ゆうえんち 4
それからも、ぐるぐると遊園地を周り出店を楽しみ美味しいものを食べ、時には同じ店を回ったり・・・博士と助手は今日のこの日を心から楽しんだ。
お祭りはお開きの時間となり、広場では博士が閉会式のスピーチを読み上げていた。
フレンズ達にしては皆静かに聞き入っているようで、博士の原稿・・・もとい台本とやらの中身がよほど優秀だったのかと助手は少し意外そうに苦笑していた。
そして、流石に疲れたので祭の喧噪から少し離れようと裏道を歩くと、小さな花庭園があった。春の花が色とりどりに咲き並び、それがイルミネーションで照らされて・・・とても幻想的な光景だった。
そこでようやく助手は、会うべき二人に出会う。
「さっきのステージかっこよかったです」
ぱちぱち、と小さな拍手の音に振り返ると・・・そこにいた。
この物語の始まりからを思うと、どれだけその顔を見ていなかっただろうか・・・。
・・・この世界の起点、かばんがそこに立っていた。
「二人共キラキラしててすごかったー!ペパプにだって負けてなかったよ!」
そして、始まりから終わりまでを悲しみで終えてしまうはずのサーバルも、地震の前の頃の笑顔でそこにいた。
「お前達が出てきたということは、もうこのお祭りも本当に終わりなのですね」
「どうでしたか?今日のお祭りは」
「ええ、楽しかったのですよ。こんな物語も・・・きっとどこかにあったのでしょうね。・・・舞台の上の今ここにいるお前ではないでしょうが、こんな物語を見せてくれてありがとうなのですよ。お礼を言うのですよ、かばん」
「ここはとても素敵な世界です。でも・・・それは目に見えていないだけで・・・」
「ええ。私があの繰り返しの中で望んだ主な者達は救われているようですが、・・・地震は起きている。ならば悲しみも、いえ明確に「死」も起きているはずなのです。でもその上にできたのがこんなにも幸せな世界なのなら・・・」
誰かの悲しい物語はいらない、じゃない。
「助手さん、あれを」
かばんが指さす方には・・・観覧車があった。
「本来は、ジャパリパークはゆるやかに終わりを迎えていくはずだったんです。でも・・・そこにある起点が生まれたんです。そしてそれが多くのヒトの目に触れた。それをきっかけに本当に沢山の物語達が生まれました。そして今でもヒトの世界で物語は生まれ続けています。その中には楽しい物語もあれば、悲しい物語も沢山あるんです」
助手は、最初はその起点があの大地震だと思っていた。
だから大地震が起きない物語であれば、それが不幸の無い世界なのだと。
でも・・・今の助手ならそうじゃないとわかる。
起きてしまったことが悲しみそのものではないこと。
繋がり、温かさを知ったからこそ、起きたことへの悲しみが生まれるのだと。
「でもその子がね、みんなを繋いでくれたから。私はみんなと会えたんだよ、もちろん博士や助手とも」
サーバルが言う”みんな”を助手が思い浮かべる。
きっと・・・同じような”みんな”なのだろうと、自分でも驚く程自然に納得できたことが嬉しくて、小さく頷いてから微笑んだ。
「きっと・・・今でも博士と二人のままだったのなら、私は生まれなかったのでしょうね」
「誰よりもヒトに近くなったあなたなら、きっと選ぶ権利があると思います。だから・・・行ってください、全ての始まりの場所へ」
観覧車への道を開けるようにかばんが横へ反れると、助手は躊躇うことなくまっすぐ歩き始めた。
そのまま過ぎ去ろうと思ったが、途中で隣にいるサーバルがにこにこと笑ってかばんの手を繋いでいる姿が不思議で、助手はつい立ち止まって聞いた。
「サーバル、怖くないのですか。私がどっちの選択をするのかを、そしてその片方がどういう意味を持つのか」
「うん!怖くないよ。だって、私とかばんちゃんはずっと一緒だから!」
「ふっ、ははは・・・バカなことを聞きました」
助手は今度こそ、始まりの場所へ、そしてこの物語の終わりへ向かって歩き出した。
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