第28話 (役所の奥で)

-クロウたち三人が役所から出て行ったあと-


「しかし珍しいですね。このタイミングで警備兵の推薦なんて。しかもジュリア様ご自身で」


 クロウに対応していた受付嬢がジュリアを見て言った。


「ちょっと気になっていたことがあってね。奥で話せるか?」


 受付嬢はうなずくと、受付業務を他の者に任せ、ジュリアを連れて奥の事務所へと入っていった。

 外から見られない個室に入ったところで、二人が真剣な表情で互いの顔を見る。


「率直な意見を聞かせてほしい。クロウ殿の『声』を聞いて、どう思った?」


 ジュリアが聞くと、受付嬢の頭上に生えたウサギ型の耳がぴくりと反応する。


「そうですね。とても素直な方です。悲しんで、驚いて、嫌がって、悩んで、感謝する。ひとつひとつの言葉に感情が乗っていて、嘘は感じられませんでした。あんな鎧を着た方には似合わないくらい」

「そうか。そうだな。私も同意見だ。クロウ殿は、素直な子だ」

「あら、子だなんて。あんな鎧を着こなせるのなら、中身はさぞ立派な体格のお方なのでは?」

「遠征先からエクサへの帰還の途中、彼女は何度か鎧を外していてね。顔を見せてもらったし会話もしたけど、本当に普通の女の子だったよ。むしろ警戒心が薄くて心配になるくらいだ」


 ジュリアが納得したようにうなずいた。


「ありがとう。私はクロウ殿に助けられた立場だし、クロウ殿には好感を持っている。そのぶん、彼女について客観的に判断しにくいと思ってね。君の耳でも嘘が感じられないなら、クロウ殿には問題ないだろう」

「今回の遠征は盗賊の討伐でしたね。ジュリア様が気にされていたのは、クロウさんが盗賊とつながっているかどうか、ですか?」

「それもあるし、つながってないなら別の問題も出てくる。クロウ殿が残った盗賊に狙われかねない」

「討伐に協力したことに対する報復の可能性ですか。しかし、あの鎧があれば残党程度ならなんとでもなりそうですが」


 受付嬢の言葉に、ジュリアの表情が暗くなる。


「今回の討伐ではそれなりの数の盗賊を捕縛できたが、奴らへの尋問と今までの情報を合わせると、今回捕まえた以上の数の盗賊たちがあの雷鳴党に合流しているとわかった。盗賊の本隊は無傷だろうな。まだまだ相当数の盗賊がどこかに潜んでいるだろうし、盗賊どもがこれだけ集まって何を企んでいるのかは不明のままだ」

「とすると、クロウさんに臨時警備兵を推薦したのは彼女を守るためですか? 闘技場で寝泊りすれば警備は万全ですし」

「それもあるし、職を探していたクロウ殿への恩返しもある。あとは打算もあるよ? 勤務態度が良くて、彼女にその気があれば守備隊への推薦も考えている。人格も戦力も問題なさそうだし、警戒心や心構えは後からでも鍛えられる」


 ジュリアの表情が、実直な守備隊長のものに戻った。


「とにかく、助かったよ。引き続き、役所に来る者に怪しいのがいないかの確認を頼む」

「お任せください。なにか見つけたらご連絡します」

「頼りにしてるよ」

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