第7話 とけて黒へ

ポクポクポク……

木魚なんて久しぶりに聞いたかもしれない。ましてや、こんな知り合い程度の僕がお葬式に出てきちんと座っていることが違和感しかない。

普段仕事で立って歩いて、帰ってきても洗濯物やら何やらでせかせか動いている。座ることはほとんどない。ましてや正座。


はっ。


……ゆ、夢……?

夢か……脳がとけてグルグルのマーブルみたいになって、嫌な夢が黒く底の方に沈んでいく。


ーーー

「見てて。」

そう笑って海にずぶずぶ入っていく。

足を重たくずり、ずり。

ず……

「え、霧ちゃ……。」

遊んでいるというよりはどんどん中に入っていく。ついには、腰を通り過ぎてお腹辺りまで海に浸かっている。

ーまさか

「霧ちゃん!それ以上は死んじゃうよ!」

急いで追いかけて止めようとする。

「くそっ……。」

砂が重たくてゆっくりしか足が動かない。

更に声をかけようとした時、くるっと唐突に振り返る。

「てんちょ。」

「……え、うん。霧ちゃんこのままじゃ、しん……。」

赤ーー

髪の毛も、ワンピースも、顔も真っ赤に照らされて、涙だけが太陽の光を全て取り込んでプリズムになっている。

「てんちょ……、やっぱり、死ぬ勇気なんてない。」

「そんな勇気。」

いらないから。

「私やっぱり……黒くなれない。赤は、黒の1部だよ。だから、黒くなれるの、性質的には。」

全ての色が混ざると黒くなる。あれ、グレーだっけ。

「黒くなれなくて、辛い……。」

涙を誤魔化すようにへへっと笑う。

ぐらっとバランスを崩して夕日の後光に照らされていた霧ちゃんが90度傾いて海に打ち身をする。

「ふぉ!?き、霧ちゃん!」

急いで抱き上げると目を大きくして固まっている。


「しっ死ぬかと思った……。」


その一言で俺は思わず吹き出した。


ほんとは死にたくなんか、全然なかったんじゃないか。

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