第33話 闘技大会が始まりました。

 そんな感じで外での巡回警備を何日かやり、そろそろ慣れてきたかなーという頃。

 エクサ設立記念祭のメインイベント、無差別闘技大会が始まった。

 武器あり、魔法あり、一対一の決闘形式での勝ち抜きトーナメントだ。


 今回集まった二百人近くの参加者が、合間で休息日をはさみつつ十数日かけて対戦を進めていき、勝ち残った四人が最終日で戦うんだそうだ。

 

 そして、試合への賭けも大々的に行われている。

 賭けの内容は、優勝者の予想、最終日に勝ち残る四人の予想、一試合の勝敗などなど。


 どっちかというと、賭けのほうがお祭りのメインっぽく見える。闘技場の関係者以外なら誰でも賭けられるみたいだし。


 賭けの受付も闘技場の中にあるので、闘技場付近は人の出入りが明らかに増えて昼も夜も大賑わいだ。

 それでもケンカの場面に直撃しなかったのは、ラッキーもあるけど、きっとこの鎧のおかげだったんだろう。

 興奮した人もこの鎧で近づくと大人しくなったりするし。


 そして警備しなきゃいけない場所も少し増えた。

 大会初日と二日目は、今までと同じ闘技場外周の巡回警備だったけど。

 三日目になる今日の警備場所は、私が試合場でウェナが選手控え室だそうだ。


 さらに、最近ずっとスリープモードだったギド王も今日は起きていた。

 なんでも、闘技大会のことを聞いてから私が試合場の警備をするのをずっと楽しみにしてたらしい。

 近くで戦いが見られるからだって。


≪前に盗賊からを食らったときの魔力を、今まで使わずに溜め続けてたからな。しばらくは起きていられるぞ≫

「王様、観光気分だよね」

≪何を言う。危険から身を守る方法を、戦いを見ることで学ぶんだよ。お前もよく見て勉強しとけ。静かに暮らしたいって言ってても、争いごとは勝手に寄ってくるもんだからな≫


 それはねー……。

 どうにかしてほしい。


 こっちに争う気が無くても、この前みたいに盗賊のほうが襲ってくるケースもあるんだよね。

 この世界は物騒だよ。


 蚊取り線香みたいに、使えば盗賊が寄ってこなくなるような便利アイテム、ないのかな。それこそ魔法とかで。


「クロウ様?」

「ああ、ごめんごめん」


 だいぶ先を歩いてたウェナが、振り返って私を見てた。慌てて歩くペースを上げる。

 これから警備のお仕事だ。しっかりしなきゃ。


 宿泊部屋からずっと階段を降りたところにある広めの通路を進んでいって、大柄な警備兵の人たちの間を抜けると、大勢のざわめきが聞こえ始める。

 金属製の頑丈そうな扉の前でウェナが立ち止まった。扉には第二控え室と彫られた木の板が下げられている。


 控え室の扉を開けたとたん、濃厚な汗の臭いが私の鼻に飛びこんできた。


 くさーい。この空気は苦手だ……。


 我慢して扉をくぐると、中はけっこう広い部屋だった。

 横長のテーブルに木のイスがいくつか並んでいて、強そうな人たちが間を開けて座っている。


 奥の壁には真横に線状の溝が何本か掘られていて、日の光と歓声が漏れている。

 そこから試合場の様子が見えるみたいで、選手っぽい人たちの何人かが黙って外を見つめていた。


 今日のウェナの担当は、この控え室。

 私の担当は、この先にある闘技大会の試合場なのだが。

 ここにいる人たちは、いわゆる「殺気立っている」というのが私でもわかる。

 すっごくピリピリした雰囲気だ。


≪おーおー。気合い入ってるねえ≫


 ギド王はのんきなことを言ってるけど、私は正直、怖い。

 そして、怖いことに加えてもっと気になることがある。

 それはウェナをここに置いていかなければいけないことだ。


 少なくともあの巨大な槍を持てるぐらいの腕力はあるし、魔力もすごいらしいんだけど。

 こんな小さい子をこんな殺気立った場所に置いていっていいのだろうか。

 ダメだと思ってウェナに一回言ってみたんだけど、本人はやる気なのよ。


「ねえウェナ、本当に大丈夫? きつそうなら今からでも代わってもらえるか聞いてみるよ?」

「問題、ありません」

≪大丈夫だよ。こいつは強い。ここにいる連中、全員よりもな≫


 本人やギド王はこう言ってるけど、どうにも心配なんだよねえ。

 一応、この部屋には他にも何人かのベテラン警備兵の人がいるけども。

 なーんか、私たちの様子を見てニヤニヤしてる人もいるし。


「さあ、ここは、お任せください」


 ウェナに背中を押されて、私は控え室から闘技場に出る扉の前に立たされた。

 扉の横に立っていた警備兵の人が、私を見て扉を開ける。


 こちらを見続けるウェナに軽く手を振ると、私は外へと足を踏み出した。

 真正面に輝く太陽のせいで、視界が真っ白になる。

 あらゆる方向から、お客さんの興奮した歓声が聞こえてくる。


 この雰囲気、控え室とはぜんぜん違う。声が束になって、まるで地鳴りみたい。

 ここに立つだけで、心臓が早くなって肌がざわざわする。


 少しずつ、目が慣れてきた。

 晴れ渡った空の真ん中にある太陽がギラギラしてる。

 硬い土の床の上に薄く敷かれた白い砂も、日の光が反射して光ってるみたいだ。


 試合場の周囲は高い石壁で丸く囲まれていて、その上に段々になった観客席がある。

 そして、観客席は超満員だ。


 闘技場は中央に置かれた柵で二つに分かれていて、それぞれ別の試合が行われている。

 私のいるほうは次の試合の準備中だけど、反対側は今まさに試合の真っ最中みたいで、武器がぶつかる金属音が鳴るたびにお客さんの歓声があがる。


「おーい、こっちだよ」


 扉の横、試合場の外壁に沿うように立った警備兵の人から声をかけられ、私はそっちへ向かった。

 そこにいたのは、初日に一緒に外を巡回した灰色毛の猫おじさんだ。

 顔見知りがいて、ちょっと安心する。


 今日の私の仕事は、こっち側の試合場の警備だ。

 やることは、出場者を試合場へ誘導したり、試合中にケガで動けなくなった人を運んだり。

 あと試合が終わったのに戦い続ける人や、負けを認めなくて暴れてる人を取り押さえたりなど。


 他だと、興奮しすぎたお客さんや別の試合の選手が試合場へ乱入してきちゃったら、それを止めることだ。

 滅多にないらしいけど。

 というか、あったらすごく困るんだけど。

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