03:証拠より膝枕
逃げた現実が視界の中に鮮明に姿を作っていく。
「気がついた?」
何だろうか。後頭部に柔らかな感触がある。ずっとすがっていたいような感触だ。答えはカーベラの膝枕であった。
「寝ている間、ずっとこうしてくれていたんですか?」
「いや、まあそれは・・・ そう、地面に頭をつけると痛いと思っただけだから。」
やっぱり、カーベラは可愛かった。いつまでもこうしている訳にはいかないので姿勢を戻す。
「落ち着いた?」
少しは心配してくれているのがわかるような視線で見つめられる。
「ほんとに、どうゆうこと何だよ。最初の“フレア”とか唱えてたのは置いといて、あの光っていた弓は何?そもそも何で降ってきたの?」
本当に何なんだよ。クソ
「そうよねまぁ当然思う疑問よね。確か、この世界に魔法ってないんでしょ?」
そもそも魔法って何だよ。
「・・・“フロート”」
カーベラは突然浮いた。
「うん、こっちはやっぱり大丈夫ね。」
カーベラは何かが自分の中で納得できたのか気を改め俺の方を向く。
「じゃあ一から説明するわ。私の世界の住民は皆の想像を信じる力によって現実へ物理的に逆らい魔法を行使することができるの。」
イメージ力で魔法を使う?
「最初に唱えたフレアは他人や他のものに影響を与えるから、私個人のイメージだけでは特に何も起きないんだけど、私の世界では魔法自体が小さい頃から触れる文化、文明であり魔法が効かない者など皆無だと思うわ。」
「じゃあ何で今、浮くことができたの?」
あぁ、失敗した。質問してまった。どんどん自分が引き下がれなくなってしまう。
「答えは簡単よ。それが自分にだけ影響を与えるから。私が落ちてきたときも思ったより軽かったでしょ? あなたの世界ではあるのかしら精神的に自分を追い詰めて体に支障が出ることとかない?」
なるほど何となく魔法に対するイメージは理解できそうだ。
「病気の人が『生きる目的!』な感じのを見つけて寿命が長引いたとかたまに聞かない?これも自分が生きることをイメージしてるのが理由。イメージは思えば思うほど力が強くなりますよ。その分魔力を使うけど。」
魔力?集中力的なものか?
「どう?少しは理解できた?」
そういえば、まだ聞いていないことがあった。俺がこのような状態に陥った原因だ。
「なぜ俺なんです?」
「“俺”というのは些か自意識過剰な気がするけど、この世界の住民だからよ」
「・・・最初の魔法が効かなかったように俺はイメージが足りなくて魔法が効かないってことですか?」
「その通り。ただ、物理的な攻撃は結局変わらないけどね。―改めて言うわ。我々は助けを求めてる。私の手をとってくれない?」
流石にここまで魔法とやらを見せられて信じられない程器が小さい俺ではない。確かに心の底からこの現状を理解して飲み込もうとしている訳ではないが、流石にカーベラの話を拒絶することはできない。
頭の中で期待感と恐怖心が戦ってしまっている。
ずっと本やテレビの中にあった世界。現実を忘れさせてくれた世界。何も楽しみがなかった俺を酔わせてくれていた世界。
その世界が“現実”として俺の前に今迫っている。それは「死」と隣り合わせになるかもしれない世界なのだ。
悩んだ、悩んだ末に決断する。
「俺は、怖がりだ。さっき“死”を感じてもう腰が引けてる。俺にはそんなことは無理だと思う。ごめん。他言はしないし心配しないでくれ。」
「そう・・・ 私も無理にと言うつもりはないから安心して。急にこんな事言われても信じられないことの方が多いものね。」
カーベラは去った。カーベラは特に責めることもなく去った。だが、去る直前のカーベラの不安そうな表情を俺は見てしまった。去る直前のあの顔が、表情が目蓋の裏に突き刺さり焦げて残った。
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