17:彼らはやっと日常を逸脱した①

 懸命に沈黙を貫いて来たカーベラだったが、遂に根負けして、うつむきながらうなずく。


「そんな大それた魔法じゃなくて小ちゃい魔法なら使えるんじゃないか?」

 “エクスカリバー”なんていうのはゲームの世界でも奥の奥の手だ。もっと適当な魔法があるのではないかと思い聞いた。というか、そんな奥の奥の手だけではこれから先魔力不足が多発してしまう。


「そ、そのね・・・私すごい魔女だから攻撃魔法は結構高難易度なやつしか興味なくて、あんまり中級らへんのは覚えてないの あと覚えてるのは防御魔法とか生活で何かと便利な魔法とか」

 すごい魔女だから高難易度の魔法しか興味がないというのは全く理解ができない。それよりもコイツの性格に問題があるのではないだろうか。


「お前本当に3大魔女とか言われてるのか?」


 俺は物凄い疑いの目でカーベラを見る。大それた魔法を数発打つだけで終わりとか物凄く使い勝手の悪い魔女ではないか。


「そ、それは本当よ! “エクスカリバー”なんて使えるのは私の世界では二桁いかないんだからね?」


 つまりこの魔女はもの凄くセンスと才能に溢れているのに自分の凄さを自覚するあまり、中級の魔法には手を出さず全く練習していない物凄くコスパの悪い魔女なのだ。

 まぁコイツが3大魔女なんて肩書持っててるなんて信じられないかったので、どこかどうせ穴があるのだろうと思っていたがこんなこととは

 これもカーベラらしいといえばカーベラらしいが・・・


「は、話は、終わったぁかな? な、何で何もしぃて来ないのかぁな?」

 もう自分の魔法が全く効かず腰が引けてる首なし男がこっちを見る。

 にしても、形勢は逆転してしまった。もうカーベラは防御魔法とちゃっちい魔法しか使えないことが判明した今、戦闘員は俺だけになってしまった。


「も、もしかしてぇ魔力切れ かぁな?」

 明らかに安堵した態度を見せた首なし男は、次に指先を向け勝ち誇ったような態度を見せながら、

「ざぁ、ザァまぁーみろ、数十ぱぁつ打って魔力切れを試したんだぁよ。」


 嘘つけ、さっきまで腰引けてたろ・・・

 何だこの子供喧嘩みたいな展開。


 というより、カーベラに前に送られてきた奴より格段に実力が上と言われたので内心かなり緊張していたのだが思ったより小物のようだった。

 というか小物感がもう半端なく出ている。

 安心はしたが何だが落胆してしまった。相手にというより、この戦いに。


「カーベラ一応確認だが、俺はちゃんと魔法効かないよな?」


「“フレア ”・・・ うん大丈夫効かないよ」


「・・・服を燃やそうとするな。お前に一回奪われた見せ場、俺がカッコよく締めて来てやるよ」

 そうカーベラに言い、俺はカーベラの作る透明な防御壁から出る。


「お、お前が相手ぇをするのかぁな?」

 何だか嬉しそうだ。やはりコイツかなりの小物だな。

「あぁ、そうだあの馬鹿が魔力切れとやらを起こしたからな」

 そして本当にあいつは馬鹿だ。


 さぁ、俺。どうやってあいつを倒す? 魔法は効かないとは言え、生前は騎士だった首なしに剣を出されたら太刀打ちもできないだろう。思いっきし殴る? いや屍相手に殴っても痛感覚があるかはわからない。剣を奪う? まぁそれができれば一番だが近くに寄れば迷わず剣を出してくるだろう。


 カッコよく前に出て来たとはいえ、今俺の能力は剣は上手く使えない、格闘技もない。ただただ、魔法が効かないという意味不明なステータスだ。正直強いのか強くないのかわからない。


 運動神経は悪くはない方だ。調子がいい時にバク転ができるくらい。だが、騎士団の元幹部様となったらあの首なしも運動神経が悪いはずがない。

 あれ? 俺どうやったら勝てるか分からなくなってきた。というか何で俺が魔王討伐に力を貸すのだ? 

 魔法が効かないだけで全く役に立ちそうな気がしない。この戦いだけじゃなくこの先にも不安が募る。


「な、何もぉしてこないなぁら、こっちから仕掛けてぇもいいのかぁな?」

 少しずつ高圧的な態度と自信を取り戻してきている首なし男に声をかけられる。

「声をかけてくれるとは思ったより優しいんだな。別にいつでもいいぜ」

 内心、心臓がバクバクだがあえて高圧的な態度をとる。そうしなければ先ほどまで作ったカーベラの圧倒的余裕が無駄になってしまう。

 にしても彼らはどうやって生きているのだろ・・・

「“ダークバレットォッ”!」

 ―ポスッ

「・・・ど、どうやら貴様もぉ相当な防御魔法の使い手ぇのようだぁね。 だぁけどいつまでそうしていられるかぁな? 隣の魔女の二の舞にぃなっちゃうヨォ?」

 もうコイツ小物感を隠そうともしないんだな。


「“ダークバレットォッ”! “ダークバレットォッ”! ”ダークバレットォッ”!

 “ダークバレットォッ”!  ハァハァ・・・ “ダークバレットォッ”!

“ダークバレットォッ”! “ダークバレットォッ”! “ダークバレットォッ”!

 ゼェゼェ ・・・“ダークバレットォッ”!」


 あと一回で10発か。


「あぁぁぁ! “ダークバレットォォォォォッ”!」


 どうやら魔法が効かないというのは根本的な問題で、回数制限もないな。俺は何もしなければ最強になれるかもしれない・・・ そんなの何も意味がないのだが。

「す、少しはぁやるじゃぁないの」


「あんがとさん」

 まぁ、何もしていないのだがな。

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