第51話 傷だらけの決着です。
「なんだ? お前の連れか。そいつはちょうどいい。こいつを死なせたくなかったら」
「ウェナ、自分の身と、人質を守って!」
マーグがなんか言ってるけどスルーだ。
私が叫ぶと、ウェナが自分の首にかかるマーグの左手を握りしめる。
「豪氷風」
マーグの指から、二の腕までが一気に凍り付いた!
「うお!?」
反射的に手を放したマーグの脇を、ウェナが走り抜けようとする。
「このガキが!」
ウェナをつかもうとするマーグに向かって、私は槍を突き立てた。
小手の上をすべるように進んだ槍の切っ先が、マーグの右肩を切り裂いた。
「あんたの相手は、私!」
それ以上ウェナのほうに行かないよう、私はマーグの目の前で槍を振り回してこっちに気を向けさせる。
舌打ちしたマーグは、凍り付いた左腕をそのままに死鋼の右腕を振り上げた。
後ろでは、子供たちのところに着いたウェナが近くの盗賊を両手で突き飛ばしていた。
ウェナのパワフルアタックを受けたかわいそうな盗賊は、身体をくの字に折り曲げた状態で空中を飛んでいく。
≪あっちはもう大丈夫だ。あの程度なら、ウェイナリアだけでなんとかなる≫
「だね」
とりあえず、人質のほうを気にする心配はなさそうだけど。
「おい、俺の武器をよこせ!」
マーグの声を受けて、盗賊たちが銀色に光る
私の槍と同じくらいの長さで、表面にはイボのようなデコボコがびっしり。
こっちは、まだまだ油断できない!
「うおらあっ!」
気合一発、横に振られた金棒がうなりを上げて私の頭をかすめた。
それだけで、額がびりびりとしびれる。
≪気をつけろ。あれの直撃を食らったら、お前じゃ持たない≫
私が槍で斜めに斬りかかるけど、金棒にあっさり止められた。
「おら、どうしたあっ!」
マーグはその大きな金棒を棒きれのように軽々と振り回してくる。
腕力はこっちの死鋼の鎧のほうがわずかに上みたいで、力ずくで押し切られることはない。
だけど、向こうのほうがずっと戦いに慣れているみたい。
無駄な動きがなくて、どうしてもこっちが防御に回ることになる。
たまに私が槍を伸ばしても、あっさり金棒に防がれた。
「雷閃!」
距離を離せば、攻撃魔法の連打だ。さっきのジュリアさんと同じような展開になってる。
≪焦るな。雑魚の掃除が終われば、ウェイナリアもこっちの援護に回れるだろう。今は耐えるんだ≫
でも。
ウェナが強いと感じた盗賊たちは、彼女から距離を取って魔法での攻撃に切り替えていた。
ウェナも氷の壁を作って防戦してるけど、他の人を守りながらではうまく反撃できないみたい。
どれだけマーグと打ち合っただろう。
頭が痛くて、息をするたびに意識がぼやっとする。
私の体力はもう限界に近い。
マーグも息を弾ませているけど、あっちはまだ余裕がありそうだ。
突然、マーグの斜め後ろから一発の火球が飛んできた!
火球は私の顔面にぶつかって、衝撃と同時に視界が真っ黒になる。
≪おいおい、先に相手の援護がきたかよ≫
「よくやった! これで終わりだ!」
マーグの声で、私は見えないまま槍を正面に構える。
金棒の一撃目はなんとか受け止めたけど、二撃目で槍を後ろにはね飛ばされ、そして三撃目が、私の胸に直撃した!
「くはっ!」
私は、その一発だけで、床に突き倒された。
「あ……、ぐ」
心臓から両腕にまで痛みが広がっていて、声を出すどころか息もまともにできない。
胸から背中までなにかが突き刺さったよう。
殴られたところを押さえながらマーグを見ようとするけど、その姿はぼやけて影にしか見えない。
≪大丈夫か! しっかりするんだ!≫
王様の声がうっすら聞こえるけど、答えられない。
マーグの近づいてくる足音だけが、やけにはっきり聞こえてくる。
「手こずらせやがって」
ぼやけて見えてたマーグの身体が、少しずつはっきりしてきた。
私の槍、どこかに飛んでいっちゃったみたいだ。
マーグの足音が、私の頭のすぐ横で、止まった。
少しでも抵抗しようと、震える両手を床につき、身体を起こそうとする。
≪待て、そのまま寝てるんだ!≫
王様の声とほぼ同時に私も気づいた。
マーグの足の間から見える、闘技場の壁。
救護室への扉が、空いている。
「終わりだ」
金棒が振り上げられた瞬間。
その背中へと火球が飛んできた!
火球は金棒を弾き、マーグの身体で破裂する!
「間にあった! クロウ、生きてる!?」
胸に包帯を巻いたケイがこっちへと走ってくる。
ケイだけじゃない。守備兵っぽい武装した人たちも、少しずつ試合場内に入ってきていた。
「大人しく寝てれば、死なずにすんだのによ……」
火球の直撃を受け、真っ赤に腫れ上がった姿のマーグ。
でも、倒れない。それどころか、勢いよく足を踏み出してケイのほうを向いた。
「この、クソアマがあっ!」
私は、反射的に左手を伸ばしてマーグの足首をつかんだ。
ダメだ。行かせちゃいけない。
こいつは、まだこんなに力が残ってる。このまま大ケガしてるケイのもとに行かせたら、ケイが殺されちゃう!
「死にぞこないが! 放せ!」
金棒が一発、私の肩に落ちる。
でも私は、つかんだままの足首をひねってマーグを床に引き倒した。
私自身、転がるように身体を動かし、離れようとするマーグの首に自分の右腕をからませる。
「ケイ!」
マーグに後ろから抱きつくような姿勢で、私はありったけの大声で叫んだ。
「準決勝で出した炎の槍、もう一度撃って!」
「「な!?」」
ケイとマーグの声が重なる。
「あの魔法なら効くから! 私は鎧が守ってくれるから、撃って!」
「てめえ、正気か?」
マーグが私の腕に手をかける。
その黒い死鋼の小手の力で、私の腕を無理やり引きはがそうとする。だけど、放すわけにはいかない。
それこそ、身体が震えるくらいの全力をこめて、私はマーグの首を締め上げた。
「お前まで巻き込まれるんだぞ! あの魔法の威力は見てただろうが!」
口をぎゅっと閉じたケイが、三日月剣を両手に持った。
その刀身に魔力が込められ、オレンジから白へと変化していく。
「私じゃ、あなたを止められないからね」
「イカレてやがる……」
≪俺も同意見だ≫
王様にまで言われて、私は少し笑ってしまった。
「あの子供たちは、私と同じ。周りの人の都合で振り回されてばかりで、ただ怯えることしかできなかった」
逃げようともがくマーグの耳元で、私は噛みつくように言葉をつないだ。
「子供を盾にするって? なら私はあんたを盾にしてやる」
ケイが、金色に輝く剣を、振り下ろす。
「炎塵牙槍!」
マーグの右腕が、私から離れた。
ケイの魔法を防ぐため?
今の私、遠慮しないよ?
「ぐげ……」
押さえの消えた私の腕は、マーグの首に思いっきり食い込んだ。
マーグが、首を振り乱して、叫ぶ。
「ぐぞっだれがーっ!!」
ケイの炎の槍はマーグの右腕を弾き飛ばし、私の腕のすぐ下、マーグの胸に突き刺さった。
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