなしに魔法をレオから放てます。しかもレオは希少な牙狼族で、攻撃魔法をレオを介して打てば私が打つより何倍も強力に打てますよ。まぁ単体でもかなり強力な攻撃魔法ぶっ放せるんですけどね・・・


 あ、話を戻しますけど、もちろんレオはダンスさせませんでしたよ?

 この世界にこんなに厳つい動物なかなかいなかったので怖がらせてしまうんじゃないかと思ったので、ハハハ・・・ で幾らかの収入が入ったので、1日3食『おにぎり』と呼ばれる安く買えた食べ物で凌ぎました。

 そんな生活を数日送っていたのですが、流石に限界だと思い、カーベラを探そうと決意したのです。うちのレオは結構嗅覚がよく、カーベラにも会ったことがあるので、それを頼りにあの公園にたどり着きました。

 よかったですね、カーベラは。こんなにも美味しい料理を毎日食べられて・・・ねぇ??」


「・・・・・・・」


 怖っ! コイツ美少女の外見してものすごく内面暗すぎるのだが・・・

 カーベラを見ると「まぁ、まぁ」とアリアを宥めるような目で見ている。

(おい、カーベラ。コイツこんなに暗いやつなの? 最初に会った時の笑顔どこいったんだよ⁈)

(この子、いつもは明るいんだけど、ちょっと流石に不安とストレスが溜まると、いっつもレオの前で長々嫌なこと話して発散するの)


 じゃあ、人前でやるなよな・・・

 自身の質問が思わぬトラップを引き当てたことを後悔した。


「むつきさん? いや、むつき君・・・?」

 不意にアリアから声をかけられる。

「えーっと、俺もアリアって呼ぶからむつきでいいよ」

 ストレスが発散できたからだろうか。先ほどとは打って変わって笑顔をこちらに向ける。笑顔は、可愛い。 笑顔は。


「では、むつき。あの私も・・・」

 まぁ言われるだろうとは思った。ある程度予想していた展開だ。

「お前もここで匿えって?」

 アリアは軽くうなずく。まぁ、カーベラもそうすれば学校にこないでアリアと家で過ごせるし、それでもいいのだが。それだと異世界に送られる助っ人やらが、俺だけにならないか? まぁ、いずれ協力者は見つかるか・・・

 一人で疑問を抱え、一人で納得した俺はアリアの方を向く。


「まぁ一人も二人も変わんないかぁ・・・ とりあえず、俺の家族にもバレないように生活しろよ?」

 微か、いや二つ目の爆弾を抱えたむつきの日常がまた始まる。

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