13:仮にも
転倒2回に遅刻1回とカーベラのせいで散々な目にあったあの日からカーベラは次の日も俺の胸ポケットに入って来た。
そして、俺の部屋につくと元に戻る。
俺の胸ポケット事情を除けば何ら元の日常と変わらない毎日というのが少しばかり期待を裏切られた感があるが、彼女のいない俺に取っては女の子が毎日そばにいるというのは悪い気がするものではなかった。
幸いにも、転倒したことに対する声は1日で終わり、俺はまた『普通』の高校生になっていた。
そして、数日が過ぎカーベラが降って来てから初めての休日に入る。
「カーベラ、今日は学校ないからまだゆっくりしていていいぞ」
押入れ越しにノックをしてそう伝える。まだ寝ているのか反応がない。
今日は休日なので祖母も家にはこない。両親は今日朝から出かけるらしいので、俺が炊事担だ。
適当に作っておけばいいか・・・ そう思いながら、彩芽とカーベラそして俺の分の朝食を作る。目玉焼きに、トーストにサラダ。至って普通の献立だろう。
1食分を食卓に置き、彩芽に声をかける
。
「朝食作っといたから勝手に食べろよー」
「んー」
そんな素っ気ない声を聞きながら俺は部屋に戻る。そしてもう一回押し入れをノックする。
「起きてるか? 朝食できたぞ」
「んーわかった 入って来ていいよ」
押し入れそんな空間ないだろ・・・
「入って来てって押し入れそんなひろ・・・はぁ⁈」
カーベラが入ってマンパンだと思っていた押し入れは俺の部屋くらい広がっていた。
しかも、部屋が広がったというより、異次元空間を作ったような感じだ。押入れの壁が壊れているような形跡もない。
もうドラ○もんは超えてしまっている。
これも魔法の力・・・?
「いやいや・・・これどういうこと?」
「狭かったし、家にいるときはここが安全だから部屋を創ったのよ」
「これも魔法? だとしたらお前の世界ってどうなってんの?」
当然思い浮かぶ疑問だ。誰でも彼でも空間を作り出せるような魔法が使えたら世界がどのようになっているのか想像がつかない。
「だから言ったでしょ。 私はすごい魔女なんだって」
こいつホントにすごい魔女なのか・・・
いつものお調子者の性格とは別の魔女としての才能の片鱗を見せられ唖然とする。
「まあ、そんなところにいないで入って、入って」
頭が追いつかないが言われるがまま、押入れに入る。
「俺とかこの世界に生きている人は魔法が効かないんじゃなかったの?」
俺はふと浮かんだ疑問をカーベラにぶつける。
「う〜ん 難しい話かも何だけど・・・ 私が魔法に影響されたものはこの世界にむつきと同じように存在するって扱われるんだよね。 だから魔法が誰かに直接影響を与えるのとは別にもう存在しちゃってるって感じでむつきも認識できるの」
なるほどカーベラが気配を消したり、小型化したりすると俺からもカーベラが見えなくなったり、小さくなったまま認識されるのと同じか。
「いっただきま〜す」
俺の作った料理を頬張る。俺も朝食を食すとしよう。
「ごちそうさまでした。 やっぱりむつきのご飯は美味しいなぁ」
「そうですかい。あんがとさん」
家ではほぼ俺の手料理、学校について来ても勝手に俺の弁当を摘み食いしている。
そんなにこの世界の料理は珍しいのだろうか。
「今日は学校休みなの?」
「あぁ。 今日は買い物に行くぞ」
今日はカーベラとの共同生活に関わる一つの問題を解決しに行く。
その問題とは何かそれは・・・『服』だ。
異世界に送られるにあたり、着替えは少しばかり用意していたし、着た物も魔法でセルフ洗濯して使っているが、相変わらず奇抜な服しか持っていない。
それにこのカーベラが作った空間には驚いたが、流石に寂しいこともあるだろう。幸にもお年玉を使っていなかったので少しは生活の足しになる物が買えるだろう。
「何を買うの?」
「その奇抜な服だと、外に出にくいだろ。まぁそれにいろいろ足りない物もあるし・・・ とりあえず服を買うまではいつもみたいに小型化して俺のポケットに入ってろ」
「んー わかった」
「俺の用意が終わったらすぐに出掛けるから準備しとけよ」
そう言い残し押入れを出る。
にしても本当に驚いた。『空間』を自ら作ってしまうなんて。一応角部屋なので、窓から部屋が出っ張っていないか確認するが特にそんな様子はない。
あいつも魔女なんだなと再々認識しながら俺は着替え始めた。
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