第27話 闘技大会について考えてみました。

「いかがでしたか?」


 後ろからの声に振り返ると、六本の剣を腰に下げたジュリアさんがこっちに歩いてくるところだった。


「補修工事の人員募集はまだ続いていたでしょうか」

「いえ、もう終了しているみたいです」

「そうでしたか」

「それで、闘技大会の参加を勧められていたのですが……」


 ジュリアさんが、黙った私と受付さんを交互に見た。

 

「まさか、強要されたと?」

「しませんし、できませんよ。こんな鎧をつけた人に、強要なんてできると思います?」


 受付さんが可愛らしく肩をすくめて微笑む。


「まあ、少し悩みましたが、参加するのは止めておきます」


 私がそう言うと、ケイはちょっと残念そうな顔をした。


「そっか。まあクロウが決めたならそれでいいんじゃない。その鎧と実際に打ち合ったらどうなるかちょっと興味があったけど、しかたないか」


 ジュリアさんはそんな私たちを見ていたが、カウンターに寄りかかって受付の奥のほうを指さした。


「確か、闘技大会の警備の枠はまだありますよね? 守備隊からの推薦枠です」

「はい? それは確かにまだ残っていますが」


 受付さんが、ジュリアさんの見ているほうから書類を持ってくる。

 ジュリアさんが体の向きを変え、私のほうをみた。

 左側の二本腕をカウンターに乗せ、残った左と右一本ずつの手で腕組みし、右腕の一本を腰に当て、残りの右手一本を自分のあごに当てるという、ものすごく器用なポーズをとっている。


「クロウ殿。もしよかったらなのですが、闘技大会の開催期間中の臨時警備兵をやってみる気はありませんか?」

「臨時、警備兵ですか?」


 ポーズに気を取られてて、言われた言葉の意味がわからずに聞き返してしまった。


「やることは難しくありません。主に行うのは、出入口の立ち番や会場および周辺の巡回、危険行為者の捕縛、試合場内での選手誘導などですね」

「はあ。あの、そういうのはやったことがないのですが、大丈夫ですか?」

「大丈夫ですよ。警備兵は常に複数で行動します。臨時の警備兵は必ず警備経験のある兵と一緒に行動しますので、なにかあった際には経験のある兵の指示に従ってもらう形になります。そして待遇のほうですが」


 ジュリアさんに目を向けられ、受付さんが説明を引き継いだ。


「期間はおよそ二十日間で、日給は補修工事作業員の二倍。危険行為者の捕縛等においては臨時手当てを別途支給。期間中は闘技場内に泊まり込みで、宿泊費無料、食事代も無料、おかわり自由です。このへんは選手と同じ待遇ですね」

「ずいぶん好待遇ですが、危険行為者って、なにかする人が出るんですか?」

「闘技場の近くでは、催し物や試合に興奮した人とか、酒に酔った人、賭けに大負けした人とかがたまに暴れたりケンカしたりするんですよ。特に闘技大会の開催中は増えますね」

「ま、その鎧があればそのへんのゴロツキなんかじゃ傷もつけられないでしょ」


 ケイの言葉に、私以外の全員がうなずいた。


「どうでしょうか? クロウ殿とその鎧であれば、難なくこなせるかと思いますが」


 そうだね。

 危険行為とかいっても、闘技大会よりは全然マシだと思う。

 他にあてもないし、やってみようかな。


「わかりました。私でよければ、警備兵をやらせてください」


 私がそう言って頭を下げると、それまでずっと黙っていたウェナがジュリアさんの前に進み出た。


「私も、参加、できるでしょうか」

「ウェナ?」

「主君にだけ働かせて、従者が働かないわけには、いきません。闘技大会への参加が、許されないのなら、これだけでも、やらせてください」

「むー」


 そう言われるとなあ。

 下手にダメって言ったとして、私が警備で見てない間にこっそり闘技大会に参加されたら困る。

 ジュリアさんは少し驚いたような顔をしたが、しばらくウェナを黙って見つめた後、小さくうなずいた。


「魔力量は十分過ぎるくらいですね。ですが、その幼い見た目から、あなたを下に見るような不心得者もいるでしょう。そういった者を相手に、やりすぎず対処できますか?」

「できます」

「クロウ殿?」

「わかりました。もし可能なら、ウェナも一緒にお願いします」

「ええ。大丈夫ですよ」


 受付さんが持っていた書類に私たちの名前を書き込んで、ジュリアさんがそこに自分のサインを加えた。


「この書類を闘技大会の会場受付に持って行ってください。臨時の警備兵として受け入れてくれるでしょう」

「すみません、なにからなにまで。本当に助かります」

「いえいえ。これくらいならお安い御用ですよ」


 ジュリアさんから書類を手渡されて、私は深く頭を下げた。

 予定は変わったけど、これで少しはお金が稼げそうだ。

 あとは空いた時間で、今後になにかできるお仕事がないか探してみよう。

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