第21話 あやしいところに運ばれたっぽいです。
「ここ、どこ?」
≪わからん。俺も寝てたしな≫
王様がそっけない。
まあ、少なくとも馬車が通るような街道じゃないわけで。
「襲われたときに車を急発進させたのが運送屋さんの人なら、ここはどこかの街にある運送屋さんの倉庫なんだろうけど」
≪おいおい。運送屋が商品をこんな雑に扱うわけがないだろう≫
「だよねえ」
現実逃避したかったけど、すぐにギド王から否定のツッコミがはいってしまう。
「じゃあ、ここはいわゆる、盗賊たちのアジト?」
≪だろうな。車ごと盗賊に乗っ取られて、ここに運ばれてきたわけだ≫
「うう、また頭が痛くなってきた。熱あるかも」
≪なら、ここで寝るか? そのうち盗賊たちが集まってきて、やさしく看病してくれるかもしれんぞ≫
「そんなわけないよ……」
容赦ない王様の言葉に、私は肩を落とすしかできなかった。
しょうがない。
盗賊さんたちが戻ってくる前にここから離れよう。
私は座りたがっている自分の足を叩いて、歩き始めた。
ぱっと見たところでは、出口っぽいのは一か所だけだ。
扉は引き開けるもので、半開きになっている。
さっきの男の人たちが逃げていったほうだ。
私は、緊張で自分の身体が汗ばんできているのに気づいた。
「この扉は、アジトの奥につながっているのかな」
≪行ってみなけりゃわからんだろ。出口かもしれん≫
「盗賊さんたちには会いたくないけどなぁ」
≪ま、覚悟はしておけ≫
扉からそっと顔を出してみる。
幸い、見える範囲には誰もいない。
私はそのまま、静かな通路へと足を踏み出した。
どこまでも続きそうな、扉も分岐もない一本道。
といっても自然の洞窟らしく曲がりくねっていて、上り下りもある。
私は曲がり角のたびに立ち止まり、陰に盗賊がいないかどうかこっそりと顔だけ出してのぞき、確かめた。
たまに立ち止まって耳をすましてみたりもするけど、聞こえるのは自分の息と、壁に点けられたランタンの油が燃える、チリチリという音だけ。
前に読んだ物語だと、曲がり角の先に鏡を出して先を確認するシーンがあったなあ。
だけど、今は鏡なんて持っていない。
日本からこの世界に来た時に持ってた鏡は、もう売っちゃった。
その代金で胸当てとか槍とか、日用品とかを揃えられたんだけど。
この世界だと鏡って値段がそこそこするんだよね。
そんなことも考えながらしばらく進んだけど、不規則に曲がる道はまだ続くみたいだ。
「ギド王、まだ起きていられる?」
≪ああ。そろそろ眠いけどな≫
すぐに返ってくる返事に、ちょっと安心する。
「ごめんなさい、やっぱり怖くて。できれば、話し相手になって?」
≪おいおい≫
「だって。いつ盗賊の人が来るかわからないし、こんな洞窟にも入ったことないもの」
壁も床も、目印になりそうなものはなにもない。
一本道だからよかったけど、ここが分かれ道だらけの迷宮だったら、絶対に出られないだろうな。
≪まったく。こーんな血の気の少ない使い手はお前が初めてだよ≫
王様の、あきれたような声。
≪お前は、この死鋼の鎧を着てるんだ。盗賊ぐらい楽勝だから、そんなにビクビクするな≫
「これは私の性格なので……」
≪待った。何か聞こえたぞ≫
立ち止まると、私の耳にもなにかが聞こえてきた。
足踏みにも似た、忙しそうなたくさんの音。
それは、角を曲がるたびに大きくなる。
私は槍を両手に持ち直した。歩くペースがちょっと遅くなっちゃう。
これは、複数のなにかが戦い合っている音だ。剣と魔法と、雄叫びのぶつかり合い。
目の前の角から、爆音とともに土煙が立ち上る。
戻りたい。
戻りたいけど、戻ったところでどうにもならないんだよね。
私はそろそろと近づき、角から顔を出してみた。
そのとたん、熱い空気と怒鳴り声が私の顔を叩いた。
そこでは、たくさんの人影が、二つの団体に分かれて戦い合っていた。
さっきの物置きぐらいの広さの中で、様々な種族が、互いに武器を振りまわしている。
「な……、なんで、こんなところで戦いなんてやってるの?」
戦場の真横に出くわした私は、血しぶきと叫び声に圧倒されていた。
足が震えて、まともに動いてくれない。
≪おーおー。久々の
「な、なに言って……」
≪ぱっと見て、戦況は五分五分ってとこだな。やっぱり戦いってのは、こういう正面からのぶつかり合いが一番だ≫
ギド王の場違いに嬉しそうな声のおかげか、緊張でガチガチに固まってた私の身体から少し力が抜けた。
≪で、どっちにつく?≫
「どっちって。まさか、これに混ざる気?」
生き生きした口調のギド王とは反対に、私はすっかり逃げ腰で。
≪ここにいる以上、なにもしなくても巻き込まれるさ。ほら、左側の指揮官らしい女がこっちに気づいたぞ≫
私から見て左の軍団の中央にいる、立派な鎧や兜を身につけた騎士っぽい女性がこっちを見ている。
その人が持つ剣の数は、六本。
何かおかしいと思ってよく見てみると、その人は肩から腕が三本ずつ、両肩あわせて六本の腕が生えていた。
仏像の、
そして、それぞれの手に一本ずつの剣を持っている。
あんなたくさんの手にバラバラの武器を持って、ちゃんと動かせるんだろうか。
私だったら両手二本でもバラバラに動かす自信ないけど。
「あそこの鎧は何者だ? 奴らの仲間か?」
その女騎士さんが、持ってる剣の一本をこっちに向けた。
「え、いやその」
でも私はどうしていいかわからなくて、その場から動けなかった。
≪あの六本腕の女がいるほうは武装がそろってるし、動きが統率されてるな。どこかの組織に属する兵士団かもしれん≫
「それじゃあ盗賊じゃなさそうかな? あっちの人たちのほうに行ったほうがいいの?」
≪いや、こんな戦いの真っ最中に素性の知れない者が近づいても迎撃されるだけだ。こういう戦場でどっちかの味方につくなら、そいつが敵対してるほうに殴りかかるのがいいな≫
「そんなこと、いきなりできるわけないじゃない!」
≪どっちに味方するにせよ、両方を見て判断するんだ。反対側のほうも見てみな。指揮しているやつがいるはずだ≫
ギド王に言われて、女騎士っぽい人と戦ってる相手側のほうを見てみる。
その団体の一番奥に、偉そうに腕組みをして戦いを眺めている人がいた。
額に大きな古傷があって、目つきが怖い感じだ。
その人に、ぼさぼさ頭の男の人が近づいて叫んだ。
「お
あー。
あのぼさぼさ頭の人、見覚えがあると思ったらさっきの物置きで私から逃げ出した人だ。
古傷の男の人が、私と六本腕の女騎士さんを交互に見比べる。
「お頭って、言ってたよね」
≪あの傷の男が盗賊のボスだな。わかりやすい呼び方で助かるよ≫
お頭の人が、周囲の盗賊を怒鳴りつけた。
「出口を固めるんだ、先にあの鎧を殺せ!」
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