18:彼らはやっと日常を逸脱した②

 カーベラにも数十発、俺にも十発、魔力不足になってきただろう。まぁただこれだけでは決定打に足りない。


 何かないか・・・何かないかっ


 表情には出さないように努力するが、内心ものすごく焦っている。

カーベラが攻撃魔法を繰り出そうとしていたことから、攻撃が効かなくはないことがわかる。ただ、それは肉体自体を跡形もなく粉々にするための魔法だ。打撃などの攻撃が実際に痛みとして伝わるかは分からない。


 根拠はある。それは首がないことだ。もし痛感覚が残っているのであれば首がないことはとてつもない痛さを伴うだろう。となると、単なる攻撃では何も感じないのかもしれない。


 しかし、何かしら弱点はあるはずだ・・・ これまでラノベと漫画を読み回してきた俺の過去がそう本能的に俺に告げる。


 まず、俺の知識から引き出すと、デュラハンの弱点は水だ。まぁ、だがそもそも首なし男であってデュラハンではないあいつに水が効くかは分からない。


 では次だ。あいつをゾンビ兵として認識しよう・・・いやこれも却下だな。ゾンビと比べてあいつは肉体が腐っていない。存在意義自体はゾンビ兵と同じだが、作りが全く別物と考えた方がいいだろう。

あぁこんなにも冴えている自分は初めてなのに答えが出てこないぃ


「・・・カーベラ、あいつの弱点とかはないのか? ああいう奴には何か弱点があるのがお決まりだろ?」

「あ! 確かどこかの書物に書いてあったような・・・ でも思い出せる気が尋常じゃないわ」

 こんな状況でもなんてカーベラらしいのだろう。もちろん悪い意味でだが。


「お前本当に魔王に歯向かうきあんの?」


 何で俺はこんなやつの手を取ってしまったのだろうか。

―スッ

 やばいやばいやばい。首なしのやつ剣を抜きやがった。というか剣が本職だからか先ほどと雰囲気が変わった。


「べ、別に魔力切れなんてぇしてなぁいからねぇ」 


 まぁ、根本的な小物感は置いといてだが。どんな小物でも一生を剣に費やしていたら騎士としてのオーラが変わるのだろう。


「むつき、私少しは治癒魔法も使えるから、多少の怪我は直せるわ。 ただ、首チョンパとかされると流石に直せないからね」


「お前、この場面でなんちゅう不吉なこと言ってんだよ!」


―トンッ


 は? 一瞬で間合いを・・・

 首なしは地面を蹴り、一瞬でで10mほど詰め一直線に首を狙って剣を振ってきた。


「ッぶね!」


 なんだコイツさっきの小物感はどこ行ったんだよっ

「ヨォク避けれたねぇ・・・ 流石にこの距離があったから避ける時間があったかぁな?」

 首なし男は「だぁけど・・・」と言葉を一つ置き、

「コレぇは避けれるノォ?」

 距離0mの中、先ほどと同じ速さでまたしても首を狙ってくる。


「“シールド”!」


 カーベラがそう唱えると俺の体は防御壁で覆われる。

「悪りぃ! 助かった!」

「大魔法は撃てないけど、防御魔法くらいならまだ全然使えるわよ」

 

 どうやら先程までの低評価を少しだけ改善する必要があるな。

「防御魔法って鎧みたいにできるか?」

「そんなことは、朝飯前よ ・・・“プロテクトアーマーッ”!」

 よし、これで首なし男に攻撃できる。後は攻撃手段だな・・・って待て、俺ってそういえば魔法効かないんじゃ・・・


「セィッ!」 

「いっっ」


 首なしは剣で俺を突いてきた。懸命に避けるも腕にかすったようだ。ヒリヒリする。

「俺、そういえば。魔法効かねぇーよ!」

 カーベラは「そういえばっ」とでも言いそうな顔を向ける。この戦闘でもうこのやりとりは2回目だぞ。先が思いやられる。


「・・・じゃあ“シールドッ”!」

「だから、効かないって・・・」

 首なしはそんなやりとりは知らないと、また首を狙って斬りかかる。


―キィン


「・・・斬られ、てない? おい、どうゆうことだ?」

「・・・っふぅ。 今、防御魔法をむつきの体に合わせて張って、むつきの動きと一緒に動かしてるの! あーこれ疲れるから早く決着つけて、むつき!」

 マジかっ・・・ そんなの俺が読んできたラノベや漫画でもなかったぞ。単純にそんな場面がなかっただけかもしれないが。


 カーベラの技術だけはあくまでも技術だけは一流なのだと再認識させられた。とりあえずこの状態だったら剣は効かないが、いつまでこの状態が続くか分からない。そう思ったのと同じくして、俺の足は咄嗟に首なしへ一直線に駆け、拳をふるった。


「セイヤッ!」


 俺の拳は首なしのみぞおちにクリティカルヒットした。が・・・


「拳撃かぁな? でぇもね、オレは痛みとか感じないんだぁよね」


 クソッ 予想はしてたがその通りになったとは・・・ だが、他の選択肢は逃げることだけだ。痛感覚はないとはいえ、あくまでも肉体は肉体だ。思いっきし蹴ればあざはできるし。骨を折れば折れるだろう。


 俺はカーベラが防御魔法の維持できる時間一杯首なし男を殴った。みぞおち、膀胱、脇の下そして金的。その他全ての急所―否、頭部を除いた急所と手足の骨を折るつもりで殴りに殴った。

「ハァハァ・・・ハァどうだ・・・」

「これで終わりなのかぁな? 思ったよりもぉ痛くないものだぁね。 というかぁ、全くかぁな?」

 悪辣な笑顔―否、もう心の中での訂正に飽きているが・・・悪辣な態度を首なし男がつく。

「ごめんっ、むつきもう魔法が続かないっ!」

 マジかよ・・・ 

「ごめんっ! 逃げて!」

 

―スンッ

 魔法が切れた。と同時に刃が迫ってくる。容赦ねぇなこの首なし男。

 あ、俺死ぬんじゃね? こんな頼りない魔女の手を取ったから。確かに技術はすごいかもしれない。問題はあいつの性格なのだ。今回もあいつがさっさとケリをつけていれば倒せた。でも俺はこんな魔女の手を取ってしまったのだ。この傲慢で、自信に溢れていて、無様で、そして可愛らしく頼りない手を。あぁ彩芽・・・ごめんなぁ 

 刹那。死を覚悟した俺に後悔と後悔が頭をよぎる。



「ウウォォォォッッッッフ」



 狼の鳴き声? いや違うなもっと図太い獣の鳴き声が響く。と同時に衝撃波が首なし男を襲う。


一瞬の出来事だった。

気づけば首なし男は跡形もなく吹き飛んでいる。


その原因の先には、獣が、いや獣と一人の少女が立っていた。

「久しぶりだね、カーベラ!」

 

 状況は目まぐるしく変わる。睦月の思考のスピードを無視しながら。

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