11:彼女が日常に入れた亀裂は0m
「おはよう」
「おはよう 榊原くん」
俺が学校に来て最初に声をかけたのは隣席の加藤。確か今日は日直だったと思う。日直と言っても俺の学校ではやることはほとんどない。毎授業の挨拶と最後のホームルームの司会くらいだ。
あー普通だな
カーベラを家に置いて来たのは自分の判断だったとはいえ、昨日から色々あってこの退屈な日常に何か亀裂が入り、変化が起こるものだと勝手に期待していた自分が今落胆している。
1時間目は・・・今日は体育か。ちなみに体育は嫌いでもないし、好きでもない。適度に体を動かすことは好きだし、運動神経も、そこそこ良いほうだ。リレーの補欠に選ばれるくらいと言ったらいいだろうか。
つまり、運動神経抜群で、女子にモテる訳でもなく、中途半端に運動ができるくらいの影が薄い補欠候補。そんなところだ。
まぁ補欠とはいえ、少しは運動ができるなら、体育の授業は楽しいのではないかと思う人がいるかもしれないが、そんなことはない。
女子の黄色い視線は、それこそ俺を補欠止まりさせているイケメンリレー選手に行き、どこの学園物語にもいそうな熱血教師キャラによる根性論。
ここで一つ挟ませてもらいたい俺の持論は熱血教師キャラの体育教師について。
彼らは熱血であることが個性だと思っているかもしれないが、どこの学校にも同じような存在がいるからそれはもう個性ではなく、「普通」の教師だぞ?
その無駄に暑苦しい個性を捨てて、冷静沈着なスマート体育教師になった方がよっぽど人気が出るし「個性」になると俺は思う。
無駄話が過ぎたが、要は自分が少しは運動できることと、これらの嫌いな要素が足し合わさって、体育は嫌いではないが、好きではない評価止まりしているということだ。
今日の授業は、走り幅跳びか。
どうやら、今日は成績を図るために測定するらしい。
苦手ではないので、それなりにこなしていれば問題はないだろう。
そんなことを考えながら、着替え、校庭に向かった。
準備体操や、走り幅跳びの練習が終わりついに測定時間になった。ちなみにこの授業中俺に話しかけて来た人はほとんどいない。
俺は極端にボッチで皆から避けられているわけではないので、俺から話かければほとんどの人が嫌がらず話返してくれる。
しかし、冒頭にも触れたように俺はどのグループにも属していない。いや属せなかったので、話しかけてくる人はほとんどいないのだ。
それに今日はよく眠れず、疲れて・・・
「えー では次榊原 睦月」
どうやら呼ばれたようだ。俺は助走のラインに立ち、走り、飛ぶ。
「―6m50cm」
うーんあまり良い結果ではなかったかもしれない。確か平均くらいだったような・・・
まぁ疲れがあるのかもしれないし、走り幅跳びは一人2回まで測定チャンスがある。次頑張ろう。
「えー では榊原 睦月 2回目」
2回目だ。次こそはしっかり結果を出す。
先ほどより、助走にしっかり力を入れて・・・一つ断っておくと、助走の距離を伸ばしたのではなく、しっかり脚に力を込めて助走した。
ジャンプする線がどんどん迫ってくる・・・
そして、その線を超えないギリギリのラインで踏み切るっ・・・
よしいい感じ。先ほどよりは記録は伸びそうだ。
その時だった。
靴が脱かけ、足だけが引っかかったような形になった俺は顔から思いっきり転んだ。
「―――――――」
なんともいえない沈黙が授業を覆う。一人一人測定していたので、皆の視線が俺に集まる。
あー死にてぇー
恥ずかしいなんて超越した羞恥心が俺を襲う。
「っぷわっはっは! 睦月それはなんだよ!」
「ぁあー出せぇー! 何やってんだよ睦月!」
似たようなコメントが、次々と周りからかけられる。
しかし、何だろうかこの疑念は。
確かに靴は脱げたが、なんだか、靴自体を抑えられて足が靴から出かけたような感触だった。そして体勢を大きく崩し、こけた。
「え―0m」
そう体育教師が告げる。いや言わなくていいだろ今更。
今日は馬鹿にされて過ごす大変な1日になりそうだ。
今学期の体育の成績を懸念しながら、俺はしょんぼりと授業が終わるのを待った。
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