第5話 クラく 照らして
暖かい記憶だけで終われたら良かった。
姉さんのこと、シナのこと、なんならいがしのことも。
みんなが思いのまま生きて、それが良しとされて、哀しい目の人がいなくて。
姉さんはどう思ってる?俺と体を重ねたこと。
そう率直に聞いてみると、とんでもない答えが返ってきた。
え、別に。
やめてよ。こんなときまで口癖だすの。
「え、だってそれしかない。」
シナ、君の恋人はこんなにも強くて弱くて、フツウの女の子だよ?
なんで、手放してしまったのか。
「あいつと別れたのは……、知ってたから。ホントのこと。」
「……は?知ってたって。」
雨がポツポツ降り出す。こんなときまで、
天は姉さんを惨めにしようと策略している。
最初はそう思っていた。
「ホントは……気づいてたの。この人が絶対浮気をするって。」
「何か見えるの?そういうものが。」
「やだな、そんな超能力的なものじゃなくてさ。」
全然話さない。知ってたって知ったかぶり?
「煮卵ラーメンって、美味しいんだよ。」
「えっ……知ってるけど。」
「そのレシピを知らなかった。」
何を言っているのか全然わからない。むしろ退屈に思える偉人の小説並みだった。
知らなかったとかそういう全ての声が姉さんの声をかき消している。
「……雨が強くなってきたよ。帰らないと風邪引く。さようなら。」
「え、ねえ。姉さんに会える機会は少ないしもう会えないかもしれないんだ。教えてよ。シナのことも姉さんのことも。姉さんは僕にとって少なくとも……。」
雨は強さを増す。濡れた姉さんはもっと強く見えて綺麗になる。
言いたいことを隠して、目を光らせる雨は、天が惨めにしているんじゃなくて、どんどん雨に濡れても訴え続ける姉さんをより強くしているように見えた。
「やめてよ見苦しい。」
ミグルシイ。
え、見苦しい?
そう言い放つ。
「私は……、私が自分が楽するために縋ったことに苦しめられたただけだよ。」
ーーあ
「……わかった。」
姉さんの最後の一言は1番難しくて一瞬理解できなかったけど。
「シナとはもう会わない?」
去っていく。密かに口角を上げただけで。
その角度とか目の哀しさがシナにそっくりで、
ーーただ僕は
「ね、姉さん!」
聞こえていないフリをして駐車場の車に乗り込む。隣には男の人が乗っている。その男の人は、見たことある大きな背中に見えた。
そこから姉さんがどうなったかは僕は何も知らない。
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