第2話魔法力ー入学式

リラちゃんと自己紹介を軽くして、互いに荷ほどきを始める。


「フラちゃん、に、荷物少ない、んだね」

「荷物?…あぁ。違うよ、リラちゃんと同じくらい」

「え?誰かに持ってきてもらうの?」

「ううん。それも違くて…えい!」


肩にかけておいたカバンから【ステッキ】を取り出し、窓のそばに行って自分の影を軽く叩く。

すると


「う、うわぁ!な、なんか出てきた!」


うにょうにょ、と影から黒い人の形が出てきて、大きなトランクケースを私に渡してくれる。


「ありがとう」


その人型をもう一度【ステッキ】で叩くと、出てきたときのように、うにょうにょ、と影の中に戻っていく。

やがて私の影の輪郭も揺らぎを抑え、元の形に戻る。


「…ふ、フラちゃん!い、今の、な、なぁに!?」

「え?私の魔法力だけど…」

「す、すごいよ!く、空間魔法力みたい!なんで、き、貴族の塔に行かないの?」


茶色の少し長めの髪を揺らしながら、目を輝かせ、そう聞いてくるリラちゃん。


「うーん…審査書に一応実技志望って書いたんだけど、スルーされちゃったみたいで」

「え〜…も、もったいない…」

「良いんだよ。こっちの方が気楽だし、リラちゃんと会えたし。ね?」


しょんぼりとするリラちゃんに、そう笑顔で言えば、ハッとしたような顔をした後


「そ、そうだね」


と控えめに笑った。


「…いいなぁ、フラちゃんは。人に役立てる魔法力で」

「?…リラちゃんはの魔法力は?」

「私、は…」


『カーンカーンカーン』


「「あ」」


リラちゃんが言いづらそうにしていると、鐘が鳴る。

入学式がそろそろ始まるみたいだ。


「ごめんね、リラちゃん。無理に話さなくて良いよ」

「…うん。い、いつかちゃんと話す、から」

「!…わかった!じゃあ、入学式に行こっか!」

「う、うん!」


門を通った時に渡された、王立魔法学園の校章代わりの青いリボンを首元にゆるく結び、部屋を出る。


他の子達に混ざり、入学式が行われる広場へと向かった。



___♧☆♧___


ー【広場】ー


『カーン…カーン…』


鐘の揺れがゆっくりになり、音の感覚も長くなる。


「わぁ…綺麗…」

「そうだねぇ…」


広場は思っていたよりもとても広く、今年の入学生の150人程と、在校生、教員700人程が集まっても、まだ余裕があった。

そして、それよりも目を引くのが


「バラ、多い…」


目の前に広がるバラの庭園だった。


「そ、そういえば、フラちゃんのクリスタル、も、バラの形だよね」


庭園に見惚れていたのが恥ずかしいのか、リラちゃんが微笑みながらそう聞いてくる。


【クリスタル】、【ステッキ】。

それはこの世界で魔法を使うには欠かせないもの。

ステッキは魔力を流すための道具。そしてクリスタルはその魔力を集め、魔法として放出するためのもの。

クリスタルはそれぞれの魔法力や、好みにより形や色が違う。


私は青いバラの形のクリスタル。ステッキは銀色で、蔦をイメージした模様を彫っている。

リラちゃんは…ステッキの色は私と同じだ。長さも同じくらい。クリスタルは紫色で、よく絵に描かれるダイヤモンドの形だ。

それ以外は装飾がないシンプルな作りだ。


「リラちゃんのステッキも綺麗だよね。」

「あ、ありがとう、フラちゃん」


『カラーン、カラーン、カラーン』


「「!」」


今までとは違う音の鐘が鳴る。

ふと、庭園の方をむけば、いつ置いたのか大きな台が置いてあった。

そこに上ってきたのは


『これより、第90回王立魔法学園入学式を始める』


白髪白髭。ザ・お爺ちゃんと言われる様な人だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る