第6話

「付き合おうよ。」

長い赤信号で言い出した。

「いいよ。」

「……いいの!?」

「断って欲しくて言ったの?」

「違うけど。」

そう不満そうな顔をされても困ってしまう。

苦しそうな霧ちゃんを見ているとこちらも苦しい。そういうものではないのだろうか。

「この信号さ、長いよね、嫌になっちゃうでしょ、霧ちゃんみたいなせっかちは。」

「やだせっかちだなんて。間違ってないけど。」

全然話さないと思ったら切り出して窓の外を遠く見る。

ほんとはね、苦しいことから逃げてるだけ。俺の事なんて好きになれないよこの子は。それに気づいているのに、いいよと即答してしまったのは。

「夏のさ……暑い時に、辛いものを食べたりするじゃん。」

「ん?うん。」

「あの気持ちが分からなくて。氷が欲しくなるじゃん。」

「え、比喩の話?」

「比喩の話。正直に言うとね、苦しいだけなの。自分のことを……。」

「言わなくていいよ。わかってる。」


最初に俺が差し出した手をぎゅっと握っている。

「……、霧ちゃんは後悔しない?」

「自分の罪に対して正当に評価してるの。どんなときも。」

たまに難しい言い方をする。最近はもっとそう。馬鹿な俺は一瞬何を言ってるんだろう?と思ってしまう。

一生懸命理解してついて行こうとしているのがバレないように、一旦、そうなんだね?って毎回言うようにしている。

「恥ずかしい。」

「何が?」

「全部。」

そうかと思えば全部、とか大雑把なことを言う。

「信頼することって、怖い。」

ぼそっと言う時は本音。

わかってきた。

「私は分かりにくいから理解しようとなんてしなくていいよ。」


笑って。


一瞬俺より年上に見えてしまった。


その嘘っぽい口角のあげ方は誰から習ったか。


「着くね。」

海に来た。

ここに来たいと言ったのは霧ちゃんだ。

「霧ちゃん、9月だけど、もう寒いと思うしクラゲとかに気をつけて入るのはやめるんだよ。」

「さされればいいよ。」


ーーえ。


「見てて。」


そう言って心から笑った霧ちゃんを見たのが最後だった。

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