第2話 別々の個体
「……。」
霧ちゃんが1週間ぶりにお店に来てくれたのはいいが様子が明らかにおかしい。
「何。」
「いや、今日はビールいいのかなって。」
「いらない。私、もう飲む理由がないの。」
「え。」
哀れんでいる風に思われないようにいつもと同じ感じで話しているつもりだったのだが、霧ちゃんの方からそういう話になっている。
「欲望満たしてるだけでしょ?私のことも本気じゃなかったんだよ向こうは。それならさ、本能に従うのは普通じゃない?」
「何言ってるの。普通じゃないよ。」
あのね。
霧ちゃん。
本当に可哀想。
「霧ちゃん、目を覚まして。」
「何が。」
目が死んでるっていうのはこういう事だと思う。
今回なんて黒を頼んで煮卵を追加している。
「正直、浮気は許されると思っている。昔は正室と側室がいたわけで。なんなら乳母とか遊女とかさ。だから別に。」
あの男と同じメニューなんて。
「霧ちゃん聞いて。」
「私がっ遊女だっただけじゃん、それってさ、別に悪いことじゃないと思うんだー。」
「霧ちゃん!」
「……大きい声出さないでよ。」
急に涙を流し出す。
「ごっごめん。」
霧ちゃんの涙を久しぶりに見て動揺する。
「……ねえ、爪噛むのよくないよ。」
「うん。」
うんじゃなくて。
「霧ちゃん、ほんとは浮気とか許してないよ。」
「なんで。いいって言ってる。」
「そんなの口だけだよ。」
「何よ、私の気持ちなんて私にしか。」
ラーメンが冷めそう。
「とりあえず食べな?それからだよ。」
「はい。」
大人しくビールなしで初めて黒をすすっている。
「美味しい。悔しい。美味しい。」
悔しいくらいに?そんなに?
ーーー
「今の霧ちゃんは心と体がバラバラだよ。」
「そんなことない。」
「そう言うなら今すぐ元気だしてよ。ほら、浮気を認めてるなら笑ってよ。"別に''なんて言わずにいいって言ってよ。」
「……。」
「何、言えないの。」
意地悪をし過ぎるのはよくないけど。
「すればいい。」
強い目で言う。意固地だ。
「霧ちゃん、俺が妻がいるって言ったら。この間エッチしたの、どう言うの?俺の妻に。」
「え!?て、店長結婚してないって!!」
嘘だ。してない。
「……。」
この沈黙で霧ちゃんも察する。
「ひどい……私が浮気を許してなくて焦ってるの見て笑ってるんでしょ。」
「笑わないよ。」
ただ。
「霧ちゃん、浮気を許すなんて嘘、もう言わないで。」
霧ちゃんはただ俯くだけだった。
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