第25話 エクサに到着できました。

 門の右側、外壁の一部と一体化した守備隊の詰め所に近づくと、そこでも行列ができていた。

 さっきまで一緒にいた、盗品を持ち帰ってきた馬車の列だ。

 先頭では、馬から降りたジュリアさんが守備兵の人たちに指示を出してるみたい。


「ああ、クロウ殿」


 私に気づいたジュリアさんがこちらを見る。


「そちらは、お連れの方ですか? 盗賊のアジトにはいなかったようですが」

「はい。このエクサで合流する予定だった、ウェナとケイです」

「なるほど。ではお二人もご一緒にこちらへどうぞ」


 門に立っていた守備兵さんが、詰め所の扉を開けてくれた。

 ジュリアさんが先に入っていって、私たちも後に続く。


「どうぞ、おかけください」


 そう言って、空いているテーブルにジュリアさんが座った。

 この部屋のテーブルやイスとかは守備兵さんが鎧を着たまま使っていて、すごく頑丈そうだ。

 私もイスに座ったけど、前の村の酒場みたいに壊れそうにはならなかった。

 ちょっとミシってきしむ音が聞こえたけど。


「都市への入場手続きもここで行いましょう。今は闘技大会の前で人の出入りが多くて、手続きに時間がかかってますからね」

「あ、それは助かります」


 外の行列、けっこう長かったからなあ。


「後ろのお二人は、もう手続きは済ませていますか?」

「はい」

「入場札も持ってるよ」


 ウェナとケイが、それぞれ一枚の板を取り出してジュリアさんに見せた。

 木の板の中央に緑色の小さな石が埋め込まれていて、下のほうには六角形のマークがある。

 そういえば、この六角形はエクサのお祭りのチラシにもついてたマークだ。

 この街のシンボルなんだろうか。


「ありがとうございます。それでは手続きはクロウ殿のみで大丈夫そうですね」


 ジュリアさんがうなずいて、私のほうを見た。


「まず、独立都市エクサへのお越しの目的はなんでしょうか」

「えーっと、こちらの募集に参加しようと思いまして」


 荷物からエクサのお祭りのチラシを取り出して見せると、ジュリアさんが納得したようにうなずいた。


「なるほど、闘技大会ですね」

「いえ、防壁補修のお仕事のほうです」

「あら」


 ジュリアさんが意外そうな顔をする。

 やっぱりこんなすごい鎧を着てると、闘技大会目当てに見えるんだろうか。


「それでは、滞在期間はその仕事が終わるまでで?」

「この街で他のお仕事も探そうと思ってます。けど、他のお仕事が見つからなければ、そうなるかも」


 節約すればけっこう貯金できるだろうけど、たぶんこれだけだと目標金額まではいかないしね。


「ふーむ。そうなると、最低でも防壁補修の予定期間である半年以上ということですね」


 ジュリアさんの反応が悪くて、少し心配になる。


「はい。あの、問題ありそうでしょうか。長期滞在はできないとか、お金がかかるとか」

「いえいえ、そういうわけではないのです。街には外周区画なら無料で入れますし。ただ、この仕事は多くの人員が集まっていて、まだ募集枠に余裕があるかわからないのです」

「そうなんですか!?」

「部署が違うので、正確なところは役所に行かないとわからないんですけどね」


 油断してた。

 エクサは予想以上に大きくて防壁の規模もすごかったから、ずっと募集してるものだと思い込んでた。


「急いだほうがいいでしょう。都市への入場は私の判断で許可します。この通行証をお持ちください」


 ジュリアさんが机の引き出しから木の板を取り出した。

 ウェナやケイが持ってるのと同じで、緑の石と六角形のマークがついてる。


「街の外に出る際には通行証を門番に見せてもらえれば無料で通行できます。ただし紛失したら罰金で銀貨五枚をいただきますのでお気をつけて。また、その通行証で入場できるのはこの街の外周の区画までです」

「わかりました。ありがとうございます」

「私としてもクロウ殿には恩がありますし、直接ご案内したいところですが」


 そう言って、ジュリアさんがちらっと後ろを見る。

 いつの間にか、彼女を待っている兵士がそこに立っていた。


「すぐには動けなさそうですね。後から追いかけますので、先に防壁補修の人員管理をしている役所に行っていただけますか」


 ジュリアさんは立ち上がると、私たちが入ってきたところと逆側にある扉を開けた。


「役所はここから街に入って右手を進んだところの、城壁に面した建物です。入り口には大きな看板が出ていますから、すぐにわかるでしょう」

「わかりました!」

「謝礼についても後ほどお話したいので、結果がどうあれ役所の入り口あたりでお待ちください」

「すみません、なにからなにまで。ウェナ、ケイ、行ける?」

「はい」

「はーいはい」


 私は扉を抜けると、二人を連れて走り出したかった。

 だけど人通りの多さと、自分の鎧のうるさい足音にびっくりして、ゆっくりめに走ることにした。

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